ルドガー・ブレグマン『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」

現代のパフォーマンス重視の社会が立てる目標は、かつてのソ連の五カ年計画並みに愚かだ。 生産統計の上に政治システムを築くのは、生活の好ましさを表計算ソフトで測ろうとするに等 しい。文筆家のケビン・ケリーが言うように、「生産性はロボットにまかせておけばいい。 人 間は時間を浪費したり、実験したり、遊んだり、創造したり、探検したりすることに秀でてい るのだから」。数字による統治は、もはや自分が何を求めているのかわからない国、ユートピ アのビジョンを持たない国が最後にすがる手段なのだ。

しかし、歴史の流れを決めるのは、テクノロジーそのものではない。結局、人間の運命を決 めるのは、わたしたち人間なのだ。アメリカで具現化しつつある極端な不平等は、わたしたち が選べる唯一の選択肢ではない。もう一つの選択肢は、今世紀のどこかの時点で、生きていく には働かなければならないというドグマを捨てることだ。社会が経済的に豊かになればなるほど、労働市場における富の分配はうまくいかなくなる。テクノロジーの恩恵を手放したくないのであれば、残る選択肢はただ一つ、再分配である。それも、大規模な再分配だ。

金銭(ベーシックインカム)、時間(労働時間の短縮)、課税(労働に対してではなく、資本 に対して)を再分配し、もちろん、ロボットも再分配する。一九世紀まで遡ると、オスカー・ ワイルドは、だれもが「全員の所有物」である知能機械の恩恵を受けられる日を待望した。テ クノロジーの進歩は、社会を全体としてはさらに豊かにするかもしれないが、だれもが利益を 得ることを保証する経済法則は存在しないのだ。

数十億の人が、豊饒 の地で得られるはずの賃金に比べるとほんのわずかの金で、自分の労働力を売るよう強いられているが、それはすべて国境のせいなのだ。国境は世界の 歴史の全てに置いて、差別をもたらす唯一最大の原因である。同じ国に暮らす人々の格差は、別々の国に暮らす人々の格差に比べると、無いに等しい。

おそらく一〇〇年くらい後の人は、こうした境界を、今日のわたしたちが奴隷制やアパルトヘイトに向けるような目で、振り返ることだろう。とはいえ、確かなことがひとつある。それ は、世界をよりよい場所にしたいなら、移民を避けることはできないということだ。ほんの少 し、ドアを開けるだけでも良い。先進国全てがほんの三パーセント多く移民を受け入れれば、 世界の貧者が使えるお金は三〇五〇億ドル多くなると、世界銀行の科学者は予測する。その数字は、開発支援総額の三倍だ。


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