私という女は、[前編]
起業家という道を経て、今は作家を夢見て執筆活動に明け暮れる橋本なずなです。
先日気付いた発見があるんだけど、訊いてくれる?
私、直近のパートナーと別れて1年半になるんだけどね。恋愛体質だから、ずっと男の人は側に居た。
友だちみたいに仲の良い人、定期的に食事に出掛ける人、好意を寄せてくれる人、身体の関係を持った人。
でも、彼らとは皆、交際関係には至らなかった。
どうして、って?
私に分かることは一つだけ、ストライクゾーンを狭めていたってこと。
少し前の私は、男性に社会的地位と経済力を求めていた。
関わる人は皆、経営者、弁護士、医者など。
その地位に登るまでに費やした時間やお金、労力を回収するように、社会的地位には自然と経済力が付いてきた。
私がそうした男性を好んだのは、自分の弱さが理由だった。
私は母と二人で暮らしているが、この生活を長く続けるつもりはない。母のことが嫌いだとか、酷い扱いを受けているとかではない。
ただ、私と母には確執がある。
私が母に性的虐待があったことを告白した日から、私が母に包丁を向けた日から、母は未だに私と向き合おうとしていない。
数日前にもこんなことがあった。
何気ない日常のなかで、私が母の些細な好意を拒否したことがあった。
母はそれから不機嫌になり、たまたまを装って私の部屋に入ってきたり大きな物音を立てたり、何とか私と関わりを持とうとした。
私が母を拒むことに、母は異常なまでの拒否反応を起こす。
母は私に嫌われるのが怖いのだ、捨てられるのが怖いのだ。
それなのに、自身がそうした状態であることを母は受け入れようとしない。
「 お母さん、あなたは愛されないと生きていけない人なんだよ 」
「 でも愛する役目をずっと私が担うのは、お母さんにとっても私にとっても、きっと良い未来にならない 」
「 だからもう、良い加減に子離れしようよ 」
そうだね、そうだよね、わかってるよ。でもね… ——— 母は有って無いような薄っぺらい肯定の言葉を並べるだけだった。
だから私は出たかった。早いところ、この家を。
しかし私は軌道に乗っていない小さな会社の経営者で、アルバイトで学費をまかなう大学生で、作家を目指して日夜執筆に明け暮れる夢追い人だ。
そんな私に経済的余裕は無かった。
そこで私は “リッチな彼氏” を見つければ、その人の家に転がり込んで、8:2程度の軽負担で生活をさせてもらえるのではないかと目論んだ。
結果は聞くまでもない。
原因はリッチに特化せず、年齢は35歳くらいまでが良いし、マッチョな人が良い。カフェ巡りとかも一緒にしてくれて、可愛いねって甘やかしてくれる人が良い、なんて欲張ったからだ。
欲張ることが悪ではないが、まずは自身をそこに見合う人間にすることと、何よりも「人を条件で見ないこと」。
これは女である以前に人として、忘れてはならないことだった。
——— そんな時だった。
先日から働き始めた新しいバーのアルバイト。そこで一緒になった22歳の男の子と話をしていて、私はあることに気が付いた。
( 後編へ続く )
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