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【たゆたえども沈まない女が行きたい国】 絵描きのエッセイ

私には今まで行きたい国が無かった。

もっと言えば今住んでいる日本の中にも行きたい場所が無かった。でも今の私には行きたい国がある。それはフランスだ。もっと言えばモンマルトルに行ってみたい。モンマルトルの丘で画家が集まって、似顔絵を描いている景色を見たい。

「たゆたえども沈まず」これはフランス・パリ市標にもなっている言葉で「どんなに強い風が吹いても、揺れるだけで沈みはしない」という意味がある。

昨年のベストバイブックに、この言葉がタイトルになっている原田マハさんの著書がある。天才画家ゴッホの史実をもとにしたフィクションだ。私が一番好きな「星月夜」という絵が表紙で、衝動的に手に取った。最後に読み終えた場所はカフェ・ル・ギャルソンというカフェで、揺れる蝋燭の火を眺めつつ、本を読んだ時間はとても良い時間だった。

今までは行きたい国や、日本の中で行きたい場所が無かったのだけれど、全てに興味が無かった訳ではない。映画やドラマや本なその作品に触れたり、ネットで色んな情報が入ったり、周りの話を聞いたりする中で、ぼんやりと「いつか行ってみたいなあ。」という気持ちになる場所はあった。

でも二〇代前半、旅行会社で働きながら日本の色んな場所に行ったり、二〇代中盤、きまぐれに弾丸旅行に出掛けたりした中で、自分の中で気づいてしまったことがある。

「どこに行っても楽しいと思えば楽しいし、どこに行ってもつまらないと思えばつまらない」

だから場所など関係無かった。私は旅先でも普段の暮らしの中でも、自分の心次第で面白く生きる選択も、つまらなく生きる選択も出来ると思った。もちろん日本中を行き尽くした訳もないし、人から教えてもらって知る面白さも山ほどある。その場所の魅力なんて掘ろうと思えばどこまでも出てくるだろうと思う。

でも結局どんなにその場所が魅力的で、どんなに面白いと教えてもらったとしても、当の本人が「楽しみたい」と思っていなければ、何をやっても仕方ない。

私の場合は、どこに行っても「楽しめる」という自分に気づいてしまった。楽しもうと思えば、そこに興味が生まれて、興味があれば旅先でも今住んでいる場所でも、どんなことも面白くなる。興味を持つのはこの時代に生きている人でも良いし、過去の歴史に出てくる人でも良い。人が作った何かでも良い。

興味を持とうと思えば、何にでも興味を持ててしまうというのは、良くもあり悪くもある。移り気になっても仕方ないじゃないかと思う。この世界はどこまでも面白いことがあるんだもの。飽き性の私が続けられたことは、小学校低学年から手帳に文章を書き残してきた事や、絵を描き続けてきた事くらいだ。そんな私が「この場所に行きたかった!」とずっと思える国や場所は無かった。

けれど二十九歳になった今、私はフランス旅に行きたい。行きたいというか呼ばれている気がする。これは突然思い浮かんだ訳では無く、気づいたら小さなきっかけが積み上がっていた感覚。

その小さなきっかけをざっと書く。

・子供時代にフランスのパリが舞台になったディズニー映画「おしゃれキャット」を観る。キャンバスに絵を描くのに憧れたのも、ジャズを好きになったのも、猫が好きになったのも、この映画が始まり。ㅤ

・唯一好きなクラシックは「月の光」ドビュッシーはフランス出身。

・好きな画家マティスの出身はフランスで、もう一人好きな画家ゴッホが亡くなった場所がフランス。ㅤ

・好きな絵本リサとガスパールはフランスの絵本。ㅤ

・絵描きになった最初のオーダーは友人から「カフェ・ル・ギャルソンでの夜を描いて欲しい」と言われて描いた。こちらのカフェは店主さんがパリに行ったことがきっかけで生まれたカフェ。

ㅤ・二人目のオーダーは「映画アメリが好きだから、その雰囲気でお願いしたい。」と言われる。アメリはパリのモンマルトルが舞台。ㅤ

・2024年一番面白かった本は原田マハさんの「たゆたえども沈まず」ㅤ

・2024年最後に描いたオーダーは、贈り主がベルサイユのばらが好きという事から連想し、バラ色の人生という絵をを描く。ㅤ

・2024年最後に観た映画は「グランメゾンパリ」。フレンチのレストランを舞台にした映画。あまりの面白さにドラマも全て観てしまった。ㅤ

・2024年に出会った恋人はフレンチの料理人だった。

記事の最後に恋人以外のリンクを残します。

無意識に自分で選択していたのかもしれないし、ただの連想ゲームなのかもしれない。でもロマンチストでいることは、そうでない人生よりも確実に面白いと思う。(現実も大切だけどね)

正直に言えば、本当に心から行きたい国なんて分からない。イタリアにも行きたいし、ドイツのベルリンにも行きたい。ただ一つ言えるのは、一度考え始めたら私の心の目は「見つけてしまう」ということだけだ。

今までも色んな事があって、大きく揺れては何度も沈みそうになってきた。いつ沈むか分からないような、オンボロ船を直しながら漕ぎ続けてきた。そんなだから前はどこかに旅に出る想像が出来なかったのかもしれない。

でも今は「どこにいても楽しめるのなら、楽しんでみたいと思う場所に行きたい!」そう私は思っている。


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永松 杏夕実|絵描き
これからも励みに頑張ります!