この記事では、連載【赤報隊に会った男】の本編(全12回)で取り上げることができなかった鈴木邦男氏(以下、敬称略)の赤報隊に関する発言を紹介する。
ご存じの通り、この連載では「鈴木邦男は本当に赤報隊に会ったのか」という謎をテーマに据え、生前の彼の言葉の数々を検証してきた。しかし、そこで取り上げた発言以外にも、彼は赤報隊に関して膨大な文章を書き残している。
その中から特に興味深い言葉を幾つかピックアップしたので、連載本編を読了した方々には是非これらの言葉にも目を通していただき、彼の胸の奥底を推し量る材料にしてほしい。
右翼のしわざとは思えない
これは、朝日新聞阪神支局襲撃事件の発生直後に発行された一水会機関紙「レコンキスタ」に載った文章の一節。事実上、赤報隊に関して鈴木が対外的に発した初めての言葉ということになる。
ちなみに、機関紙の日付は5月1日となっているが、鈴木によると、実際にこの号が出たのは5月10日ごろ。事件発生3日後に共同通信社と時事通信社へ犯行声明文が届き、その内容が世間に報じられた直後のタイミングだった。なぜ日付がずれているかというと、第三者郵便は発行日を一定にそろえる必要があり、レコンキスタは「毎月1日発行」という建前になっていたので、実際の配布が遅れても日付はそのままにしていたのだという。
また、犯行声明の主を「独立義勇軍」と書いているのは、「日本民族独立義勇軍 別動 赤報隊 一同」という犯行グループ名のうち、当時は「日本民族独立義勇軍」の部分が重要だと認識していたためだという。
「もしかしてあいつが…」という臭いすらない
事件発生の3年後に出版した著書での言葉。
「犯人が右翼なら堂々と名乗り出るはずだ」という主張は、その後も鈴木が一貫して唱え続けた持論である。
ただし、この本の中で鈴木と対談している朝日新聞の伊波新之助・編集委員(当時)は「野村秋介さんだって河野邸焼き討ち事件を起こした時など、一週間ぐらい逃げ回っている」「伊勢市役所に放火したYP体制打倒薩摩精忠隊なんかも犯行直後は姿をくらましている」と指摘し、テロを起こした右翼が必ずしも潔く行動するとは限らないと反論している。
僕の前に現れた赤報隊は若かった
事件発生から8年が過ぎ、鈴木が赤報隊との接触を「告白」した「夕刻のコペルニクス」の中の一節。珍しく、謎の男の人となりに言及し、「若かった」と証言している。
野村さんも僕も完全犯罪の片棒を担がされた
同じく「夕刻のコペルニクス」の一節。2017年のインタビュー内容と併せて読むと、いろいろ腑に落ちると感じる部分はある。しかし基本的には、読めば読むほど謎めいていて、どこまで真に受けていいのか悩ましい文章だ。
赤報隊は僕に恩義があると言った
これも赤報隊との接触エピソードと言えるかもしれないが、いつの話なのかさっぱりわからない。
彼らと会ったのは本当だ
1994年から2001年まで「SPA!」誌上で6年半にわたって続いた連載コラム「夕刻のコペルニクス」の最終回に鈴木が記した言葉である。
1995年の赤報隊編の結末では「この連載はすべて本当かもしれないし、すべてウソかもしれない」とお茶を濁した鈴木だったが、連載そのものが打ち切られるにあたって最後に再び赤報隊の話題を持ち出し、「会ったのは本当だ」と主張している。
さらに、翌年5月に迫った朝日新聞阪神支局襲撃事件の公訴時効を見据え、自分が何らかのアクションを起こすから生の声を寄せてくれと要請。読者に対しても「来年5月に一度だけ復活する」と宣言している。
しかし、僕が調べた限り、少なくとも2002年5月発行の「SPA!」に鈴木は一度も登場していないし、「SPA!」誌上で116号事件に関する何らかの企画が催された形跡もない。鈴木が意図した「仕掛け」が何だったのかは不明である。ご存じの方がいらっしゃれば、ぜひ情報提供をお願いしたい。
女と見紛う優男だった
週刊新潮のニセ実行犯手記事件(詳しくは連載本編の第7回を参照)が世間を騒がせていたころ、鈴木がブログに載せた記事の一節だ。
読みようによっては「私が会った赤報隊らしき謎の男は、女と見紛うような優男だった」と受け取れるが、例によって、つかみどころのない文章構成になっている。
反日的なのは君たちだと赤報隊に言いたい
朝日新聞出版発行の週刊誌「AERA」に書いた書評の中の一節。紹介している本は、元朝日新聞116号事件取材班キャップ・樋田毅氏(以下敬称略)の著書「記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実」である。
これまで見てきた鈴木の言葉には、どこか赤報隊に対する思想的シンパシーのようなものが漂っていたが、晩年に書かれたこの文章にはそうした感情が消え失せ、強く批判する内容となっている。逆に、赤報隊の正体を探るために必死で右翼取材を続ける樋田への強い共感がにじみ出ている。
大げさに言えば、赤報隊への決別宣言とも受け取れる内容であり、鈴木の思想的変遷やその到達点を考えるうえでも大変興味深い文章だ。
しかし、その樋田に対しても最後まで真相を詳らかにしなかったのだから、鈴木の胸の奥底に秘められた謎は限りなく深いと言うほかない。
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