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バランス・スコア・カード

バランス・スコア・カード(Balanced Scorecard, BSC)は、企業のパフォーマンスを評価し、戦略的な目標を達成するための包括的なフレームワークです。1992年にロバート・S・キャプラン(Robert S. Kaplan)とデイビッド・P・ノートン(David P. Norton)によって提唱され、従来の財務指標だけでなく、非財務指標も含めた多角的な視点から企業のパフォーマンスを評価します。

バランス・スコア・カードの4つの視点

BSCは、企業のパフォーマンスを4つの主要な視点から評価します。それぞれの視点に対して具体的な目標、指標、ターゲット、イニシアティブを設定します。

  1. 財務の視点(Financial Perspective)

  2. 顧客の視点(Customer Perspective)

  3. 内部プロセスの視点(Internal Business Processes Perspective)

  4. 学習と成長の視点(Learning and Growth Perspective)

1. 財務の視点(Financial Perspective)

財務の視点は、企業の財務パフォーマンスを評価します。企業の最終的な目標である利益の最大化や株主価値の向上に関連する指標が含まれます。

  • 主要な指標:

    • 売上高

    • 営業利益

    • 純利益

    • 投資収益率(ROI)

    • 経済付加価値(EVA)

  • 目標例:

    • 売上高を年間10%増加させる

    • 営業利益率を20%に維持する

2. 顧客の視点(Customer Perspective)

顧客の視点は、顧客満足度、顧客維持率、新規顧客の獲得など、顧客に関連する指標を評価します。顧客が企業に対してどのように評価しているかを理解することが重要です。

  • 主要な指標:

    • 顧客満足度

    • 顧客維持率

    • 新規顧客の獲得率

    • クレーム件数

  • 目標例:

    • 顧客満足度を90%以上に向上させる

    • 新規顧客の獲得率を年間15%増加させる

3. 内部プロセスの視点(Internal Business Processes Perspective)

内部プロセスの視点は、企業の内部業務プロセスの効率性と効果を評価します。これには、生産性、品質管理、イノベーションのプロセスが含まれます。

  • 主要な指標:

    • 生産サイクルタイム

    • 不良品率

    • 新製品開発期間

    • オペレーショナル・エクセレンス指標

  • 目標例:

    • 生産サイクルタイムを20%短縮する

    • 不良品率を1%未満に抑える

4. 学習と成長の視点(Learning and Growth Perspective)

学習と成長の視点は、企業の長期的な成長と持続可能性を確保するために必要な能力開発、人材育成、情報システムの整備を評価します。

  • 主要な指標:

    • 従業員満足度

    • 従業員研修時間

    • スキルマトリックス

    • ITシステムの活用度

  • 目標例:

    • 従業員満足度を80%以上に向上させる

    • 年間研修時間を1人あたり20時間以上にする

バランス・スコア・カードの実施手順

BSCを効果的に実施するための手順は以下の通りです。

  1. 戦略の明確化: 企業のビジョン、ミッション、戦略を明確にします。これに基づいて各視点の目標を設定します。

  2. 目標設定: 4つの視点それぞれに対して具体的な目標を設定します。目標はSMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)であるべきです。

  3. 指標の選定: 設定した目標を評価するための具体的な指標を選定します。財務指標だけでなく、非財務指標も含めることが重要です。

  4. ターゲットの設定: 各指標に対して達成すべき具体的なターゲットを設定します。

  5. イニシアティブの策定: 設定した目標とターゲットを達成するための具体的なアクションプランやイニシアティブを策定します。

  6. 実行とモニタリング: 策定したアクションプランを実行し、定期的に進捗をモニタリングします。必要に応じて戦略やアクションプランを見直します。

バランス・スコア・カードの利点と限界

利点

  • 包括的な視点: 財務指標だけでなく、顧客、内部プロセス、学習と成長の視点から企業のパフォーマンスを評価できる。

  • 戦略の実行支援: 企業の戦略を具体的な目標と指標に落とし込み、実行を支援する。

  • コミュニケーションの促進: 全社員が企業のビジョンと戦略を共有し、共通の目標に向かって努力するためのコミュニケーションツールとなる。

限界

  • 導入コストと時間: BSCを効果的に導入するには、初期のコストと時間がかかる。

  • データの正確性: 成功するためには、正確で信頼性のあるデータが必要。

  • 柔軟性の欠如: 一度設定した指標や目標が固定されてしまうと、変化に対応するのが難しくなる場合がある。

具体例

製造業のバランス・スコア・カード

  1. 財務の視点

    • 目標: 営業利益率を15%に向上させる

    • 指標: 営業利益率、コスト削減率

    • ターゲット: 営業利益率15%、年間コスト削減率5%

  2. 顧客の視点

    • 目標: 顧客満足度を90%以上に向上させる

    • 指標: 顧客満足度調査結果、リピート購入率

    • ターゲット: 顧客満足度90%以上、リピート購入率70%以上

  3. 内部プロセスの視点

    • 目標: 生産効率を20%向上させる

    • 指標: 生産サイクルタイム、不良品率

    • ターゲット: 生産サイクルタイム20%短縮、不良品率1%未満

  4. 学習と成長の視点

    • 目標: 従業員のスキルを向上させる

    • 指標: 従業員研修時間、スキル評価

    • ターゲット: 年間研修時間20時間、スキル評価の平均スコア向上

まとめ

バランス・スコア・カードは、企業が戦略を実行し、目標を達成するための包括的なフレームワークです。財務、顧客、内部プロセス、学習と成長の4つの視点から企業のパフォーマンスを評価し、具体的な目標と指標を設定することで、企業全体が一丸となって戦略的な目標に向かって進むことができます。BSCの導入と実施を通じて、企業は持続的な競争優位を確立し、長期的な成功を目指すことが可能となります。

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