One Control TORNADO Fx TORNADO Driveの感想。
私はこのエフェクターの音が好きなのだが、どうにもその音楽に精通したそれらの形式に乗っ取った音の感想を書くことが出来ないので、
自分が弾いた時に出てきた景色や空気感を書き留めて置く。
忘れる前に感じた景色を留めたい。
ちなみにだが、実は今もまだTKさんを知らないままでいる。
表に出ている情報として知っているのは曲と生年月日だけ。
生年月日事件以来、封を開けるのを怖がっている。
閉じたままで良いと思ってしまっている。
同化してしまうんじゃないかと。
もし剥き出しの言葉や景色が、私の風景を劈(つんざ)けば、元に戻れなくなりそうで。
だから分からないままで良いかと…
知らないままで。
深夜の地下鉄、終電の少し前。
少ない次の車列を待つ人の中に、一人だけ据えた目をした男が立っている。
春を待つ期待が人を賑わせるのに、何故だかその黒いコートに身を包んだ男に目が離せないのだ。
皆、時を待ち詫びている。
先の駅には沢山の雑踏があって、それに紛れ込む期待が目に浮かぶ。
人々の心が震えているのが見えるのに、その目は立ち止まったままだ。
途端踏み出すと走り抜けるように雑踏を掻き分けていく。
同じ速度で追いかけると、地上に出た。
排気ガスの黒い匂い。そして冬の透き通る匂い。
タイヤの音は通り抜けるだけで、静かな夜だ。
街は半分眠っている。航空障害灯が折り重なって点滅している。
男は間もなく歩みを進める。一直線に迷いなく。
辿り着いたのはメイン通りから路地に入った、決して広くはないが賑やかなバーで、そこにするりと入っていく。
常連なのだろうかと思いながら続いて入る。
「マティーニをステアじゃなくシェイクで。」なんて洒落た事は言えないので、唯一飲めるカルーアを頼んだ。
カウンターでのんびり眺めている男はブラックルシアンで、案外同じようなものだなと思った。
よく聞いているとここには初めて来たらしい。
賑やかしが少し落ち着かせてくれるのだろう、多分。
午前3時になろうかという所。
冬はまだ夜が深い。
店を出ると冷気が酒で温まった頬を撫でる。
暫くしたらすぐに冷めて、どうしようか考える。
まだ心の足りなさを何処かに求めるのは厄介な気がする。
だから少し彷徨ってから帰ろう。
長い高架橋を横目に静かな道を一人で歩く。
息が白くなって消えていく。
「本当はそうじゃなかった。」と勝手に口が動く。
それから無心で歩いた。
気付いたら家に帰っていて、昼になっていた。
重い頭痛に起こされて大変調子が悪い。
飲み過ぎては無いはずだがと思いつつも、取り敢えず珈琲を淹れて流し込む。
キンと冷えた空気と珈琲の匂いは相性が良いとつくづく思う。
ブラインドが折れて光が差し込んでいる。
夢の続きを書くのは、自分しかいないと実感する。
隙間から覗くと空は曇っている。
この世界で一人取り残されたような気分になる。
もう一口珈琲を含んで少し考え直す。
自分の手で始めた物語は、自分で描き切ろうと。
心の隙間を搔き消すような重い歪みが大変美味に思う。
ともすれば泣き止まない高音が天井を突き抜けてカチカチ音を立てる。
どうやったって爆音になる仕様は、大変落ち着くんだ。
言えなかった事や伝わらない事を代わりに、同時に、叫んでくれている様。
苦くて、甘い。香ばしい匂い。寒さ。間隙。芯の通った。不器用な。素直。目立つ(が派手ではない)。冬。狂おしさ。沈香の香り。
短くて、長い夢を見ている。