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「急に具合が悪くなる」を読んで。

あなぽこ社おんがくの人、西村です。
とても大切な本に出会ってしまった。
晶文社の「急に具合が悪くなる」という本です。


この本は哲学者の宮野真生子さんと、医療人類学者の磯野真穂さんの10便の往復書簡で構成されます。この本を特徴づける要素の一つは哲学者の宮野さんが癌を患っていること。
前半は宮野さんの癌患者である哲学者という立場から、医療や運命論や患者というラベルを貼る、貼られる事などを医療人類学者である磯野さんの問いに対して答える。という形で論じていきます。
ところが、後半からは宮野さんが実際に「急に具合が悪くなる」ということから、お互いがことばのやり取りを通してどんどん深いところに行く。その信頼の上に成り立つことばのやり取りがとても心を打ち、色んな事を考えさせられます。


養老孟司さん流に言えば、元々訳の分からないもの「自然」や「身体」というものを何とか秩序だったものにしようとする「都市」や「脳」。僕らの秩序立った現代は、実は自然という訳の分からないものの上に成り立っているので、実はグラグラしている。それを何とか制御し安定、安心するために都市化し脳化する。個人を社会的な役割や、ジェンダーによってラベルする事は固定化して安定安心してそれはそれで尊いのだけれど、時によってはそのラベルによって身動きが取れなくなり、疲労していく。
癌や病や死という「身体」からやってきた訳のわからないもの、(特に死は誰にでもやってくる「自然」)によって、お互いのラベルからはみ出しことばを紡いでいく事。そのやり取りによって秩序、テンプレート化を飛び越えて新しい何かを作り出す事。見出す事。それがこの本で言う「ラインを描く」という事なんだと思います。「ラインを描く」ということばだって、僕にとってそれまで持っていた意味から広がっていく。広がっていける。ことばへの信頼も取り戻す。

そしてその「ライン」は読者という僕のラベルを剥がし、伸びてくる。この本を読んだ僕らも、もう当事者なんだと思います。お二人のラインから枝分かれした先にいる僕。はそのラインを引き継ぎ、更に伸ばして枝分かれしていく。

僕自身の音楽家、男性、父、慢性病患者といったラベルからどれだけはみだせるか。僕はまずはあなぽこ社の二人にこの本を読んでもらって語り合いたいのです。どんなラインが伸びていくのかワクワクします。


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