価格転嫁を進める上で中小企業が取るべき施策とは?
こんにちは、あんパパです。
今回は前回の続きでここ最近で話題になっている国内企業の賃上げに関して、この流れの中で中小企業製造業が取るべき施策について書きたいと思います。
前回は、マクロ的な視点で今回の賃上げの背景やその意味合いを書かせて頂きました。今回はその流れの中で一歩進んで中小企業、主に製造業の中小企業が取るべき価格転嫁を進める上での施策について述べたいと思います。
前回の記事をまだお読みでない方は一読いただけると幸いです。
製造業を取り巻く現状
賃上げ率と価格転嫁率
まず、賃上げ率については今年の春闘の主要企業の妥結率について厚生労働省からレポートが出ています。
平均で5.33%、金額で言えば17,415円と昨年の平均3.60%から見ると大きな上昇幅で妥結しました。この数字は大手企業の平均妥結率になりますが中小企業においても平年に比べて上昇率は大きな結果となっているようです。
一方で価格転嫁率という数値があります。こちらは経済産業省から発表されている2024年6月の数値となりますが全体平均で46.1%という実績があります。
この数字が意味するところは、原材料、エネルギー、労務費等の高騰で100円の価格転嫁を発注側にお願いした受注側が実際に転嫁できた額は、今年の6月時点では46.1円だったということになります。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/follow-up/index.html
価格転嫁率は高い?低い?
賃上げ率は各企業や産業分野での差はあれど概ね高い率で妥結していると思います。
一方でこれらのコストアップを発注側に価格転嫁した指標である価格転嫁率は数値だけ見れば半分も転嫁できていないことになります。
当然ですが受注側の価格転嫁要請も高めの球を投げている側面もあるかと思いますのでそこは注意する必要があります。
どうでしょうか、受注側は労務費を含めた原材料やエネルギーの高騰分の40%程度は価格転嫁できていない、自社で被っていると見るべきでしょうか?
なぜ進まない?価格転嫁
発注者側の要因
価格転嫁が進まない現状の要因は多くありますが最大の要因の一つに経済産業省からのレポートにもあるとおり「コストアップは自社で吸収すべき」だと言う発注者側の考え方が根強くサプライチェーンに残っている点が挙げられます。
日本の製造業は長くコスト低減至上主義で価格競争力を強めて付加価値向上を進めてきました。また、発注者側と受注者側の立場の差は大きく発注者側の意向が強く通る土壌がありました。
一昔前のようにそれでも発注者側の製品が利益を上げて受注者側に還元され、発注者側の意向に沿っていれば新たな仕事が降りてくる環境であればこそ受注者側も受け入れてきた部分がありました。
現在は日本製品も世界市場で戦うにあたっては競合も増えて昔のように一人勝ちでは無くなってきました。苦戦を強いられています。
また、モノ作り自体も国内からアジア移っており国内の仕事量自体も減少傾向にあります。
モノ作りや工夫に長けているとされている日本の製造業の中では、「コストアップを吸収できないのは工夫が足りない、自社で吸収すべき」と言った過度な意識が根底にあると思います。ですが、日本製品の海外市場における競争力の位置付けや国内製造業の海外移転など外部環境が変わってきている今の時代、日本製品が世界を席巻していた時のような古い意識は見直す時期にきているのでしょう。
価格転嫁が進まないことは日本のモノ作りの根幹に影響しているということです。
すなわち事業が継続できず廃業する企業が増えた結果、モノ作りのノウハウの伝承も途絶え、新たな人材も獲得できない負の連鎖に突入している実態があるということです。
受注者側の要因
私が現場で中小企業の方々のお話を伺っている中で価格転嫁が進まない理由として感じるのはロジカルに価格転嫁の金額を説明できていない点に尽きると考えています。
世の中、人件費、物流費、原材料、諸物価、全てが値上がりしているのは周知の事実だと思います。それらは様々な公式の指標にも出ています。値上げ要因はそれらの指標から持ってくれば良いのですが、いざ、自社製品に転嫁する際に転嫁額の幅がロジカルに説明できていないケースをよく見る機会があります。
