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内向型の気質に寄り添う、”翳り”のリーダーシップ開発を目指して/株式会社HINOE 矢本洋介さん【インタビュー:後半】
前半は、株式会社HINOEを立ち上げた経緯や矢本さんのご経験、そしてHINOEの軸である《内向型》に注目するきっかけなどをお聞きしました。
後半は、矢本さんが目指すリーダーシップのあり方とHINOEのビジョンについてお話しいただきました。
最適なリーダーシップを発揮するための「シェアドリーダーシップ」という考え方
ーー内向型と外向型の強みを踏まえ、その個人差について矢本さんはどのように考慮されていますか?
矢本:内向・外向は尺度の話なので、ビジネスでも普段の生活でも内向・外向性が発揮されるタイミングがそれぞれあるように、仕事も組織も日々形を変えている。その中で、僕はその時々の最適なリーダーシップが発揮されることが良いと思っています。
これは立教大学の石川先生が言っている「シェアドリーダーシップ」(一人ひとりがリーダーシップを発揮し、その影響力が、複数のチームメンバーによって担われている創発的なチーム状態を指す。)という考え方に近いのですが、このテーマについてはこの人がリーダーシップを発揮して、その間残りの方はフォロワーという役を担うというものです。
それと同じで、ある場面では外向型の突破力やリスクを取る力、力強く周囲を鼓舞する力を借りよう、でもまたある場面では俯瞰して何が本質なのか、どこがクリティカルな点なのかを考えて、傾聴しながらエンカレッジするのも必要だと思います。そこで発揮される「内向型のシェアドリーダーシップ」もあると思うので、色んなタイミングにおいて最適な方がリーダーシップを発揮できるようなヒントを組織が得られるといいなと思っています。
当然、人によって、もしくは経験や置かれている立場で変わることなので、「私は内向的だから一生内向的」ではなく、変化もあることを見据えながらやっていけるとリスクが減ると思います。
ーーリーダーは他者を巻き込むことになると思いますが、株式会社HINOEでは、リーダー以外のメンバーに対しても関わっていくのでしょうか?チームのメンバーにどのように着目するのかが気になります。
矢本:リーダーシップは全員が発揮するもので、経営インパクトを出すための手段だと思います。チームの目標達成のために他者に働きかけて、他者が動くことで成果につながる。だから、リーダーでもマネージャーでも、新入社員が発揮してもいいと思うんですよね。
ただ、働きかけが機能しなければそのリーダーシップは良くなかったということになるかもしれないし、働きかけが成功して結果が出ればそのリーダーシップは良かったとなる。外向型の働きかけで人が動いていくこともあるし、内向型のリーダーシップを通じて心が動かされる人もいると思います。それが何なのかを探求するのがHINOEのミッションだと思っています。
これは僕の考えですが、外向的な人はすごく魅力的な人が多いかもしれません。お話も上手だし巻き込むのも上手だしエネルギー量も高い、しかもそれが目に見えてわかりやすい。一方で、内向型は自身の魅力に気づくのに少し時間がかかるかもしれない。
ただ、内向型のリーダーが関わることで、周囲が自分の魅力に気づかせてくれる側面があるとしたら、それはすごく重要だと思う。実際、マネジメントにおいては内向型のリーダーの方が成果が出るという研究もあるんです。
外向的な方は自分が喋ってしまったり、メンバーの意見を聞いているようで自分が言いたいことを通してしまうかもしれないけど、内向型のリーダーは傾聴したり、深掘りしたり、相手を引き立てる。
結果としてメンバーが言いたいことを言えて、その意見が承認されて物事が進むことで、一人のカリスマリーダーが決めるよりも高い成果につながることがあるという研究もあるので、リーダーシップはいろんな形があってしかるべきだし、日本には内向型のリーダーシップという考えは割とフィットすると思っています。
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「強く、美しく、オーセンティックに」一人一人の持ち味を活かせるように
ーーリーダーシップとは、一人のリーダーが他のメンバーに対して一方向的に力を発揮していくようなイメージを持っていたのですが、様々な形のリーダーシップがあるということ聞いて、リーダーシップの固定観念が崩れました。
矢本:リーダーシップという言葉に対する先入観は色んな人が持っていると思うんですよね。場合によっては、少年ジャンプの主人公みたいなヒーローを想像するかもしれない。そういったリーダーシップが結果に結びつくこともあるけど、そのキャラクターから乖離がある人たちがヒーローになるのは大変なことで、なりたいかというとそれも違うかもしれない。
