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なぜか教授に尊敬される寅さん

寅さんを観続けてもうすぐ20年。たくさんの人に『男はつらいよ』を観てほしいという思いから、依頼いただいた内容をもとに好みや性格をお聞きし、おすすめの3本をご紹介します。


依頼者からコンシェルジュへの希望


依頼者プロフィール
高橋さん 会社員 40代男性 寅さん鑑賞経験あり(何作か観たことがあるがうろ覚え)
 
寅さんは、町内会のバス旅行の車中など色々な所で鑑賞しています。たまに寅さんを観る私にとって、「男はつらいよ」の魅力は、ストーリーの流れが定まっていて、安心して観られる所だと思います。マニアではないので、観た作品の全てを覚えているわけではありませんが、第1作目に「男はつらいよ」の魅力の要素が全て詰まっていると確信しています。
映画以外には、漫画、お笑い、落語などよく文化に触れていて劇場まで足を運ぶこともあります。学生時代に映画をよく観ていたことがあり、今、自分のなかで映画ブームが再燃しているので、このコンシェルジュを機にまた寅さんを観たいと思いました。寅さんと社会的身分が上の人とが不思議と仲良くなる話が観たいです。学歴はなくとも、市井で人間の本質・機微を学んだ寅さんが急に確信をついた発言をして、知識人が納得し、尊敬するというくだりがおもしろいです。 そして、映画の終わりは、明るくからっといきたいです。

第1作目にすべてが詰まっている


 
高橋さんは、数本鑑賞され、第1作目に寅さんの魅力がすべて詰まっているということを突きとめておられました。ご指摘はずばりその通りだと思います。なぜなら、1作目は、ドタバタ要素が多めではありますが、「若者だった博の恋愛を指南する寅次郎」「心に秘めていた愛情を静かに打ち明けて聴衆を感動させる博の父」「その話で博の父を見直し男泣きをする寅次郎」など、2作目以降『男はつらいよ』の魅力として輝いていくものがたくさん登場するからです。高橋さんは、映画や寄席など様々なエンターテインメントに触れておられ、良い審美眼をお持ちなんだな、と思いました。
寅さんと社会的に身分の高い人が仲良くなる作品が観たいとのことだったので、いくつか選び、その中でも、明るい雰囲気のものをおすすめしました。

先生と相性の良い寅さん

※以下、作品の内容を記述します。
 

①  第16作 「男はつらいよ 葛飾立志篇」


公開:1975年 
マドンナ:樫山文枝
ロケ地:北海道寒河江
 
あらすじ:「何のために学問をするのか」の問いに対する寅さんの答えとは。考古学を研究するマドンナ・礼子(樫山文枝)はとらやに下宿します。寅さんは礼子に勉強を教えてもらうことになりますが、その動機はいったい・・・。礼子の上司で変わり者の田所教授(小林桂樹)も登場し、まさかの展開に。ほとんど勉強をしていない寅さんが、大学教授の田所に「師」と仰がれるあべこべなシーンも。
 
この作品では、寅次郎と田所教授との関係に注目です。考古学の博士で礼子からも厚く尊敬される教授は、私生活はだらしなさそうです。学問とは縁がない寅さんと教授は一見、共通点がありません。しかし「愛」について寅さんがスラスラと語りだしたとき、教授は目から鱗が落ちます。ひっきりなしにタバコを吸いその合間に団子を食べる変わり者の教授を寅次郎も気に入った様子。二人の奇妙な関係は、やがて三角関係へ・・・?
 

②  第17作 「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」

 
公開:1976年 
マドンナ:太地喜和子
ロケ地:兵庫県龍野
 
あらすじ:
一文無しで飲み屋にいた小汚いおじさん(宇野重吉)を寅次郎は、親切に家に泊めてやります。実はそのおじさんは画家で、その場で描いた絵を「売ってきてくれ」と寅次郎に頼みこみます。老画家の絵は売れるのでしょうか・・・。
古き良き町、播州たつのでは、寅さんと芸者ぼたん(太地喜和子)が「所帯を持とう」と言い交わします。たつのでは、老画家の昔の恋人(岡田嘉子)も登場しますが、二人は昔の気持ちを清算できるのでしょうか。
 
この作品では、寅次郎と老画家・青観先生との関係に注目です。世間からは超有名な画家の先生として知られている青観先生ですが、家庭では居場所がないようです。そんな先生と寅次郎は、出会った当初はいい関係ではありませんでしたが、だんだんと友情が深まっていきます。二人とも、お世辞や世間体などを気にしないタイプで、いわゆる「大人の対応」は苦手ですが、その共通項が仲を深めたのでしょうか。
 

③  第19作 「男はつらいよ 寅次郎と殿様」


公開:1977年
マドンナ:真野響子
ロケ地:愛媛県大洲市
 
あらすじ: 愛媛県大洲で出会った老人は、世が世なら伊予の殿様であった人物(嵐寛壽郎)でした。殿様に気に入られた寅次郎は、殿様に無理難題の頼みごとをされ、引き受けてしまいます。その頼み事を寅次郎は果たせるのでしょうか。そして、大洲で出会った美人(真野響子)との再会もあり、寅次郎の恋愛が始まります。
 
この作品では、寅次郎と殿様の関係に注目です。執事に対しては、厳かな言葉で叱る殿様ですが、寅次郎に対しては深く信頼している様子です。なぜ寅次郎が、殿様のお眼鏡にかなったのかはよくわかりませんが、目上の人物に対してへりくだることのない素直さが、殿様には珍しかったのかもしれません。殿様に気に入られすぎて、困ってしまう寅さんも見物です。

コンシェルジュを終えて


何作品か観られただけで、第1作目に『男はつらいよ』の全てが詰まっていると気づいておられたことに驚きました。映画をたくさん観られていて審美眼をお持ちなんだなと思いました。今回のご希望は、寅次郎と社会的に身分の高い人物が仲良くなる作品でした。世間では有名だったり、周りの人からはもてはやされていたりする人物が、寅次郎には心を許し、信頼し、友人のように親しくなるという流れは観ていて気持ちがいいです。寅次郎の常識はないが、見栄や屈託のない態度に大人物は心を許してしまうのでしょうか。コンシェルジュをしたことで、なぜ寅次郎が誰とでも友達になれるのかを考えさせられました。寅次郎と大人物の友情を描いた作品は、第8作『男はつらいよ寅次郎恋歌』、第29作『寅次郎あじさいの恋』など他にもあります。今回、おすすめの3作には入りませんでしたが、気になる方はぜひご覧ください。
高橋さん、ありがとうございました。


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