突き詰めるとそこは自社製品の原価管理ができていないという問題点にぶち当たると思います。おそらくは初回に見積もりを出す段階から原価管理をしっかりできている中小企業製造業は少ないと思います。
そんな土台が定まっていない中で価格転嫁の議論をロジカルに説明するのは非常に困難であり、発注側も何が適正な価格転嫁額なのか判断しかねているという部分も少なからずあるかと考えます。
これが受注側の価格転嫁が進まない、価格転嫁率が上がらない大きな理由の一つかと現場目線では感じております。
価格転嫁を進めるために
中小企業がとるべき施策
価格転嫁を進めるために経済産業省、中小企業庁、公正取引委員会などが大企業側の動向を厳しく監視する流れは続くかと思います。
一方で、自動車業界でいうと最近発表された日産自動車の決算のように厳しい内容となっている企業もあります。
今後は日本の製造業の体力が奪われてく可能性もあり、価格転嫁の原資がない企業に対してどこまで政府が踏み込んだ対応ができるのかと言った問題が今後は出てくると考えてます。
そんな中で受注側の中小企業が価格転嫁を進めていくためのポイントは、世の中の経済動向に沿った自社製品への価格転嫁へのロジカルな説明、がどこまでできるかという点だと思います。
その点を踏まえると今後中小企業が進める施策の中では私は次の2点が重要になってくると考えてます。
・原価管理の促進
・価格転嫁のルール化
原価管理の促進
多くの中小製造業が十分にできていない点であり難しい課題であるとは思います。
私が以前に企業診断した中小製造業の経理の方も「理解はするが中小企業のリソース面では難しい」と仰っていました。
他方でこれからも中小企業を取り巻く環境は大きく変動すると予測されます。
特にエネルギー、原材料、労務費、物流費などはこれからも上昇する方向で推移するでしょう。間違いなくこれらのコストは今後も大きく変動していきます。
今は価格転嫁が進まなくてもなんとか吸収している部分もあるかもしれませんが、この経営環境が続くと中小企業経営にボディーブローのように効いてくることは予測できます。
売上高に占める労務費率、物流費率や各製品への原価としての配賦の考え方、エネルギーや原材料の原単位の管理などを通じて原価管理の推進を行って初回見積提出からその後のコスト変動時まで正確に製品原価を把握した上で売価に転嫁していくロジックを構築する必要があると考えます。
価格転嫁のルール化
この点は発注側、受注側両方に言える点かもしれません。
政府がここまで促進している価格転嫁の強化施策が浸透していくと価格転嫁交渉が頻繁に行われる事になります。
今まではそういった商習慣がなく何年も何十年も契約価格が変わっていないというような話もよくありました。また、受注側から言えば先に述べたように価格転嫁の値上げ交渉をなかなか言い出しにくかった土壌があったのも事実だと思います。
今般の政府の施策が浸透するのであれば発注側、受注側の価格に関する交渉が頻繁に行われる事になりますが、毎回ここに労力を費やすのも双方にとっては避けたい部分ではあります。
理想的には、
・価格見直しのタイミング
・価格見直しの前提となる指標
・価格見直しの要素
・製品単価の各要素の原単位 等
これらを発注者、受注者側で事前に決めておくことで価格交渉はかなり省力化できるのではないかと思います。
まとめ
中小企業診断士として
拙い文章を最後までお読み頂きありがとうございました。
価格転嫁、特に製造業に関して色々と書かせていただきましたが私は診断士としてこの分野で診断士が活躍できる領域が多くあると思っています。
企業としてよほど差別化されて製品やサービスを提供していない限りは競合との価格競争は避けられません。(もちろん、製品、サービスの差別化は重要です)
一方で昨今の経済変動(エネルギー、原材料、労務費、物流費、為替変動等)は、各企業がコントロールできるものではなく、企業体力の差はあるとは言え吸収しきれるものではありません。
企業間の正当な価格競争と経済変動、これらは最終的に製品価格に反映されるものですが価格の変動要因は全く異なるもので分けて考える必要があるものです。
経済変動は政府の施策に則ってスムーズに、更には省力化を図って価格に反映する、そのことで企業本来の製品、サービスの差別化、高付加価値化に経営資源を集中する、結果として経営戦略にのとった正当な価格競争の推進ができる仕組み作り重要です。
この仕組み作りに中小企業診断士が寄与できる部分は大きいのではと考えてます。