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アナグラム感謝祭 no.192「愛の名文句+MLB大谷さんコラム」
アナグラムーチョ by Makoto Sakashima
(さか島まこと)です。
アナグラム感謝祭 no.192
引き続き、愛の名文句、いや迷文句?
☆おやおやシェークスピアも言ってます☆
To be wise and love exceeds man's might.
「賢明なまま恋をするのは
人間の力を超えている」
シェークスピア(William Shakespeare
/1564-1616)が、彼の劇作品「トロイラスと
クレシダ」(Troilus And Cressida)に
記しています。
面白いもので、このシェークスピアの一節は、
以前のフランシス・ベーコン(1561-1626)の言葉、
It is impossible to love and be wise.
「恋をしてなお賢明でいられるのは不可能だ」。
これと似たような趣旨です。
ご両人とも、16世紀後半にかけて生まれた
同時代人。
恋愛と賢明であることは両立しがたいという考え方、その時代おいて、流行現象的だったのかしら。
この英国の巨匠お二人さんからやや遅れて、
われらが日本の巨匠、井原西鶴(1642-1693)が
「好色五人女」の中で記しています。
「世にわりなきは情(なさけ)の道」と。
この世で、道理・思慮分別ではどうにもなら
ないのが恋の道だとは、英国の二人と同じ
発想ですね。
ということで、C U next time!
なんですが、大谷翔平選手の軌跡を
少々振り返りたくて、再度不肖私の旧稿を下記に。
[2021年6月]
MLB
大リーグ野球
MLB(Major League Baseball/大リーグ野球)
のロサンゼルス・エンゼルスに所属する大谷翔平選
手(26)。今年の彼の活躍を、米国の各種メディア
は興味深い英語表現、記述で報じます。
例えば、打者・投手・走者のいずれであっても大
谷選手は一流と称賛して「彼は文字通り万能型だ」
(He's literally a jack of all trades.)。
原文の、a jack of all trades(ア・ヂャック・
オヴ・オール・トゥレイヅ/すべての商売のジャッ
ク/男子名のJackをjackと一般語化した表記が標準
的)。これで「万能型の人」という慣用句。
この良い意味が、大谷選手の前記例文のように本
来的だ。その一方で後に加わった「何でも屋」とい
う、やや軽んじる意もある。いわゆる「器用貧乏」
に近い感じだが、その意味合いを明確にする時は、
a jack of all tradesに、master of none(マスタ
ァ・オヴ・ナン/何一つ達人ではない)を加える。
で、いみじくも大谷選手について…。
「大谷はなりかねない、『何でも屋だが何の達人
にもなれない人に』」(Ohtani risks becoming
"a jack of all trades and master of none".)。
このような記述があるのも事実。
確かに「今季は打撃好調、打者に専念すれば本塁
打王も夢じゃない。が、負担の多い投手登板は、や
がて打撃にも悪影響を与え、結局全体として中途半
端な成績で終わるかも」。そう考える人もいる。
それでも現状では、大谷選手の能力は並外れてい
ると激賞する向きが多数派。まるで想像上の動物の
「一角獣」、unicorn(ユニコーン)のように現実
離れした存在だとする多くの記述例がある。
また、phenom Ohtani(天才大谷)という記述も
目立つ。phenom(フェナム)は「天才、驚異的人物」の意で、phenomenon(フェナーメナン/現象、絶品、天才)の略語です。
妙に印象深い記述が「世の中が大谷翔平にふさわ
しくなかろうと、ともかくも彼は存在してくれる」
(The world doesn't deserve Shohei Ohtani,
but he somehow exists.)。どこか文学的香気すら
漂う称賛、ほれ込みように驚きました。
(コラムニスト・さか島まこと)
[信濃毎日新聞夕刊 2021 6/8 初出]
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[2021年7月]
adjective
(アヂェクティヴ )
形容詞
米国メディアは、MLB(米大リーグ機構)の大
谷翔平選手(27)の活躍を報じる際に、多彩な形容
詞(adjective/アヂェクティヴ)を用います。
例えば大谷選手が特大ホームランを放てば、それ
に対して…。それぞれ「驚くべき、素晴らしい」の
意の、wonderful(ワンダフル)、amazing(アメイ
ズィング)、marvelous(マーヴェラス)。
また「信じられない(ほどにすごい)」の意でこ
の形容詞2語。unbelievable(アンビリーヴァブル)
と、incredible(インクレディブル)。
ここまでの語群はほぼカタカナ英語のレベル。当
然この程度では収まらない。さらに…。
「壮観な」の、spectacular(スペクタキュラァ)
と、magnificent(マグニフィセント)。「並外れ
た」の、extraordinary(イクストゥローディナリ
ィ)。これらで大谷選手を形容する。
ついには「卓越した」の、transcendent(トゥラ
ンセンデント)が登場。本来、神学・哲学系の「超
越的な」の意ゆえ何やら大仰さが増す。
他の形容詞も次々に登場する。これに困ったのが
大谷選手のボス、ロサンゼルス・エンゼルスのジョ
ー・マドン監督(67)。大谷選手の活躍に言及する
際に、メディアで既出の形容詞は避けたいようだ。
新鮮な描写法を、要は手あかのついていない言葉を、
辞典を頼りに模索せざるを得なくなったという。
想像するにマドン監督が頼った辞典は、類義語辞
典(thesaurus/シソーラス)の類いかも。例えば、
前出のwonderfulを引けば、そこに類義語として前
出のamazing、marvelousを掲載。およそこんな構成
で英語圏では必須の辞典だ。
ともあれ最近の彼が大谷選手を激賞し用いたのは、
supercalifragilisticexpialidocious(スーパァ
キャリフラヂリスティクエクスピアリドゥシャス)
「実に素晴らしい」という形容詞。
これは元来、子どもの言葉遊び系の語。映画「メ
リー・ポピンズ」(1964年)の挿入歌の題名に使わ
れ人気が出た。結局マドン監督は、大谷選手を褒め
ちぎるには、いっそ奇抜でにぎにぎしい語が最善と
考えたのか、異様に長い形容詞を選びました。
(コラムニスト・さか島まこと)
[信濃毎日新聞夕刊 2021 7/13 初出]