「ニホンデモホウシャノウ」との確執

去年の春くらいからKraftwerk熱が再燃し、飽きずにずっと調べ物をしている。
最近では俺の推しメンだったフリッツが去年5月に始まったライブからいなくなり、好きだった女性に3ヶ月で振られた時と同等のショックを受けた。

思えばファンになり大体15,6年くらいだろうか。
先程、俺が初めて会場に足を運びこの目で直接観た彼らのライブ映像とYouTubeで久々に向き合った。

「向き合った」という書き方から察せられるかもしれないが、俺はこの映像をあまり観たくない。
このRadioactivityという曲は俺の中で「2012年7月7日以前/以降」という括りが出来てしまっている。
観終わって結局悶々としていたら、当時の状況をぼんやりと思い出してきた。

2012年、当時受験生だった俺にとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。

2008年あたりにKraftwerkにハマった俺は、YouTubeでPVや昔のTV特番、正規/ブート問わずライブ音源・映像を見つかるだけ視聴。
小遣いはたいてリマスターBOXを英/独どちらも買い揃え、国内外問わずホームページを読み漁り、本を買い、見事救えないオタクが誕生した。

2008~2009年の中規模ツアーの後、2011年に彼らは進化して帰ってきた。
映像は全部3Dになり、ノートPCはタブレット(正確には2in1のSurfaceだかVAIOだからしい)になり、機材類を乗せている台は曲に応じて様々な色に光るようになっていた。

ただでさえ生で観たいと思っていたのにこの進化を見せられたら・・・。
絶対生で観たい。当時童貞だったが女体より遥かに観たい。
冗談抜きに夢にまで見た。俺の地元のちょっと広い公園で彼らがライブをしているのだ。曲はThe Man Machineだった。

で、冒頭のニュースが出てきたわけである。
待ちに待ったKraftwerkに加え、俺がKraftwerkに狂う前に狂っていたYMOも観られるわけで行かない理由はない。

ドキドキしながら親父に相談したら、そういう経験はするべきだと全額負担の上に付き添いを買って出てくれた。
1つ目の障壁は満点以上にクリアしたが、2つ目の障壁があった。

大バカ高校の中のバカだった俺は、休日も講習がある特進クラスに組分けされていた。
更に受験生ということもあり、ド低偏差値の癖に進学校を自称する高校特有の謎の厳しさをくぐりどう休もうかという壁だ。

「仮病とかには協力したくないから正直に伝えろ。揉めたら俺が出る。」
そう親父に言われていた俺はもうどうでもいいわと職員室の扉を開け担任の机に向かった。
多分こんな感じの会話だった気がする。太字部分は確実に言った記憶があるフレーズである。

「7/7なんですけど、ライブで東京に行くので休みます。」
「はぁ?そんなことしてる暇あるの?受験生だよ?」
「絶対外したくないんですよ。YMOとKraftwerkが出るんです。俺からしたら松田聖子と中森明菜が同じステージに立つようなライブなんで。
「でもさぁ……。」
親も良いと言っていますし、もうホテルも新幹線も取ってくれててキャンセルできません。
「……はい、そうですか。」
「では休みます。失礼します。」

今考えると全然ホテルも新幹線もキャンセルできるのだが、勢いで言い放った上で何も反論を受け付ける気はなかった。

参戦が確定し気持ちが少し落ち着いたところで、ファンのツイートなどを観て色々と考え始めた。
「……脱原発フェス?」「3.11に関するメッセージがある?」

「もしかして、Radioactivity(曲)に何かアレンジが入ったりする?」

ご当地Dentakuは大歓迎だが、ご当地放射能は正直願い下げであった。
俺は思想に関してはどうでもよく、Youtubeでしか知らない彼らを純粋に体験したい、曲が聴きたい、彼らが観たいのだ。
可能なら変な要素は無しに純粋に楽しみたいのだ。

不安は一抹あったが当日を迎え、親父とともに幕張メッセに向かった。
YMOとKraftwerkさえ観られれば良かったのでだいぶ後半の時間に向かったような。

当時既に全曲3D構成になっていたのだが会場では3Dメガネが配られておらず、会場か運営上の都合だろうが今回は2Dだなと察した。
入ると確か難波章浩のステージ中で、可哀想だがあまり人がいなかった記憶がある。

難波のステージが終わると突然人がぞろぞろ入ってきた。
当時俺は全然知らなかったが、次がthe HIATUSだったのだ。
転換中フラッと細美武士が出てきて「ちょっと音出していいですか」とアコギ一本でLet It Beを弾き語った。めっちゃ上手かった。

HIATUSについて覚えているのは、「僕たちは原発に反対です。大反対です。」と言ったことと、
ギターだかピアノだかがめっちゃタトゥー入っとるやんけ・・・と思ったことくらい。

続いてYMOである。
HIATUSとは客層が当然違い、HIATUS目当ての客がゾロッとかなり帰っていったが同じくらいYMO目当ての客が入ってきた。

この日YMOは結構音がギンギンで激しめだったと思う。
カッコよかった。あと一番好きな東風をやってくれて嬉しかった。
あと俺は細野さん推しだったので、かぶりつきで細野さんを凝視していた。
あの人ああ見えて脚が長く、立ち姿がめちゃくちゃ様になるんよ。
※ちなみに翌月にワールドハピネスでもう一度YMOを観ることになる。

