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正解は吹奏楽部

 私が運営する「AND BOOKS」のお客さんのコア層は20~30代の若い人だ。若くても他者への配慮など場の空気が読める人が多く、店を運営する上でとても助かっている。
 そんなお客さんたちに高校時代に入っていた部活動を聞くと、文化系部活動出身者が多い。硬式野球やサッカーなどの花形運動部の人もいるが、当店では少数派だ。中には「一刻も早く帰って自室で筋トレをしていた」とか「夕方に再放送していた水戸黄門を欠かさず観ていた」とかの個性的な帰宅部もいた。
 文化系部活動の中でも最大派閥を形成するのが吹奏楽部だ。聞けばその多くは現在も市民楽団に所属していて、現役で楽器と音楽を楽しんでいるのだそう。それってとても楽しそうで、正直に言ってうらやましい。
 私はずっと世界最大勢力のサッカー部だった。大人になってからも社会人チームに入っていたが、この店を始めてからは怪我をして営業できなくなることを恐れて参加しておらず、今では完全な幽霊部員だ。
 そこで吹奏楽。怪我のリスクはなく、年齢に関係なくいつまでもプレイできる。なんなら年齢を重ねるとともに音に円熟味が増していくのだろう(知らんけど)。
 彼らは毎週のように集まって練習しているという。大会後など節目には酒の席もあるらしい。やはり楽しそうだ。さらにいうと男女の隔てがない吹奏楽だから、時には楽団内で恋も生まれちゃうらしい。何かを続けていく上で異性への意識はとても大切な要素で、技術や精神面を成長させてくれる最良のスパイスなのだ(知らんけど)。
 集まって練習とか、大会とか、恋とか、形成する要素は完全に部活動のそれだ。部活動とは青春の代名詞なのだから、聞く話全てがキラキラと眩しく、いつかマネージャーが作ってくれた、はちみつ漬けにした輪切りレモンのように甘酸っぱい。私はというと、とうの昔に〈青春〉を消費して失い、その代わりに今は〈清酒〉を補給する日々だから、一生楽器と付き合っていける吹奏楽部に入っていれば良かったと今さらながら思うのだ。何か継続して打ち込めるものがある人生は素晴らしいだろう。
 誰が言ったか「人生に遅すぎることはない」「50、80喜んで」。よし、楽器を始めよう。お客さんには多種多様な楽器経験者がいるのだから、いっそバンドを組もうか。バンド名は店名をもじって「BAND BOOKS」だ。とてもダサいがそれが逆に良い。東京スカパラダイスオーケストラのように管楽器を前面に押し出して、スーツスタイルのかっこいいバンドにしよう。まずい、太ってしまって着れるスーツはウエストにアジャスターが付いた喪服しかない。これは単純にダサい。楽器のついでにスーツも買おう。サラリーマン風のワイシャツしかないから、かっこいいシャツも買いたい。おしゃ
れは足元からなのだから、革靴も新調しなければなるまい。
 と、活発な脳内活動をしていて思い出した。今年の目標に「無駄遣いをしない」と先月決めたばかりだったぜ。

デーリー東北新聞社提供
2023年2月15日紙面「ふみづくえ」掲載

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