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GOMEKLI (mirdametinib)が神経線維種症I型(NF1)患者における叢状神経線維種の治療薬として承認された
2025年2月11日、GOMEKLI (mirdametinib)が神経線維種症I型(NF1)患者に伴う叢状神経線維腫(PN)の治療薬として承認されました。
神経線維腫症I型(NF1)について
神経線維腫症I型(NF1)は、約3,000人に1人の割合で発生する常染色体優性遺伝疾患であり、NF1遺伝子の変異によって引き起こされます。
NF1遺伝子は、細胞内シグナル伝達を制御するニューロフィブロミンと呼ばれるタンパク質をコードしています。ニューロフィブロミンは、Ras-GAP(GTPase activating protein)として機能し、Rasタンパク質のGTP結合型からGDP結合型への変換を促進することで、Rasの活性を抑制します。NF1遺伝子の変異によりニューロフィブロミンの機能が低下すると、RasがGTP結合型として過剰に存在し、MAPK経路やPI3K/AKT経路といった下流のシグナル伝達経路が活性化され、細胞増殖、生存、分化が異常に促進されると考えられています。
NF1の主な症状は、皮膚のカフェオレ斑、神経線維腫、虹彩小結節(Lisch nodule)などです。神経線維腫は、皮膚、皮下組織、末梢神経などに発生する良性腫瘍であり、痛み、神経症状、運動機能障害、変形、外観の変化などを引き起こすことがあります。特に叢状神経線維腫(PN)は、神経線維腫症I型(NF1)患者に特徴的な病変であり、神経線維に沿って広範囲に増殖するため、周囲組織への浸潤や圧迫による症状を引き起こし、外科的切除が困難な場合も多く、患者さんのQOLを著しく損なうことがあります。外科的切除が必要ですが、完全に取り除くことが難しいことも多く、患者さんのQOLを著しく損なうことがあります。
NF1に対する現在の治療は、症状の緩和が中心であり、手術による腫瘍の切除、鎮痛剤による疼痛管理、リハビリテーションなどが行われます。MEK阻害剤であるセルメチニブ(コセルゴ)は、NF1に伴うPNを有する小児患者に対して承認されていますが、成人のNF1-PNに対する承認された治療薬はこれまで存在しませんでした。
GOMEKLIとは
GOMEKLI(mirdametinib)は、SpringWorks Therapeutics社が開発し、製造・販売するMEK阻害剤です。手術が困難なNF1に伴うPNを有する2歳以上の患者さんの治療薬として承認されました。
セルメチニブ(コセルゴ)と同様にMEK阻害剤ですが、GOMEKLIは成人のNF1-PN患者さんにとって初めての承認された治療薬であり、新たな治療の選択肢となります。
作用機序
Mirdametinibは、MEK1/2(マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1/2)の阻害剤です。MEK1/2は、Rasの下流、ERKの上流に位置するタンパク質です。Mirdametinibは、MEK1/2活性を阻害し、ERKのリン酸化を抑制することで、ERK経路の活性化を抑制します。これにより、NF1遺伝子変異によって過剰に活性化されたMAPK経路を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制すると考えられています。
臨床試験
GOMEKLIの有効性は、オープンラベル、シングルアームの国際共同第II相試験であるReNeu試験(NCT03962543)で評価されました。本試験では、手術が困難なNF1に伴うPNを有する2歳以上の患者さん114人(58人が18歳以上の成人、56人が2歳以上18歳未満の小児)を対象に、GOMEKLI 2mg/m²/回を1日2回、28日間のうち21日間経口投与し、病勢進行または許容できない毒性が認められるまで投与を継続しました。
主要評価項目は、治療24サイクルにおいて、標的PNの体積がベースラインから20%以上縮小した患者さんの割合と定義されました。腫瘍体積の評価は、MRIを用いて行われ、盲検化された独立中央判定委員会(BICR)によって客観的に評価されました。その他、奏功期間や痛みやQOLに関する患者報告アウトカムが副次評価項目として設定されました
成人患者群では24人(41%)が、治療24サイクル中に奏効を達成しました(95%信頼区間:29%~55%、p<0.001)。また、小児患者群では29人(52%)が、治療24サイクル中に奏効を達成しました(95%信頼区間:38%~65%、p<0.001)。これらの結果は、GOMEKLIが成人および小児のNF1-PN患者において、統計的に有意な奏効率を示すことを意味します。
データカットオフ時点で、成人患者群の96%がデータカットオフ時点で奏効を維持しており、18人(75%)は12ヶ月以上の奏効期間を達成しました。また、小児患者群では全員(100%)がデータカットオフ時点で奏効を維持しており、22人(76%)は12ヶ月以上の奏効期間を達成しました。奏効期間の中央値は未到達であり、GOMEKLIによる治療が持続的な腫瘍縮小効果をもたらす可能性が示唆されました。患者報告アウトカムに関しても成人、小児ともに有意に改善していました。
安全性・副作用
ReNeu試験で確認されたGOMEKLIの主な副作用は、ざ瘡様皮膚炎、下痢、悪心、嘔吐、疲労などでした。
【重要】重篤な副作用として、網膜静脈閉塞(RVO)、網膜色素上皮剥離(RPED)などの眼毒性、および左室駆出率(LVEF)低下などの心毒性が報告されています。ReNeu試験では、眼毒性全体で約25%の患者に認められ、グレード3以上のRVOは2.7%に見られました。LVEF低下は、10~20%の低下が約20%の患者で、20%以上の低下が約1%の患者で認められました。
結論
GOMEKLIの承認は、NF1に伴うPNに苦しむ患者さんにとって、新たな治療の選択肢となることが期待されます。ReNeu試験の結果は、GOMEKLIがPNの縮小とQOL改善に有用である可能性を示唆しています。投与中は、眼毒性と心毒性に注意する必要があります。
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