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31年の看護師生活から0→1へ!【課題解決プロジェクト2期振り返り】 石さんチーム担当:射塲正己

■はじめに
「ナースにこそケアを」
この言葉だけを見ると、普段患者さんのケアをする側である看護師にケアが必要なのか?と違和感を感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
昨年の3月末まで31年間看護師として勤務し、9月末には「一般社団法人with」を立ち上げられた石葵さん。一念発起されて間もなく、昨年6月から始まったアンカー神戸のプロジェクト第Ⅱ期に参加されました。会社の枕詞として使われている「ナースにこそケアを」というキーワードは、看護師として長年患者さんに寄り添ってきた、石さんの想いを象徴する言葉です。

看護師時代の石さん

メンターである大津留さんと事務局担当を務める射塲が、石さんと初めて顔を合わせたのは昨年の6月初旬。コロナウイルス拡大によって、看護師を取り巻く環境は大きく変わったという、起業の背景を知ることからプロジェクトはスタートしました。
「非日常」での診療への対応、非接触でのコミュニケーション、オーバーワークなどに迫られる一方、黙食やオンライン研修の常態化で日常の会話が制限され、気軽に同僚に相談する機会も減っている。休憩や会食といったインフォーマルなコミュニケーションの場で解消されるような悩みも一人で抱えざるをえず、鬱積していく現状。「看護の仕事は大きなやりがいを感じる一方、患者さんやご家族の感情を考えるあまり燃え尽き症候群のリスクがあると言われています。そのためには看護師へのメンタルヘルス、レジリエンスへの支援、システムの構築が社会的に必要です」。実際、新聞の記事やテレビのニュースなどでも同様な問題を目にすることが増えていました。“看護師と看護管理者の駆け込み寺になる”という石さんの話を聞き、この事業は現代の看護環境において社会的にも大きな意味を持つ事業だと思いました。

■大津留さんによるメンタリング
そして始まった大津留さんとのメンタリング。ビジネスに関する知識はほとんどないという石さんに対して「マーケティングは後からついてくる」という大津留さんの力強い言葉が印象的でした。石さんの事業においては、ほとんど競合もいない分野ということで、事業内容がしっかり伝われば自然に顧客はついてくるという考えでした。

熱のこもった毎回のメンタリング

そこで、最初の2か月程度、石さんがこれまで経験してきたスキルや知見を、ターゲット顧客に対する提供価値という視点でフレームワークを行い、徹底的にブラッシュアップされました。具体的にはビジネスモデルキャンバスに沿って、顧客となる看護師や看護管理者のイメージを深掘りし、提供する価値を、短い単語で細かく言語化。最終的には30以上の細分化した項目を洗い出すことができたことで、強みや可能性が整理され、後の事業計画書やHPなどへの作成にも応用できるプロセスとなりました。
並行して、具体的な提供サービスの価値やそれらの相関関係も整理。個別の看護師への「カウンセリング」、看護管理者を含めた「コーチング」、病院向けの「コンサルテーション」、身近な看護管理事例を取り扱った「ワークショップ」、研修の企画や運営をサポートする「コーディネーション」。石さんが提供する5つのサービスが顧客に対してどのように作用していくか深掘りすることで、サービスの料金設定や今後の戦略の策定がクリアになりました。

石さんの提供するサービスと相関関係を整理

石さんはかねてから神戸市看護大学との共同研究や学会発表などもされています。「進めていくことで得られる発見や課題も、石さんならではの価値の高い知見として積み重ねとなり今後の学会発表にもつながる」と大津留さん。石さんが事業を進めること自体が、単にビジネスだけにとどまらない社会的な価値につながるという指摘もありました。

学会で発表する石さん

■起業へ
事業の立ち上げに当たっては、会社や事業内容を紹介・広報するためのホームページ・チラシの制作や、社名や商標が他者の権利を侵害しないものかといったチェックも必要です。そこで、デザイン会社や知財を相談できる専門家などもアンカー神戸の会員をご紹介させていただきました。ちなみに社名の「with」という言葉は世の中でたくさん使われていますが、詳しく確認したところ看護師のメンタルケア業界においては既存で登録されている商標と重複するものはありませんでした。そうしたプロセスを経て、事業化の準備が整ってきました。
大津留さんが「存在意義。こうあり続けたいという姿」だと言う法人のミッションは、「ナースが自分らしい看護、自分らしい人生を歩めるように寄り添い伴走し看護に貢献する」と定義されました。看護職が疲弊することなく、看護の喜びを感じられるように。「ナースにこそケアを」という言葉にこだわる石さんの思いが込められています。そして、「個人の利益というよりも、看護師を支えるインフラになっていきたい」という思いから、一般社団法人として9月末に法人を設立されました。

社名とキーワードを組み合わせて完成したロゴ

10月20日にはサービスを正式に開始し、その後に行われた課題解決プロジェクトのデモデイでは、事業立ち上げの背景やこれまでの企業プロセスを発表。日ごろ全国の大学や国家プロジェクトなどでメンタリングをされている大津留さんからも「ビジネスの理屈ではなく、一番大事な根幹の部分を磨かれてきた。4カ月間の熱意や熱量、真摯な姿は本当に素晴らしかった」と感慨深く振り返られていました。
こちらの模様はアンカー神戸のyoutubeでもご覧いただけます。

■最後に
サービスを開始されてから、すでにカウンセリングの申し込みも入り、看護学校での講義や、看護師向けの研修などの引き合いもあるようです。11月には、神戸新聞でも石さんの記事が掲載されました。反響は大きく、他のメディアからも取材依頼が続き、看護学校で記事が張り出されたり、看護現場でも話題になっているようです。

アンカー神戸でカウンセリングに対応する石さん

コロナ禍で変わった生活様式。いのちを支える看護師さんに、ケアが必要な人は確実に増えており、石さんのようなサポートを必要としている人はこれからも存在していくと思います。「ニーズに合ったものを、一つ一つ着実に提供していきたい」という石さん。最新のテクノロジーと連携した取り組みも、水面下で進行しているようです。神戸から始まった新しい取り組みを、アンカー神戸も引き続き支援していきます。(アンカー神戸 射塲正己)


石さんとメンター大津留さん

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