でも、その人たちも主体性を発揮して全員がリーダーシップを発揮できた方が良いので、一つの形の光イコール太陽みたいな考えは危険だし、マジョリティを置いていくことにもつながりかねない。
僕は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』という本が好きなのですが、日本の美学の底には暗がりと陰りがあるところが深いなと思っています。
元々「丙(ひのえ)」は古代中国で太陽を意味します。太陽の光は道を照らしたり温めたりいろんな効果があるけど、『陰翳礼讃』で描かれている僅かな光みたいなものは日本的、東洋的な光の表現で、西洋の光は真っ白な絢爛豪華一点の汚れもない光だったりするけれど、日本の光の使い方は障子の隙間から滲むような光だったり、一見弱々しいけど暗がりによって引き立てられる光も間違いなく周りを照らすような光だったり。
そういう光のあり方に近いような、内向型のリーダーって多分世の中たくさんいると思っていて、微光でも周りの周りに影響を与えて人が動くのであれば、内向型リーダーシップのインパクトは確実にあるので、内向・外向を分けるのではなく、全てがつながっているのかなというのを大局的に感じているところですね。
ーー矢本さんは、これまでの内向型と外向型の境目をなくすような、新たなアプローチでリーダーシップのあり方を形作っていくことを目指されているのですね。
最後に、株式会社HINOEがこれから目指していきたいことついて教えてください。
矢本:一言で言うと、内向型リーダーシップ探求家の第一人者になるというのが、僕が目指したいところですね。その上で、内向型リーダーシップって何なのか、なぜ効果的なのか?という認知度を上げていく啓蒙活動もしたいです。
また、内向型リーダーシップは日本以外のアジアの国でも親和性がある気がします。現に台湾には、内向型リーダーシップが大事だと言っている著名人もいます。そういった方とコラボレーションして、外向的になるというプレッシャーの中もがいている内向型の人間が、どのように効果的なビジネスパーソンになれるのかについて、もっとグローバルで話をしたいと思っていて、日本からアジアや欧米に出て、広めていきたい。
とはいえ、僕は一人一人、目の前のことを一生懸命頑張ってる方のお手伝いをしたい気持ちがあって、日本でどのくらいビジネスパーソンがいるか分かりませんが、周囲からの期待に応えようと頑張っている人が大勢いると思う。それってすごい尊いことでもあり、結構しんどいことだとも思います。
周りの人ができて当たり前なことが自分は当たり前じゃない。すごくエネルギーがかかることも、その逆もあるかもしれない。その中で、HINOEが探求していることや、HINOEの知見によって気づきを与えられて、少し心が軽くなったり、無理に外向型に合わせるキャリアの選択ではなくて、自分の持ち味とは何か、どう生かすことができるのか、といった自己理解を促進してあげて、一人一人が自分ならではに輝く支援をしていきたいんです。
HINOEのビジョンに「強く、美しく、オーセンティックに」という言葉を掲げているんですけど、「強い」という言葉に対して色んな人が色んな思いを持っていると思います。
自分の持ち味に気づいて、それをいかんなく発揮して人に働きかけて物事が動いている状態をなせるのであれば、内向・外向関係なく、そういう人って「強いし、美しいし、オーセンティック」だなというふうに思うんですよね。これもオーセンティックなのよっていうのを見つけて承認して、そういう人のネットワークを築く助けをしたい。
HINOEは、「人や組織の夜明けに立ち会う。火を灯して夜明けに立ち会う」をミッションにしているのですが、先行きが分からない暗闇を彷徨う中で、一点の光を差し込めるといいなと思っていて。
絶対、夜明けって来るので。夜明けをただ待つのではなく、こういう考え方もあるんだよっていうことを啓蒙しながら、皆でその朝日を拝められるような世界観をもたらしたいというのが、HINOEの目指してるところですね。
(聞き手:榎本歩美)
矢本洋介
株式会社HINOE 代表取締役
ブリティッシュコロンビア大学を卒業後、貿易実務及び医療系人材企業での営業経験を経て、2013年に三井物産人材開発に入社。三井物産グループ階層別研修の企画・講師を務め、本社TOPタレント向け選抜型研修を、米・ハーバードビジネススクールとコラボレーションの元、複数に亘り担当。その後は、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ・人材開発チームに所属し、管理職研修の企画・運営、並びに選抜型・次世代リーダー育成のプロジェクトリーダーを就任。同社退職後は、日本電気株式会社(NEC)にて、タレントマネジメント(次世代経営人材の育成施策立案)を担当する。2023年より、立教大学大学院 経営学研究科 経営学専攻リーダーシップ開発コース 経営学前期博士課程に在籍。株式会社HINOEの創業に至る。