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急に具合が悪くなる・読後独語

音楽の人、西村くんから一冊の本を渡された。
『急に具合が悪くなる』晶文社刊
重いタイトルなのに表紙はポップなイラスト。
哲学者 宮野真生子さん
人類学者 磯野真穂さん
お二人の往復書簡をまとめたもの。

大人になって課題図書を渡されるのはワクワクする。音楽の人から託されたメッセージをどこまで読み取れるのか、どこまで自分事として感想が書けるのか、いざ本の世界へ。

ガンで余命宣告を受けている宮野さんと医療人類学者の磯野さん。書簡をやり取りする途中で「急に具合が悪くなるかもしれない」と打ち明けられる。
そこから展開するお二人の往復書簡が10便、時間の経過とともに生き物のように変化していく。

 実は私にとってこのタイトルは切実なもの。持病がある私は高度医療にすぐかかれる体制がないと困るのだ。毎日穏やかで疲れを溜めないような規則正しい生活が必須。強い日光に当たれなかったりするので晴れの日は閉じ籠り生活。そして「急に具合が悪くなる」ことも多々ある。それがいつ訪れるのか、神のみぞ知ること。

それでもそれでもそれでも
生来の好奇心旺盛な性格のため、興味を惹かれることに出会うと突っ走ってブレーキがかけられなくなる。
宮野さんも同じようなことを書いている。余命宣告を受けたからといって、それに合わせた生活をしなければならないと萎縮するのは、可能性を封じ込めること。

この本を読んでいるときちょうど「こんな夜更けにバナナかよ」という映画を観た。ALSの鹿野さんの実話を描いた作品。少しずつ身体が動かなくなっていく鹿野さんを周りの人たちが支える様子を描いている。

「俺が人生楽しんじゃいけないのかよ!」

「あの人のワガママは命懸けなんです!」

こんなセリフが随所に散りばめられている。確かに、様々な工夫で自分のやりたいことに近づくことができる。支援する人たちが揺さぶられる様子がリアルに描かれていて、一つ一つのエピソードにズシンと来るものがあった。
どうしても諦めなくてはならないこと、助けてもらえばなんとかなること、深い哀しみを抱きながらも他者に身をゆだねること、そんなことを思いながら。


さて、この本の中の言葉で気になったもの。
『原始偶然』
初めて耳にする言葉。以下本文より引用。
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最終的に全ての物事の根本には、なぜいまこんなふうになっているのかを説明することのできない謎が残る。
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偶然を受け止めるなかでこそ自己と呼ぶに値する存在が可能になるのだと。
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偶然と運命を通じて、他者と生きる始まりに充ちた世界を愛する。
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そう、今日孫と遊んでいて不思議な気持ちになった。あなたはどこからやってきたの?無数の偶然が網目のように折り重なり、私の目の前で笑っている。お互いを見つめる眼差しの不思議さ。どうしてこんなにも喜びをもたらしてくれるのか。
まさしく他者と生きる始まりに充ちている。
ともに踏み跡を刻んで生きることの覚悟をする勇気をくれる。
次回は『健康』と『病気』についてじっくり考えてみることにする。

※秋の日の午後、ゆっくりと読書する機会を作ってくれたヨッシーへお返事かいてみました。
次は写真絵本の人、小寺くんへバトンを渡します。

料理探検の人 浦木 明子

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