見出し画像

DATROWAY (datopotamab deruxtecan-dlnk)がHR陽性HER2陰性乳がんの新規治療薬としてFDAに承認された

2025年1月17日にDATROWAY (datopotamab deruxtecan-dlnk)が内分泌療法による治療歴があり、切除不能または転移性のHR陽性/HER2陰性乳がんの新規治療薬としてFDAに承認されました。

乳がんについて

乳がんは、乳腺組織に発生する悪性腫瘍です。乳がんの発生には、遺伝的要因、ホルモン環境、生活習慣など、様々な要因が関与しています。乳がんのタイプは、ホルモン受容体(HR)やHER2タンパクの発現の有無などによって分類され、治療法も異なります。
 HR陽性/HER2陰性乳がんは、乳がん全体の約7割を占める最も一般的なタイプです。HR陽性乳がんは、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンによってがん細胞の増殖が促進されます。そのため、内分泌療法(ホルモン療法)が治療の中心となります。しかし、内分泌療法に抵抗性を示すがん細胞が出現することがあり、その場合には化学療法などの他の治療法が必要となります。
 TROP-2(trophoblast cell surface antigen 2)は、細胞膜を貫通する糖タンパク質で、TACSTD2遺伝子によってコードされています。もともとは胎盤の栄養膜細胞(trophoblast)で発現が確認され、細胞増殖や分化、組織再生に関与すると考えられています。正常組織においては、胎盤以外にも腸管上皮、肺、前立腺、乳腺などで低レベルの発現が認められ、幹細胞マーカー、その生理的機能は完全には解明されていません。
 一方で、TROP-2は乳がんや肺がんをはじめとするいくつかのがん細胞において異常に高発現しており、治療抵抗性と予後不良に相関することが知られています。がん細胞におけるTROP-2の過剰発現が、細胞増殖の促進、浸潤・転移能の亢進、治療抵抗性の獲得と関連することが示されています。その機序として、TROP-2の過剰発現がPI3K/Akt経路やMAPK経路を活性化することが報告されています。

DATROWAYとは

DATROWAY(datopotamab deruxtecan-dlnk)は、第一三共株式会社とアストラゼネカ社が共同で開発・販売している薬剤です。内分泌療法による治療歴があり、切除不能または転移性のHR陽性/HER2陰性乳がんに対する適応で承認されました。そのような症例の予後は一般的に限定的ですが、最近ではTRODELVY(後述)や各種CDK4/6阻害薬の併用により予後が延長してきています。

作用機序

DATROWAYは抗TROP2抗体 (datopotamab) と薬物(deruxtecan)の複合体(抗体薬物複合体:ADC)です。DeruxtecanはENHERTU(抗HER2抗体とderuxtecanのADC)にも利用されているトポイソメラーゼI阻害薬です。ADCでは抗体ががん細胞を標的とし、薬物ががん細胞内で作用することで効果を発揮します。
 DATROWAYの場合、まずがん細胞表面に発現しているTROP2タンパク質に結合します。 TROP2に結合したDATROWAYは、がん細胞内に取り込まれます。細胞内で、DATROWAYのリンカーが切断され、deruxtecanが放出されます。Deruxtecanは、トポイソメラーゼIを阻害し、DNAの複製や修復を妨げます。これにより、がん細胞にDNA損傷が蓄積し、最終的に細胞死が誘導されます。
 類似の作用機序を持つ薬剤として、Gilead sciencesのTRODELVY(sacituzumab govitecan)があります。TRODELVYもsacituzumab (抗TROP2抗体)とSN-38という薬物のADCです。SN-38はイリノテカンの代謝活性物で同じくトポイソメラーゼI阻害活性を有します。TRODELVYはトリプルネガティブ乳がん(HR-/HER2-)およびHR+/HER2-乳がんが適応です。TRODELVYは進行性または転移性の尿路上皮がん(mUC)に対する迅速承認も受けています。

臨床試験

DATROWAYの有効性は、TROPION-Breast01試験(NCT05104866)と呼ばれる多施設共同、オープンラベル、ランダム化比較試験で評価されました。この試験では、732名の切除不能または転移性のHR陽性/HER2陰性乳がん患者が、DATROWAY 6mg/kg投与群(n=365)または治験担当医師が選択した化学療法(エリブリン、カペシタビン、ビノレルビン、ゲムシタビン)投与群(n=367)に1:1の割合で割り付けられました。ステロイド治療を要する間質性肺炎の既往がある患者、脳転移のある患者、重度角膜疾患のある患者、ECOGのPS >1の患者は研究対象から除外されました。
 主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)でした。試験の結果、DATROWAY投与群は、化学療法群と比較して、統計的に有意にPFSを改善しました(ハザード比0.63、95%信頼区間0.52-0.76、p<0.0001)。PFS中央値は、DATROWAY投与群で6.9ヶ月、化学療法群で4.9ヶ月でした。副次評価項目である奏効率(ORR)も、DATROWAY投与群で高い傾向が見られました(36% vs 23%)。OSについては、DATROWAY投与群で改善傾向が見られましたが、現時点では統計的な有意差は認められていません(ハザード比0.84、95%信頼区間0.62-1.14)。

安全性・副作用

TROPION-Breast01試験においてDATROWAY投与群でよく見られた副作用は、口内炎、悪心、疲労、白血球減少、カルシウム減少、脱毛症、リンパ球減少、ヘモグロビン減少、便秘、好中球減少、ドライアイ、嘔吐などでした。
重篤な副作用は、間質性肺疾患(ILD)/肺炎、尿路感染症、腎不全、肺塞栓症、嘔吐、下痢などでした。ILD/肺炎は、DATROWAY投与群の4.2%に認められ、死亡例も報告されています。
DATROWAY投与群では、眼の副作用も多く見られました。ドライアイ、角膜炎、眼瞼炎、涙液増加、結膜炎、視力低下などが報告されています。これらの副作用に対しては、人工涙液の使用や眼科専門医による診察などが推奨されます。

まとめ

DATROWAYは、HR陽性/HER2陰性乳がんに対する新たな治療選択肢として期待されます。TROPION-Breast01試験の結果は、DATROWAYがPFSを有意に改善し、従来の化学療法と比較して良好な忍容性を示すことを示唆しています。ただし、間質性肺疾患/肺炎や眼の副作用には注意が必要です。
 今後、DATROWAYが乳がん治療においてどのような役割を果たしていくのか、さらなる臨床試験や実臨床でのデータ蓄積が期待されます。

いいなと思ったら応援しよう!

PharmaUpdates
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!