HYMPAVZI (marstacimab-hncq)が血友病Aおよび血友病Bの治療薬としてFDAに承認された

2024年10月11日、HYMPAVZI (marstacimab-hncq)が血友病Aおよび血友病Bの治療薬としてFDAに承認されました。

血友病について

 血友病は、血液が正常に凝固しないことから、出血が止まりにくくなる遺伝性の出血性疾患です。血友病には2つのタイプがあり、第VIII因子の欠乏による「血友病A」と、第IX因子の欠乏による「血友病B」に分類されます。両因子の遺伝子はいずれもX染色体上に存在するため、患者は一般的には男性です。

 血友病Aでは第VIII因子が、血友病Bでは第IX因子が不足するため、傷ついた血管で適切な血栓を形成することができず、関節や筋肉内で出血が繰り返されます。関節への出血が繰り返されると関節症や滑膜炎が引き起こされ、関節の可動域や日常動作に支障をきたす可能性があります。軽度の頭部への打撲に対しても出血が止まらず、重症化する可能性もあります。

 血友病の治療は、不足している凝固因子の補充療法を通じて行われます。患者は補充療法を受けに週に数回、病院を受診し、静脈注射を受ける必要があり、大きな負担を伴います。治療の経過中に、投与した凝固因子に対する抗体(インヒビター)が形成されることがあり、治療の難易度が増加します。

HYMPAVZIとは

 HYMPAVZI(marstacimab-hncq)は、Pfizer社が開発した血友病AおよびBの予防的治療薬です。12歳以上で、治療の過程で第VIII因子や第IX因子に対するインヒビターが生じていない患者が適応になります。

 従来の治療では、欠乏した凝固因子を補充する「補充療法」が一般的でしたが、凝固因子の半減期は短く、週に数回、注射で定期的に補充することが必要でした。HYMPAVZIは患者自身の凝固経路のバランスを変化させ、活性化する新しい治療オプションです。補充療法に比べて治療の頻度も少なく、自己投与可能であることから、日常的な管理の負担が軽減される可能性があり、患者のQOL向上にも寄与することが期待されます。

作用機序

 HYMPAVZIの有効成分であるmarstacimab-hncqは、組織因子経路インヒビター(TFPI)に対するモノクローナル抗体です。

 TFPIは凝固経路の外因系を調節する因子です。外因系は組織の破壊により放出された組織因子(Tissue Factor:TF)が凝固因子VIIaを活性化することで血液凝固を促進する経路です。TFPIは、凝固因子VIIaおよびXaと結合し、その活性化を抑制する作用があります。生理的にはネガティブフィードバック経路として働き、血栓形成を防ぎ、過剰な凝固を抑える役割を果たします。

 Marstacimabは、TFPIのKunitzドメイン2 (KU2) を認識して結合し、TFPIが凝固因子VIIaとXaを不活性化する機能を阻害します。MarstacimabがTFPIの機能を抑制し、外因系の凝固経路を「活発な状態」に保つことで、血友病患者の体内における血液凝固のバランスを変化させ、血液凝固が効率的に行われるようになると考えられています。

 同じ作用機序の薬物として、concizumab (Alhemo、アレモ、ノボ・ノルディスク)が日本およびEUで承認・販売されています。ConcizumabはTFPIのKU1を特異的に認識する抗体で、おおよそ同じ作用機序で血友病患者の凝固系を正常化させると期待されています。

臨床試験

 HYMPAVZIの有効性は、116人の血友病AまたはBの成人および12歳以上の小児を対象に行われたクロスオーバーオープンラベル試験であるBASIS試験で評価されました (NCT03938792、NCT05145127)。今回の承認は、第VIII因子または第IX因子に対するインヒビターが発生していない患者の結果をもとに行われました。

 患者はまず「オンデマンド治療群」と「予防治療群」の2群に分けられ、6カ月間、従来の凝固因子補充療法を受けました。その後、全ての患者に対してHYMPAVZIが初回投与として300 mg、その後は150 mgを週1回、12カ月間にわたり使用されました。

 最初の6ヶ月間、補充療法による「オンデマンド治療」を行った患者33名では、年間出血率(ABR)が38%でした。同じ患者群において、HYMPAVZIの投与はABRを3.18%に低下させました。また、最初の6ヶ月間、補充療法による「予防治療」を行った患者83名では、年間出血率(ABR)が7.85%でした。同じ患者群において、HYMPAVZIの投与はABRを5.08%であり、従来の補充療法に劣らない有効性が確認されました。


安全性・副作用

 臨床試験を通じてHYMPAVZIの使用に関連する副作用には、注射部位反応(9%)、頭痛(7%)、および皮膚のかゆみ(3%)などが報告されています。また、作用機序から避けきれない副作用として血栓塞栓症が挙げられます。また、抗体薬なのでアナフィラキシー反応にも注意しなくてはいけません。

HYMPAVZIは、血友病AおよびB患者にとって、従来の負担の大きな治療法に代わる、画期的な治療オプションになる可能性があります。現在、より長期的な予防効果を評価するための臨床試験が行われており、結果が待たれるところです。


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