MIPLYFFA(arimoclomol)がニーマン・ピック病C型の新規治療薬としてFDAに承認された

2024年9月20日、MIPLYFFA(arimoclomol)がニーマン・ピック病C型の新規治療薬としてFDAに承認されました。

ニーマン・ピック病について

 ニーマン・ピック病は細胞内で脂質を分解・輸送する酵素の先天的な異常により、神経細胞や肝臓、脾臓などの細胞に脂質が蓄積する先天性代謝疾患です。酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素の異常でスフィンゴミエリンが蓄積するA型、B型とNPC1およびNPC2遺伝子の異常でコレステロールやその他の脂質が蓄積するC型に分類されます。

 ニーマン・ピック病C型(NPC)の原因遺伝子であるNPC1およびNPC2は細胞内でコレステロールを必要な場所へと輸送する機能をもっており、その異常により細胞内にコレステロールやその他の脂質が異常に蓄積します 。この蓄積は、神経系を含む多くの臓器に影響を与え、特に運動機能、認知機能、言語、嚥下(えんげ)に問題が生じます 。進行が速い乳児型、徐々に進行する幼児型、さらには成人発症型まであり、症状の現れ方や進行速度は個々に異なります。現時点では、完全な治療法はなく、症状の進行を遅らせるための治療が行われています。


MIPLYFFAとは

 MIPLYFFA (arimoclomol)は、もともとハンガリーの製薬企業Biorex社で開発された化合物です。今回NPCを適応疾患としたFDAへの申請はZevra Therapeutics社が行いました。2歳以上のニーマン・ピック病C型の患者に対して、miglustat (ZAVESCA 、日本での薬剤名はブレーザベス) との併用が今回承認されました。Miglustat は、グルコシルセラミド合成酵素の阻害薬で、NPC患者で蓄積が認められる脂質の一種であるガングリオシドの合成を阻害することで薬理作用を発揮します。MIPLYFFAは後述するように全く異なる作用機序で有効性を示す薬物です。


作用機序

 Arimoclomolの標的分子を含む作用機序は完全には解明されていません。基礎的な研究では、arimoclomolが細胞がストレスを受けた際に自然に発生する「熱ショック応答」に重要なHSP(heat shock protein)を誘導し、熱ショック応答を活性化することが報告されています。
 NPC患者では遺伝子変異によりNPC1やNPC2のタンパク質がミスフォールディング(異常な構造におりたたまれること)を起こしています。ArimoclomolによりHSP、特にHSP70の発現が誘導されることで、NPC1/NPC2の構造と機能が部分的に正常化します。

 ArimoclomolによるHSPの誘導は、NPC1やNPC2タンパク質以外にも、リソソームの分解機能に関与するタンパク質やリソソーム膜を安定化することでリソソーム機能を向上させることが知られています。そのため、動物レベルの実験結果ではNPC以外の先天性代謝疾患モデル(ファブリー病、サンドホフ病)への有効性も示されています(Sci Transl Med. 2016 Sep 7;8(355):355ra118.)。

 Arimoclomolは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の動物モデルに対しても有効であり(Nat Med. 2004 Apr;10(4):402-5.)、少数の患者を対象とした臨床試験では有効性も示されましたが(Neurology. 2018 Feb 13;90(7):e565-e574.)、最近報告された多くの患者を対象とした臨床試験では有効性が認められませんでした(Lancet Neurol. 2024 Jul;23(7):687-699. )


臨床試験

 MIPLYFFAの有効性と安全性は、2歳から18歳までのNPC患者を対象とした第2/3相の二重盲検プラセボ対照試験で評価されました(NCT02612129) 。
合計50名の患者に対してプラセボ(16名)またはMIPLYFFA(34名)が投与されました。
 主要評価項目はNPC患者の臨床的な重症度を示す指標である5ドメインNiemann-Pick型C臨床重症度尺度(5-domain NPCCSS)で、12か月間の試験期間後、プラセボを投与された患者ではスコアが2.15増加していたのに対して、MIPLYFFAを投与された患者群は増加が0.76に抑制されていました。これはMIPLYFFAが年間の病状の進行を65%抑制できたことを示しています。
 症例数は少ないものの、miglustatを投与されていない患者ではMIPLYFFAの有効性が認められませんでした。(PRESCRIBING INFORMATIONと論文(J Inherit Metab Dis. 2021 Nov;44(6):1463-1480.)で若干内容が異なっていましたが、論文の内容を記載しています)


安全性・副作用

 臨床試験では、MIPLYFFAを使用した患者の88.2%が何らかの副作用を経験しましたが、多くは軽度から中等度のものでした。最も多かった副作用は、嘔吐、上気道感染、体重減少でした。また、深刻な副作用として、蕁麻疹(じんましん)や血中クレアチニンの増加が報告されましたが、これらは治療を中止することで改善しました 。

今回、AQNEURSA、MIPLYFFAと2つの薬物が稀少疾患であるニーマン・ピック病C型の新規治療薬として承認されました。治療オプションが増えることで複合的にNPCの予後が改善することが望まれます。

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