ロジカルウェブ解析術 “「これまでのウェブ解析」と「これからのウェブ解析」”
この記事の目的
この記事の目的は、「ロジカルなウェブ解析術」とはどういうものか、
すなわち、「ロジカルウェブ解析術」を解説することを目的としています。
具体的には、「これまでのウェブ解析」を振り返り、「これからのウェブ解析」を予想することで、ウェブ解析を「ロジカルに進める」とはこういうことだ、という解説を行います。
そしてなんと、この記事の内容も踏まえて、小川卓さん(HAPPY ANALYTICS)、馬場建至さん(電通デジタル)と一緒に、こちらのイベントに登壇させていただきます!(※こちらは2020年10月のイベントです。)
セミナーの詳細はこちらです:
https://www.dentsudigital.co.jp/seminar/form/webinar/20201023.html
この記事では、ウェブ解析業務の振り返りと予想を行う中で、筆者がウェブ解析業務で最も重要な要素だと考える「良質の仮説を高速で出し続ける」ことを中心に据えて、「これまでのウェブ解析と、これからのウェブ解析」というテーマに挑みたいと思います。
1. ウェブ解析にとって大切なのは「良質の仮説を高速で出し続ける」こと
これまでウェブ解析の仕事をさせていただいていて、ウェブサイト改善の現場で一番大事だと感じていることは、「良質の仮説を高速で出し続ける」ことです。Google アナリティクスで緻密に設定を行って、解析を頑張るのも、全てはこのためだと考えています。
図1 「良質の仮説」が「PDCAサイクル」を回す。
「PDCAサイクルが回らない」という悩みも、多くの場合、「良質の仮説を高速で出し続ける」ということがうまくいっていないのが原因だと考えられます。仮説の数自体、なかなか出てこないし(=「量」の問題)、出てきたとしても、CVR(コンバージョン率)に与えるインパクトが小さい仮説だったり(=「質」の問題)、という状況が多々あります。
2. 「仮説生き残り戦」のすすめ
「PDCAサイクルを確実に回す」ためにおすすめしたいのが、「仮説生き残り戦」を毎月繰り返すことです。実際にこの方法は、弊社(and,a株式会社)の複数のお客様で成果が上がっています。この方法は、筆者が20年以上ウェブサイト改善の業務を行ってきた中で、また、弊社の三澤昌平とウェブ改善業務を一緒に進めていく中で、段階的に思いついた方法です。
「仮説生き残り戦」の進め方
図2 「仮説生き残り戦」の進め方
1.毎月10本以上の仮説を立てる(仮説を整理するフォーマットは後述します)。ここでいう「仮説」とは、「ユーザーはこう考えているはずだから、こういうUI改善や機能追加を行った方がいい」といったものです。「こういう仮説が考えられるから、こういう施策を実装した方がいい」という形で、仮説だけではなく、具体的な施策まで考えることがポイントです。
2. 毎月1回「仮説会議」(詳細は後述)を開いて、「どの仮説を採用し、どの仮説は保留にするか」を協議します。ここでいう「採用」とは、ウェブサイトに施策として実装するということを意味する場合もありますが、弊社でおすすめしているのは、「A/Bテストを実施する」ことです。Google オプティマイズは無料版であっても、「ポップアップを出す」「追従型のナビゲーションを表示する」など、「一見すると、面倒な開発が必要ではないかと思われる施策」までA/Bテストとして実装できますので、「本当にその実装はCVRアップにプラスになるのか」ということを、比較的手軽に検証することができます。
3.A/Bテストを行って勝つことができた施策は、本番環境に実装します。では、負けた施策はどうするか。「ブラッシュアップ案」を考えます。これが新たな「仮説」となります。「仮説 → A/Bテストによって得られた新たな知見 → ブラッシュアップして新たな仮説」という流れを作ることも重要です。
図3 負けてもブラッシュアップ
2. 「良質の仮説を高速で出し続ける」具体策:「仮説会議」
