散文 6
唐突に、誰かの夜が欲しくなって、私は本を手に取るのだった。
ここではない、どこかへの、静かでささやかな旅。
隣では、夢と現の狭間を彷徨う息子が、何やら不思議な舞いを舞っている。
まだちいさな彼は、自分の両手が布団につくその衝撃に驚いてしまうのだ。
両手が布団につくたびに、ビクッとし、また両手を上げる。
薄く目を開いて、時々にやりと笑ったりするもんだから、もうこれは起きているのではないかとひやひやするが、両手をこねくりまわしながらも、彼はたしかに眠っている。
その、健やかな、寝息。
もう少し大きくなったら、きっとこんなにビクビクせずにぐっすりと眠れるようになるのだろう。
彼がそんなふうに堂々と眠れるように、と願う一方で、この舞いが見られなくなる日を、きっと私は寂しく思う。
不思議な舞いを横目に、私はひとり、誰かの夜を静かになぞる。
その、安らかな、時間。
切れ目なく続く日々の、ほんの一瞬。
この愛しい瞬間を小箱に入れて、こっそり持っておきたくなるのだ。