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【ショートショート】1985年の贋作小話 その85 「かもめのジョナサン」

 かもめのジョナサンは、かもめであることに飽き飽きしていました。食べるものといえば魚ばかり、それも遠い沖まで飛んでいって目を皿のようにして小魚が海面に浮かんでくるのを見張っていないといけません。疲れるといったらないのです。もっと楽ちんで色んなもんが食べられる方法はないものか、かもめのジョナサンは考えました。
 いちばん楽ちんに生きていける鳥って何だろう? それはカラスだとジョナサンは思いつきました。一日中飛び回って食べ物を探す必要はありません。人間が食べ残したおいしい料理が、いつだって町のいたるところにころがっているのですから。お腹がいっぱいになればどこか涼しい森の梢で昼寝でもしていればいいのです。ああ、カラスになりたい・・・。かもめのジョナサンはある日、町に一羽のカラスを訪ねました。

「まあ、仲間にしてやってもいいがな」カラスの言葉にかもめのジョナサンは大喜びです。
「ただ、その恰好じゃあな。カラスは真っ黒でなくっちゃいけない。そんななまっちろいカラスなんていねえからな」カラスはかもめのジョナサンに知り合いの日焼けサロンを紹介してくれました。
「そこでこんがり焼いてきな。そしたら仲間にしてやらあ」かもめのジョナサンは期待に胸を弾ませて、紹介してもらった日焼けサロンを訪れました。
 日焼けサロンなんて初めてのかもめのジョナサンは、店員のカラス女の言うがままにカプセルのような容器に入れられます。
「さあ、三十分ほどでこんがり焼きあがりますからね」カラス女はそういうとパチンとスイッチを入れました。カプセルの内側がぼわっと明るくなります。たまにカラス女がカプセルの外から合図を送ります。そうしたら寝返りをうたなくてはいけません。全身をまんべんなく焼くためです。
 それにしても暑いなあ・・・。そう思ったときにはもう、気が遠くなっていました。
 三十分のタイマーが鳴るとカラス女はスイッチを切り、店の表に出て『日焼けサロン』と書かれた看板を裏返しました。
『かもめの丸焼き、あります』
 そういえば最近かもめを見なくなったな。もしそう思うことがあったら、こういうわけがあったということです。

                            おしまい


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