1曲目のYMO版Radioactivity?知らない子ですね・・・。

で、Kraftwerkである。
YMOからプラスで更に人が来て、会場がミチミチになったような。
客入れ中のポーンプーンピチョンみたいなあのエレクトリックノイズが鳴り出したあたりで若干体調を崩した記憶がある。
暑いしミチミチだし、興奮しすぎて呼吸がちょっとおかしくなっていた。
手に持っていたぬるいコーラを一気飲みし、頭を振って気合を入れた。

Meinne Dame Und Herren…
定番の冒頭アナウンスが聞こえ、また呼吸の仕方を忘れそうになる。

…Die Mensch Maschine
KRAFTWERK

ここから曲が始まるまでちょっとだけ間があるのだが、その間は完全に息をしていなかった。

腹に響く低音が鳴る。Geiger Counterだ。
フェスの趣旨的にGeiger Counter - Radioactivityと始まるだろうことは想定通りだった。

TSCHERNOBYL
HARRISBURG
SELLAFIELD
HIROSHIMA

1周目の手信号の映像段階はそのまま。2周目は・・・

チェルノブイリ
ハリスバーグ
セラフィールド

普段は英語で書いてある映像がカタカナになっている。
多分想定していることは同じで、周りがどんどん盛り上がってくる。

フクシマ

ここもまあ想定通りというか、流石にこれくらいはやるだろうと思っていた。
めちゃめちゃゴシック体みたいなカタカナになっているのは想定外だったが。
ただ俺はこの時点でちょっと冷めていた。
Kraftwerkにではなくこの場の空気に。

お前らの歓声はどういう向きなんだ?
喜んでるんだったら喜んでる場合じゃないだろ。
この曲に名前が上がっちゃいけないんだよ本当は。
HIROSHIMAを最後に歌詞が変わるべきじゃないだろ。

とまあ、いわゆる不謹慎厨のような心境だったのだ。
そういう趣旨のフェスに参加しているのだからお門違いなのは俺であるのはわかっている。
しかし容赦なく彼らは続けた。

日本でも放射能…

ああ、やってくれた。
周りは更に盛り上がってる。俺はお通夜になっている。
この曲中、俺はずっとモヤモヤしていた。

日本語歌詞は教授が監修した(歌詞を持ってきたのはラルフたち)らしい。
「シンプルで怒りが伝わるメッセージで感動し~」みたいな評判を後々読んだが、俺からしたら「シンプルにダサい」「今すぐやめろって今すぐやめるのはこの歌詞だよ」といまいちノリきれず曲を終えた。

まあ次曲のMetropolisでベース同期ズレという珍しいミスがあったり、ベスト3に入るくらい好きなComputer Loveをやってくれたり、アンコールがある珍しい構成になっていたりと、それ以降はキッチリ盛り上がったんですけどね。

でも最後Music Non Stopの各メンバーソロ終わりの時、俺がヘニングー!!って叫んだら「ヘニング?w」とか言った近くの女、お前の顔は今でも覚えてるからな。
向かって左から2番目のベース担当セクシーなハゲがヘニング・シュミッツだ覚えとけ。

悲しいことに、以降Radioactivityは国によらず日本語歌詞が必ず入る構成となってしまった。(前半:日本語、後半:英or独)
ただ韓国では後半韓国語、台湾では後半台湾語とアジアはご当地放射能サービスがあるようだ。

その後2017年に3D以降のライブテイクを集めたThe Catalogue:3Dが発売されたのだがもちろんRadioactivityは日本語歌詞バージョンだった。
それを抜きにしても、スタジオ盤をミックスして補強してたりそもそも歓声が入ってなかったり、ライブアルバムというよりリミックスアルバムのようで俺の中では低評価である。

長い事書いたが、結局以下に要約できるのだと思う。
・電卓みたいな楽しいサービスでなく、思想的なサービスなのがヤダ
 →そういう場だったから文句言うのがお門違いなのはわかっているが、割り切れない。
・それで喜んでる奴らをこの目で見てしまったのがヤダ
 →同上。論理でなく感情の問題。
・実際のアレンジがダサいのがヤダ
 →何か…もっと、こう…あるだろう(具体案無し)。
・日本公演限定とかこの場限りならまだしも定着しちゃったのがヤダ
 →海外のライブ映像でも逃げられない。

俺は純粋にKraftwerkの曲やライブの魅せ方が好きなんだろうね。

でも勘違いしてほしくないのは、この時も今も変わらず俺の中でKraftwerkはぶっちぎりの神であるということだ。
みんな、Kraftwerkを聴こうな。Apple MusicでMinimum-MaximumかThe Mixから始めよう。

ちなみにMinimum-MaximumのRadioactivityは本当にカッコいいぞ。
この時の全員ビジネススーツスタイルに戻ってくれないかなあと今でも密かに期待している。


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