女神転生二次創作(シルキーと青年)
~アパート~
フライパンで焼かれる食材の音、小気味のいい衣擦れの音。
まどろみの中で聞こえてきたその音には安らぎを覚える。ほんの少し目蓋を開けるとまぶしい光が視界を包み込み布団をかぶって再びまどろみの中に沈んでいく。
「うーん、あ~」
窓から差し込む日差しが少しまぶしい、時刻は朝の八時頃。昨日の夜に読みながら寝落ちしたであろう小説が枕元でテントになっている。
若干詰まった鼻をすすり大きな欠伸をすると布団から抜け出し洗面所へと向かう。1Kのアパートだけあって3点ユニットバスで、気の利いた温度調節機能なんてない蛇口をひねって冷水で顔を洗う。鏡を見るとまだ眠たそうな黒髪黒目の青年がいる。寝ぐせのおまけまでついてるし…
眠気が十分に取れたところで台所に用意された食事を部屋に運ぶ。トーストにこんがりと焼かれたベーコンと目玉焼き、まだ湯気の上がる紅茶とイギリス式の朝食だ。
まあ、自分が作ったわけじゃないんだけど。一人暮らしを始めてからは親切な同居人に家事をしてもらうことがほとんどだ。気配は感じるし音も聞こえる。だけども姿を見たことはない、目に見えないメイドさんでもいる気分だ。
食事を終えたら流し台へ食器を運び洗って乾燥棚へ置いておく。手をふき部屋へ戻ると机の上に置いてあるノートに目を向ける。一人暮らしを始めて一年ちょっとだけど、気が付いたときに感謝の言葉を書いたりお土産をノートと一緒に置いたりしている。そうすると「彼女」から返事が返ってくることがあったりする。
~大学・部活棟 神話伝承研究会~
「うーん、シルキー、シルキー」
大学の部室で世界の伝承についての本を読みながら気になる名前を探す。シルキーというのは「彼女」が名乗った名前だ。それがどんな意味や伝承なのかがわかればもっと仲良くなれるかもしれないと思ったからだ。
「これか?」
『イングランドとスコットランドの境界で多く見られる女性の家霊、家の者が寝静まった後家庭内の雑用を片付けてくれるとされ、伝統的にありがたがられている妖精である。』
『何世紀にも続く旧家に現れる』とも書いてあったけどなんで俺の家に表れてるんだろう…まあいいか、それよりも…
めっちゃいい人じゃん、いや幽霊なんだけども。
日本でいうなら座敷童的なありがたい存在だよな、何かお礼とか用意したほうがいいかな、イギリスの幽霊の口に合うお菓子とか料理って何だろう。
「・・・寿司ってどうだろう?」
生魚食べる文化ないから拒絶されるかな?それもと興味持ってくれるかな?うーんケーキとかのほうが無難かなぁ…
~アパート~
結局寿司もケーキも両方買ってきてしまった。好きなほうを選んでもらおう、うん。
ノートに今日書いた文章に加えてさらにお礼を用意したという旨を書き記し、シルキーがくつろぐことのできるように出来る家事を済ませて眠りについた。
夜も更け家主も寝静まったころ、一体の妖精が活動を始めた。絹のドレスを纏った緑髪のその妖精は台所に目を通すと、乾燥棚に夕食に使われた食器たちがいるのを見つけ、それを手に取るとわずかに残った水滴を布巾でふき取り、静かにそして丁寧に食器棚へと並べる。
他にできることはないかと辺りを見渡すも、特に出来そうなことが見つからなかったのかシルキーは少し残念そうに部屋へと入っていく。
部屋に入ると机の上のノートに目を向ける。ここ一年ちょっとの人間と妖精の交換日記のようなものだ。シルキーは家事をしたことを毎度のように感謝してくれる青年の誠実さがとても気に入っている。
今度も感謝の言葉がノートに綴られていて頬が緩むのを感じていたが今日の日記は少し違っている。
『シルキーさんこんばんは、いつも夜に家事をしてくれてありがとうございます。今日、シルキーさんのことについて大学で調べてきました。わざわざ一人暮らし大学生の家に訪れてくれて本当に感謝しています。心ばかりではありますがそんなシルキーさんに感謝の品を送りたいと思って冷蔵庫に日本の食べものの寿司を買ってきました。もし生魚が抵抗あるようでしたらショートケーキも用意してありますのでそちらを召しあがてください。いつも本当にありがとうございます。』
読み終えたシルキーは寝床で安らかな寝息を立てている青年を金目で見つめ、幸せそうに微笑みながら言うのだった。
「今後とも、よろしく・・・」
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