Google アナリティクスで解析し、解析レポートを見ながらウェブサイトの改善策を検討する。そこにミックスすることをおすすめしたいのが、「仮説会議」というメニューです。実際に弊社のお客様の中には、月に1回のペースで「仮説会議」を開催していただいているクライアント様が複数おられます。
「仮説会議」の実施にあたって、何か特別なツールが必要なわけではありません。「仮説を整理するためのフォーマット」さえ決まっていれば、後は定期的に開催するのみです。
[ 仮説を整理するためのフォーマット例 ]
図4 仮説会議で必要な[ 仮説を整理するためのフォーマット ]例
1. 仮説の概要(どのような仮説を立てたのかの簡潔な説明)
2. その仮説はウェブサイトのどこで実装するのか(例:「〇〇ページ」のファーストビュー)
3. 仮説を施策に落とすとしたら、どういう施策を具体的に実装するのか(例:「〇〇ページ」のファーストビューに「〇〇〇〇の導線」を設置する)
4. 仮説を施策として実装したら、どのような指標で効果を測定するのか(例:効果測定に使う指標=「〇〇ページ」閲覧者の「登録フォーム」到達率)
5. この施策がCVRなどの上位のKPIに与える影響の大小の予想=「想定効果」は?「大」「中」「小」で予想。「大」が望ましいことは言うまでもないが、たくさんの「大」を生み出すことは難しい。「中」「小」の施策を継続的に行っていくことも重要。
6. この施策を実装するのに「掛かる時間」「開発規模」は?
・掛かる時間:「1か月以内」「2~3か月以内」「3か月以上」
・開発規模:「軽微」「中規模」「大規模」
「掛かる時間」が長く、「開発規模」の大きなものは、簡単には実装できません。しかしそれでも、仮説をどんどん出して、「仮説集」として蓄積していくことで、ウェブサイト リニューアルやサイトのUI(ユーザー・インターフェイス)改善、機能強化を考える際の、貴重な資料になります。
ウェブ改善業務の現場は、経理業務などに比べると異動、転職が多いように思いますので(筆者が見てきた限りでは)、「社内の先人が出した知恵を無駄にしない工夫」が必要です。
3. 「良質な仮説を量産するには?」(これまでのウェブ解析)
これまでのウェブ解析で良質な仮説を量産するには、以下の2つが重要でした。
(1)「カスタム ディメンション」の設定(Google アナリティクスで解析を行う場合についてです。)
ウェブサイトを訪れたユーザーにしっかりセグメントを掛けて分析できるようにするための精緻な「カスタム ディメンション」の設定が重要です。これがなければ、精緻な解析はできないといっても過言ではありません。
図5 カスタムディメンションでユーザーにデータが付与されるイメージ
「カスタム ディメンション」とは、
・「無料会員登録をした会員」
・「初課金済みの会員」
・「2回以上課金済みの会員」
・「クーポンを利用した会員」
など、ユーザーに張り付ける様々な“タグ”のことです。「カスタム ディメンション」を精緻に設定することで、
「初課金はしたが、2回目以降の課金をしていないユーザーは、どういう行動をしているか」
といった細かな分析が可能になり、その結果、仮説を立てやすくなります。
(2) 詳細な競合比較
図6 「競合比較」のアウトプットイメージ 原則として1テーマ=1ページで整理する。たとえば、競合各社の「こんなお悩みはありませんか」のコンテンツを横並びで見せて、コメントを付けて1ページで見せる。
ウェブサイトのUIや機能には、「競合の方が優れていると思われる要素」が必ずあるはずです。競合は何らかの仮説を立てて、その機能を実装しているはずなので、「競合が立てた仮説を想像する」ことによって、自社のウェブサイトのための仮説を立てます。競合比較さえしっかり行えば、「いい仮説が思い浮かばない」という状況はあり得ません。
ECサイトの競合比較を行うのであれば、
・「商品一覧の見せ方」
・「商品詳細の見せ方」
・「カートの見せ方」
・「マイページの見せ方」
・「会員登録フォームの見せ方」
など、それぞれについて競合比較を行います。比較を行うと、必ず、
・「クロスセルのおすすめの仕方がうまい」
・「アップセルへの誘い方がうまい」
