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ROMVIMZA (vimseltinib)が腱鞘巨細胞腫の治療薬として承認された
2025年2月14日、ROMVIMZA (vimseltinib)が腱鞘巨細胞腫患者の治療薬としてFDAに承認されました。
腱鞘巨細胞腫(TGCT)とは
腱鞘巨細胞腫(Tenosynovial Giant Cell Tumor: TGCT)は、関節、滑液包、腱鞘などの滑膜に発生する、比較的まれな局所浸潤性の腫瘍です。手指の腱鞘に痛みのない腫瘤として発生し、数年かけて徐々に大きくなります。
TGCTではコロニー刺激因子1(CSF1)遺伝子の発現亢進が認められます。多くの場合、遺伝子変異(転座)によってCSF1の過剰発現が生じます。これによりCSF1受容体(CSF1R)を持つ単球やマクロファージなどの炎症細胞が腫瘍部位に動員され、腫瘍の大部分(95%以上)を構成します。
現在のTGCT治療の第一選択は外科的切除ですが、腫瘍の部位や大きさによっては、手術が困難な場合や、手術後に機能障害や重度の合併症を引き起こす可能性があります。また、手術で完全に切除できたとしても、再発のリスクが伴います。TURALIO (pexidartinib) はCSF1受容体を標的とする唯一の全身療法薬として米国で承認されていますが、肝毒性に関する警告が表示され、リスク評価・軽減戦略(REMS)プログラムを通じてのみ入手可能でした。
ROMVIMZAとは
ROMVIMZAは、小野薬品工業の子会社であるDeciphera Pharmaceuticals, LLCが開発・製造・販売する新規の経口CSF1受容体 (CSF1R) 阻害薬です。ROMVIMZAは、外科的切除が困難で、症状を伴う成人TGCT患者の治療に適応されます。
従来のCSF1R阻害薬であるTURALIOと比較して、ROMVIMZAはCSF1Rに対する選択性が高く、他のキナーゼに対する阻害作用は弱いため、オフターゲット効果による副作用のリスクが低いと考えられまていす。
作用機序
Vimseltinibは、CSF1Rを阻害するTKI(チロシンキナーゼ阻害薬)の一種です。TKIの多くは、ATP結合部位に競合的に結合することでキナーゼ活性を阻害します。ATP結合部位は多くのキナーゼで類似しているため、ATP結合を競合的に阻害するTKIは選択性が低く、オフターゲット効果による副作用のリスクが高いという欠点があります。
Vimseltinibは、CSF1Rのキナーゼドメイン内に存在する’スイッチポケット’と呼ばれる部位に結合します。このスイッチポケットは、キナーゼの活性化状態を制御する上で重要な役割を果たしており、vimseltinibがこの部位に結合することで、CSF1Rを不活性な構造の状態で固定し、シグナル伝達を阻害します。ATP結合部位を標的にしていないので、CSF1Rに対する選択性も高く、副作用のリスクを低減できる可能性が期待されています。
臨床試験
ROMVIMZAの有効性は、MOTION試験(NCT05059262)と呼ばれる第3相二重盲検プラセボ対照試験で評価されました。この試験では、手術による切除が機能障害の悪化や重度の罹患を引き起こす可能性のあるTGCT患者123名が、ROMVIMZA群(83名)またはプラセボ群(40名)に2:1の割合でランダムに割り付けられました。病変部位は膝(67%)が最も多く、足関節(12%)、股関節(10%)が続いています。ROMVINZAは週に2回、30mgが経口投与されました。
主要評価項目は、RECIST v1.1に基づいて、独立放射線画像評価委員会がMRI画像を用いて判断した奏効率(ORR)でした。試験の結果、ROMVIMZA群のORRは40%(83名中33名、95%信頼区間:29-51%)であり、プラセボ群の0%(95%信頼区間:0-9%)と比較して有意に高いことが示されました(p<0.0001)。
副次評価項目として定められた、腫瘍体積スコア(TVS)に基づくORRも、ROMVIMZA群で67%と、プラセボ群の0%と比較して有意に高くなりました(p<0.0001)。その他の副次評価項目である関節可動域(ROM)の改善、患者立脚アウトカム(PRO)の改善も、ROMVIMZA群でプラセボ群と比較して有意に大きいことが示されました。
安全性・副作用
MOTION試験で確認された、ROMVIMZA群で多く見られた有害事象(発現率20%以上)は、AST増加、眼窩周囲浮腫、疲労、発疹、コレステロール増加、末梢性浮腫、顔面浮腫、好中球減少症、白血球減少症、掻痒感、ALT増加でした。浮腫の出現が比較的多いのが印象的です。
重篤な有害事象は、ROMVIMZA群の2.4%で発生し、皮下膿瘍(1.2%)および蜂窩織炎(1.2%)が含まれていました。有害事象による投与中止は、ROMVIMZA群の4.8%で発生し、眼窩周囲浮腫、ニューロパチー、発疹、高血圧などが含まれていました。
肝毒性については、ASTおよびALTの上昇が報告されており、投与開始前、投与中には定期的な肝機能検査が推奨されています。
変異原性および生殖毒性が確認されています。妊娠可能な女性には、ROMVIMZA投与中および最終投与後1ヶ月間は、効果的な避妊を行うよう指導する必要があります。また、男性においても同様に、ROMVIMZA投与中および最終投与後1ヶ月間は、効果的な避妊を行うよう指導する必要があります。
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