ロシュ(Roche)2024年第3四半期の財務とパイプライン概要

はじめに

ロシュ(Roche)は、腫瘍、神経疾患、免疫疾患、眼疾患など、幅広い治療分野において革新的な医薬品と診断ソリューションを提供する製薬企業です。本記事では、2024年第3四半期の財務実績およびパイプラインの進捗について解説し、今後の成長見通しについても触れます。特に、ファーマシューティカル部門の新薬の売上と診断ソリューション部門での成長が注目されています 。

財務概要

2024年第3四半期までのRocheの財務状況は以下の通りです:

  • 総売上高:449億スイスフラン(前年同期比+6%、CERベース)

  • ファーマシューティカル部門売上高:342億スイスフラン(前年同期比+7%、CERベース)

  • 診断部門売上高:107億スイスフラン(前年同期比+5%、CERベース)

2024年のガイダンスも引き続き中程度の一桁台の成長が見込まれ、コアEPSも高い一桁台の成長が予測されています 。

セグメント別売上

ファーマシューティカル部門

  • Ocrevus(多発性硬化症治療薬):50億5,600万スイスフラン(前年同期比+9%)
    主に米国での新規患者数の増加と高いリテンション率が成長を支えました。

  • Hemlibra(血友病A治療薬):32億8,000万スイスフラン(前年同期比+10%)
    特に欧米市場での導入が進み、27,000人以上の患者に使用されています。

  • Vabysmo(眼疾患治療薬):28億1,600万スイスフラン(前年同期比+79%)
    すべての地域での需要が増加し、米国では市場シェアの拡大が続いています。

  • Polivy(血液がん治療薬):8億1,700万スイスフラン(前年同期比+41%)
    特に1次治療でのシェア拡大が売上増加を牽引しています 。

診断部門

  • 免疫診断:主要な成長分野で前年同期比+10%の成長を示し、心疾患や腫瘍マーカーの需要が高まりました。

  • 病理診断:前年同期比+15%と高い成長を遂げ、特にカスタムバイオテクノロジー分野が貢献しました。

  • 近接患者ケア:COVID-19関連売上の減少が影響し前年同期比-10%でしたが、全体的な成長は依然として堅調です 。

パイプラインの進捗

がん治療領域

  • Itovebi(inavolisib):PIK3CA変異陽性HR陽性乳がんの一次治療薬として、フルベストラントとパルボシクリブの併用療法の承認申請が米国およびEUで行われました。PIK3CA変異乳がん患者にとって、新たな治療選択肢の提供が期待されています 。先日の記事で紹介しました(ITOVEBI)。

  • Tecentriq Hybreza:FDAによって、唯一の皮下注射型PD-(L)1免疫療法として承認され、がん患者に対する治療の柔軟性を向上させています。従来の30〜60分間の点滴療法と比較し、7分間で治療が完了することが特徴です。

  • Polivy(polatuzumab vedotin):特に、血液がん治療で新たに1次治療適応が追加され、集中的な治療を必要とする患者層に対して使用拡大が期待されています。

眼疾患領域

  • Vabysmo(faricimab):眼科領域の網膜静脈閉塞症(RVO)治療において、欧州委員会の承認を取得。Vabysmoの使用により、治療間隔を3〜4カ月まで延ばすことが可能であると報告されています。これにより患者の治療負担が軽減されると期待されています 。

  • Susvimo:糖尿病黄斑浮腫(DME)および糖尿病性網膜症(DR)向けの長期持続投与インプラントとして、米国での承認申請が行われています。これにより、患者はより少ない頻度で治療を受けられる利点が生まれます。

遺伝性疾患および免疫疾患領域

  • PiaSky(crovalimab):希少疾患である発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)向けに欧州で承認。毎月の皮下注射により患者の自己投与が可能となり、治療負担の軽減が図られています。これにより、既存の治療法と同等の効果をもつ新たな選択肢が提供されました 。先日の記事で紹介しました(PIASKY)。

  • Gazyva(オビヌツズマブ):ループス腎炎の治療において、第III相試験において従来治療に対する有意な優位性が示されました。ループス腎炎患者にとって、進行を遅らせる可能性があり、今後の治療における重要な役割が期待されています。

神経疾患領域

  • Evrysdi(リスディプラム):脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療において、2年間のデータで歩行や立位、座位の獲得率が向上することが確認されています。Evrysdiは非侵襲的な治療選択肢として100カ国以上で承認され、グローバルで16,000人以上のSMA患者が利用しています。

業績と展望

2024年のRocheは、ファーマシューティカル部門と診断部門の両方で堅調な成長を続けており、COVID-19関連製品の需要減少を補う新薬の導入が寄与しています。特に、Ocrevus、Vabysmo、Polivyといった新しい医薬品が売上を牽引し、今後も成長が見込まれています。加えて、診断部門では、新しい血清学ソリューションや多重呼吸器検査技術が市場投入され、基盤ビジネスの強化が図られています 。

結論と今後の展望

2024年第3四半期におけるRocheは、新規医薬品の売上増加と診断ソリューションの導入により、持続的な成長を実現しました。ファーマシューティカルと診断部門がともに堅調な成長を示しており、特に米国および新興市場での売上増が期待されます。

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