など、感心するポイントが見つかるはずです。それらを「パクる」のではなく、「この施策を実装する前段階として、どのような仮説を立てたと思われるか」を自社内で議論することで、仮説の立て方が、どんどんうまくなります。
4. 「良質な仮説を量産するには?」(これからのウェブ解析)
昨年あたりから弊社が新たに行っている「良質な仮説を量産する」ための支援は、一言でいえば、「データ分析基盤」構築支援です。「データ分析基盤」の構築で代表的なものは、下記のような、データの「収集」「蓄積」「分析」「活用」の仕組みを作ることです。
図6 データの蓄積から活用までの流れのイメージ
必要に応じて、機械学習も行います。
上記のようなデータ分析基盤ができるまでは、筆者はどのような解析を行っていたかを振り返ってみます。(実際はこの方法は今でも現役です。)
与件の例:
「将来LTV(ライフ タイム バリュー=「顧客生涯価値」)が高くなる顧客は、会員登録直後の3日間にサイト内でどのような行動をとっていたいたかを調べてほしい。」
このような解析の依頼があると、GAの「ユーザー エクスプローラ」のデータをたとえば100人分取り出して、「将来LTVが高くなる顧客」の特徴を探し出していました。100人分のデータでは足りないと思われるかもしれませんが、BigQueryなどを使って構築した「データ分析基盤」が無いと、手作業で解析できるデータの量はこれくらいが現実的なのです。
図7 Google アナリティクスの「ユーザー エクスプローラー」の画面イメージ。ユーザーひとりひとりの行動を、セッションをまたいで追いかけることができる。
BigQueryを中核とする「データ分析基盤」の構築と機械学習によって、例えば下記のようなテーマで解析を行うことができるようになりました。
・サブスクを解約する人の、解約前1か月間の行動の特徴は?
・あるタイミングで課金額が増えるユーザーの、課金額が増えるまでの行動の特徴は?
・前月に比べて課金額が大幅に減った人の行動の特徴は?
これにより、「仮説を立ててPDCAサイクルを回す」というウェブサイト改善業務の質を大きく向上させることができるようになってきました。こういうことができるようになってきたのは、本当にごく最近の話です。ただし、「データ分析基盤」の構築とその活用について、十分な経験を積んでいる人が、まだまだ少ないのが、ウェブ解析業界の現状です。
今後、ウェブサイト改善の現場で働く人に求められる経験は、
「『データ分析基盤』を使って、仮説を作って施策を試したか。試し続けたか」
これに尽きます。「試す価値があることを、やり続けた」というのが、ウェブ解析の業務経験において価値があるのだと思います。
おわりに
「データ分析基盤」が構築しやすくなってきた最近においても、それ以前の時代においても、冒頭で述べた「良質の仮説を高速で出し続ける」ことこそが、ウェブマーケティング業務の神髄だと筆者は考えています。また、今後においても、BigQueryが活用されるようになる前の時代から行われてきた、「カスタム ディメンションを精緻に設定する」「競合比較を愚直に行う」という姿勢は、忘れてはならないものだと思います。
ウェブ解析で重要なことは、
「ユーザーが何をしてほしいと考えているのか」
をできる限り効率的に把握して、
「こうすればもっとユーザーが喜んでくれるはず、ストレスを感じなくなるはず」という仮説を立てる
ことです。今後はそれを、より効率的に行うことができるようになってくるのだと思います。
最後まで読んでいただいて、ありがとうござました。
この記事の冒頭でも書かせていただきましたが、この記事の内容も踏まえて、小川卓さん(HAPPY ANALYTICS)、馬場建至さん(電通デジタル)と一緒に、こちらのイベントに登壇させていただきます!
セミナーの詳細はこちらです:
https://www.dentsudigital.co.jp/seminar/form/webinar/20201023.html
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