ATTRUBY (acoramidis)がトランスサイレチン型心アミロイドーシスの新規治療薬としてFDAに承認された

トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)について

 トランスサイレチン(TTR)は主に肝臓で産生され、血液中で甲状腺ホルモンやビタミンAを運搬する役割を担うタンパク質です。TTRは四量体として安定していますが、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)ではこの四量体が不安定化し、分解された単量体がアミロイド線維という不溶性の線維を形成します。このアミロイド線維が心筋に蓄積すると、心筋が硬くなり、心不全症状や運動能力の低下が引き起こされます。
 ATTR-CMには遺伝性(変異型: ATTRv)および非遺伝性(野生型: ATTRwt)の2つの形態があります。変異型では遺伝子変異によりTTRタンパク質が不安定化します。比較的若年で発症し進行性も早いことが特徴で、日本では熊本県と長野県に患者が集積しています。野生型は加齢によりTTRタンパク質が不安定化しますがその機序はよくわかっていません。高齢者に多く、進行は比較的緩やかです。発症するのは男性が圧倒的に多く、10-30%で心臓にアミロイドの沈着を認めると報告されていますが、正確な有病率はわかっていません。

ATTRUBYとは

ATTRUBY(一般名:acoramidis)は、BridgeBio Pharma社が開発したTTRを四量体の状態で安定化させる作用を示す経口薬です。成人における野生型または変異型ATTR-CMが適応です。
 ATTR-CMに対しては他の治療薬として、同じくTTRの安定化作用を示すVYNDAQEL(ビンダケル、tafamidis)があります。TTRが原因となるアミロイドが神経に沈着することで生じるポリニューロパシーに対しては、siRNA薬であるONPATTRO(patisiran)、AMVUTTRA(vutrisiran)、アンチセンスオリゴであるWAINUA(eplonserten)が存在します。ONPATTROとAMVUTTRAはATTR-CMに対する有効性も報告されていますが(ONPATTRO: APOLLO-B試験(NCT03997383)、AMVUTTRA: HELIOS-B試験 (NCT04153149))、規制当局からはまだ承認されていません。

作用機序

 ATTRUBYの有効成分であるacoramidisは、TTRの四量体構造を安定化させる遺伝子変異(T119M)を模倣して設計された薬物です。成熟したTTR四量体を安定化させ、分解を抑制することで、病態進行を遅らせます。VYNDAQEL (tafamidis) はTTRが甲状腺ホルモン(T4)と結合する部位に結合する形式でTTR四量体を安定化させます。
 両者の有効性を直接比較することはできませんが、acoramidisの方がより強固にTTRへと結合する可能性が示されています(J Med Chem. 2018 Aug 22;61(17):7862–7876)。

臨床試験

 ATTRUBYの有効性と安全性は、ATTRibute-CM試験と呼ばれる第3相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で評価されました(NCT04620733)。
この試験では、野生型または変異型ATTR-CM患者632名を対象に、ATTRUBYまたはプラセボを30ヶ月間投与しました。
 この臨床試験では、「4つの主要評価項目」を階層的に比較する方法(階層的解析)を用いて、ATTRUBY群とプラセボ群の治療効果を評価しました。4つの評価項目は以下の通りです:
1. 全死因死亡(すべての原因による死亡)
2. 心血管関連入院(心臓病に関連する入院の頻度)
3. NT-proBNPの変化(心不全の重症度を示すバイオマーカーの改善)
4. 6分間歩行距離の変化(運動機能の改善)
 ATTRUBY群はプラセボ群と比べて、4つの評価項目で総合的に優れた結果を示しました。統計解析(Finkelstein-Schoenfeld検定)の結果、5.015という有意な数値(P < 0.001)が示されました。ウィンレシオは、ATTRUBY群がプラセボ群より優れた結果を示した割合を示す指標で、1.8倍(95%信頼区間: 1.4~2.2)と報告されました。
 心血管関連入院の相対リスク比(Relative Risk Ratio)は0.496(95%信頼区間: 0.355~0.695)、心不全の重症度を反映するNT-proBNP値の変化は0.529(95%信頼区間: 0.463~0.604)であり、ATTRUBYが心血管関連の入院リスクと心不全進行を有意に抑制した可能性が示されています。

 副次評価項目として設定された、患者のQOLを評価する患者報告アウトカム、6分間歩行距離はATTRUBY投与群で有意に変化が抑制されていました。血清TTR値はATTRUBY投与群で大幅に増加していました。全死因死亡はATTRUBY投与群で改善傾向を認めましたが、その差は有意ではありませんでした。18か月以降になると、プラセボ群の死亡率がアコラミディス群を上回る傾向が徐々に明らかになっていることから、長期的な結果が待たれます。

安全性・副作用

 臨床試験では、ATTRUBYの安全性プロファイルは良好で、重篤な副作用の発生率はプラセボ群より低い結果が示されました(ATTRUBY群54.6%、プラセボ群64.9%)。主な副作用として、軽度の消化器症状(下痢、腹痛)が報告されましたが、多くは軽度で治療中止を要しませんでした。また、血清クレアチニン上昇とeGFR低下が一過性に観察されましたが、治療中止後に回復しました 。

結論

 ATTRUBYは、トランスサイレチン型心アミロイドーシスの患者に対して、新たな治療の選択肢をもたらします。両者を比較するような臨床試験がデザインされる可能性は低いですが、市販後調査を通じてATTR-CM患者がより有効な薬剤を選択できる知見が示されるといいなと感じます。

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