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旅暮らしの寅次郎が住みついちゃった土地

寅さんを観続けてもうすぐ20年。たくさんの人に『男はつらいよ』を観てほしいという思いから、依頼いただいた内容をもとに好みや性格をお聞きし、おすすめの3本をご紹介します。



依頼者からコンシェルジュへの希望


依頼者プロフィール
のりさん ランナー 60代男性 寅さん鑑賞経験あり(テレビ放送にてほぼすべての作品を鑑賞)
 
東京での単身赴任をきかっけに、テレビで放送していた『男はつらいよ』を見始めました。ここ5,6年のことです。仕事柄、出張が多かったので、全国どこでも行きました。出張で行く都市は、駅を降りたらどこでも同じ風景で、個性がありません。だからこそ、『男はつらいよ』の魅力は、全国の地方の残しておきたい風景が美しく映っている所だと思います。映画の撮影当時の景色がもうなくなってしまった場所もありますが、残っているロケ地にはぜひ訪れてみたいです。コンシェルジュへの希望は、地方の風景とともに、その土地に住んでいる人の日常や情景がじっくりと描かれている作品です。


もう見ることのできない風景


 
のりさんは、お仕事で全国の都市や田舎に行かれていて、『男はつらいよ』に静かに映る個性豊かな地方の風景を味わっておられます。昭和から現在までの都市化でなくなってしまった建物や見られなくなった自然は、映画の中にしかありません。人々に忘れ去られても、確かにそこにあった風景や暮らしを映画は記録してくれています。ご希望の映画は、地方の風景を魅力に挙げられたのりさんらしく、地方の生活感がしっかりと描かれた作品ということでした。地方の映像は、作品によって取り上げられる時間がかなり短いものもあれば、その土地でのストーリーが主となる長尺ものもあり、様々です。(東京の葛飾柴又での場面が主となる作品もあるため。)今回は、のりさんがあまり観ていない作品のなかで、長く地方の場面が描かれている3作をおすすめします。

寅次郎と田舎のコミュニティ

※以下、作品の内容を記述します。
 

①  第32作 「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」


公開:1983年
マドンナ:竹下景子
ロケ地:岡山県高梁市
 
あらすじ: 博(前田吟)の実家の墓参りで岡山を訪れた寅次郎(渥美清)は、寺の和尚(松村達雄)とその娘・朋子(竹下景子)に出会います。ひょんなことから、和尚の代わりに法事をすることになった寅次郎は、でたらめな法話で乗り切ります。朋子に惚れている寅次郎は、結婚すれば寺の跡継ぎにならざるを得ないため、坊主になることを家族に相談。朋子の弟・一道(中井貴一)は寺の跡を継ぐ気はなく、ガールフレンドのひろみ(杉田かおる)を故郷に残し、上京。寺の跡継ぎ問題と、寅次郎の恋の行方は・・・。
 
今作の注目の地方は、岡山県高梁市です。博の父が住んでいた白壁の古民家や個人商店が街並みとして登場します。商店の娘・ひろみがバイクで小道を通り近所に配達する様や、寺の住職と檀家の主人が気心知れた仲で話す様など、田舎の当たり前を描いたシーンに懐かしさを感じる方もいるのではないでしょうか。

②  第38作 「男はつらいよ 知床慕情」

 
公開:1987年 
マドンナ:竹下景子
ロケ地:北海道知床
 
あらすじ: 知床を旅していた寅次郎は、変わり者の獣医師である順吉(三船敏郎)と知り合い、順吉の友人である町の人々とも意気投合。順吉の家に居候します。そこへ順吉の娘・りん子(竹下景子)が離婚し、東京から帰郷。寅次郎はりん子に恋心を抱きます。一方、妻を十年前に亡くしている順吉は身の周りの世話をしてくれている悦子(淡路恵子)を密かに想っているようですが、無骨な順吉と姉御肌の悦子は、お互いに強がって本音を言えずにいます。世界のミフネと渥美清の共演に、知床の大自然と名曲「知床旅情」をどうぞ。
 
今作注目の地方は、タイトルにもなっている北海道知床半島です。家畜農家や漁師が登場し、田舎ならではの濃密な人付き合いが描かれています。都会から帰ってきたりん子を歓迎する様子も地方ならではです。堂々と立ちはだかる大自然を背景に、不器用な人間たちが一生懸命に生きる様子を、叱咤激励しながらご覧ください。

③  第48作 「男はつらいよ 寅次郎紅の花」


公開:1995年
マドンナ:浅丘ルリ子
ロケ地:沖縄県奄美
 
あらすじ: 寅次郎の甥・満男(吉岡秀隆)は以前のガールフレンドの及川泉(後藤久美子)が結婚すると知り、結婚式を止めようとしますが逆に制止され、失敗。自暴自棄になり沖縄県奄美へ旅に出ます。そこで偶然再会したリリー(浅丘ルリ子)の家に世話になることに。リリーの家に行くと寅次郎が住んでいてびっくり仰天。満男と泉、寅次郎とリリーの運命は一体どこにたどり着くのか。
 
今作注目の地方は、奄美です。壮大な海と共に、南国独特のゆっくりとした時間の流れのなかでの暮らしが描かれます。どこからともなく響く島人の唄声に、すべてを忘れて参加したくなるでしょう。奄美での寅次郎とリリーの生活は不思議となじんでいて、奄美という土地が誰でも受け入れてくれているような気がします。今作がシリーズ最終作です。(特別篇を除く)最終作に相応しい名作をぜひご覧ください。

コンシェルジュを終えて


のりさんは、お仕事で全国を回りたくさんの土地を見られていて、都市部より地方がお好きとのことでした。ご希望も地方の魅力が濃く描かれている作品ということで、上記の三作を選びました。三作に共通するのは、寅次郎が少しの期間、その土地に住みついたという点です。旅暮らしの寅次郎が特定の場所に住むのは、実家を除くと珍しく、普段見られない行動をすることもあるので、お楽しみに。そしてなんといっても、自然や建築や地元住民の小さなコミュニティがその土地らしさを醸し出していて、田舎好きの方にはぜひ観てもらいたい三作です。土地を見る目が肥えておられるのりさんが、この3つの土地をどう評価されるのか、楽しみです。
のりさん、ありがとうございました。


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