PIASKY (crovalimab-akkz)が発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) に対する新しい治療薬としてFDAに承認された
PIASKY (crovalimab-akkz)が発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) に対する新しい治療薬としてFDAに承認されました。
PNHとは
PNHは厚生労働省から難病に指定されている疾患で、貧血や血栓、造血不全といった症状が認められます。
PNHはPIGAという遺伝子に変異をもつ造血幹細胞が骨髄の中で増加することで発症します。PIGAは赤血球の細胞膜に色々なタンパク質をつなぎ止める役割を果たすGPI(glycosylphosphatidylinositol)の産生に重要な遺伝子です。PIGAの遺伝子異常により、赤血球の細胞膜付近で「補体」の活性化を抑制する機能をもつタンパク質(CD55とCD59)が十分に機能できなくなります。
「補体」は本来、外来微生物に穴をあけて排除する機能を持つタンパク質であり、我々の身体を多様な外来微生物から守る自然免疫系において重要な役割を果たしています。補体はいくつものタンパク質分解酵素で構成されており、最終的にはC3というタンパク質がC5というタンパク質を活性化し、外来微生物に穴をあけます。
通常、補体は人間の細胞を傷つけないように厳密に制御されているのですが、PNHの患者では上述のようにその制御が十分に機能しないため、赤血球に穴があけられてしまい、溶血による貧血が認められます。
PIASKYとは
PIASKYは、Genentech (Roche)社が開発したcrovalimab-akkzを有効成分とする抗体薬です。成人および13歳以上のPNH患者(体重40kg以上)の患者が適応です。溶血を防ぐ効果が期待されています。従来のC5阻害剤であるソリリス(eculizumab)と比較して、crovalimabは皮下注射で自己注射可能であり、患者の治療負担を軽減できます。また、crovalimabは、SMART-Ig(Sequential Monoclonal Antibody Recycling Technology)を利用しており、より長期間にわたるC5阻害が可能です。
作用機序
Crovalimab-akkzは、補体C5タンパク質にで結合してその切断を防ぎます。C5はC5aとC5bへと切断されることで活性化するので、最終補体複合体 (MAC) が形成されなり、溶血が抑制されます。
臨床試験の結果
Crovalimab-akkzの有効性は、COMMODORE 2試験で評価されました。この試験には、補体阻害剤による治療を受けたことのないPNH患者204人が参加し、135例にcrovalimab と69名にeculizmabが投与されました。
Crovalimabは初日に静脈注射で投与された後は2, 8, 15, 22, 29日目に皮下注射で投与され、以降は4週間おきに皮下注射が行われています。治療は24週にわたって継続されました。
この試験では、2つの主要評価項目である溶血の制御(血中LDHの測定で評価)と輸血の回避において、crovalimabがeculizumabに劣らない効果を示しました。具体的には、crovalimabを投与された患者の79.3%で溶血が抑制され、65.7%が輸血を回避することができました。一方、eculizumab群では、それぞれ79.0%と68.1%でした。
C5阻害薬により免疫力が低下するため、PIASKYを投与される患者は治療開始前に髄膜炎菌ワクチンを接種することが推奨されています。患者は治療中および治療後11ヶ月間、患者安全カードを携帯して、髄膜炎の兆候が現れた場合には直ちに医療機関を受診するよう指導されます 。
副作用はeculizumabと同様、注入関連反応、呼吸器感染症、ウイルス感染、そしてIII型過敏症反応が含まれます。感染症の発生率がcrivalimabではeculizumabと比べて少ない可能性があります。
結論
以前紹介したFabhaltaは経口薬ですが、crovalimabは抗体薬としてeculizumabより患者の負担を少なくする工夫がされています。そこまで大きくないマーケットですが、次々と新しいプレイヤーが増えているのは患者の選択肢を増やすのでいいですね。