LAZCLUZE (lazertinib)が非小細胞肺がん(NSCLC)の新規治療薬としてFDAに承認された
非小細胞肺がん(NSCLC)について
非小細胞肺がん(NSCLC)は、肺がんの一種で小細胞肺がん以外のものを差し、全体の約85%を占めます。NSCLCは、主に3つのタイプ(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)に分類されますが、その中でも腺がんが最も一般的です。肺がんの発生には遺伝子変異と環境要因の両方が重要です。肺がんといえば、タバコとの関連性がよく知られていますが、肺がんの中でも小細胞肺がんと扁平上皮がんが喫煙と関連するがんです。
NSCLCで頻繁に認められる遺伝子変異として、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異がよく知られています。EGFRは上皮系細胞の成長や増殖を促進するシグナル伝達経路ですが、変異によりその活性が常に活性化された状態になり、がんの進行に寄与します。EGFR変異の中でも、エクソン19欠失変異やエクソン21のL858R置換変異が最も一般的で、これらは全体の85〜90%を占めています 。
EGFR変異を示すがんに対しては、EGFRをターゲットとしたチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が用いられます。しかし、EGFR-TKIへの耐性出現が問題であり、特に3世代のEGFR-TKI治療後には、さまざまな耐性機構が現れることが知られています。主な耐性機構としては、二次的なEGFR変異や異なる増殖シグナルであるMET経路の活性化が挙げられます 。
EGFR-TKIのNSCLCへの適応を考える上で、その薬物がfirst-lineで利用できるのか、他の薬物を利用して耐性が出現した後で利用できるかも重要です。ファースト・ライン治療として承認される薬物は、治療の初期段階から患者に投与され、がんの進行を効果的に抑制することが求められます。
LAZCLUZEとは
LAZCLUZE(一般名:lazertinib)は、韓国のYuhan Corporationが開発したEGFR-TKIで、現在はJanssenn Pharmaceuticalsと共同開発が行われています。Lazertinibは、EGFR変異陽性の局所進行または転移性非小細胞肺がん(NSCLC)の患者に使用され、特にEGFRエクソン19欠失またはエクソン21 L858R変異を有する患者に対する治療が対象となります。この薬は、EGFRとMETに対する二重特異性抗体であるRYBREVANT(amivantamab)との併用で用いられます 。
作用機序
Lazertinibは、第三世代のEGFR-TKIに分類されます。変異EGFRを選択的に阻害することでがん細胞の成長を抑制します。Lazertinibは中枢神経系(CNS)との親和性も高く、脳転移のある患者にも有効であることが示されています 。
Lazertinibはamivantamabと併用されることで、EGFRとMET経路の両方に作用します。AmivantamabはEGFR-MET二重特異性抗体であり、がん細胞表面のEGFRとMETを標的にすることで、耐性獲得機構を抑制しつつがん細胞の増殖を強力に抑制します。この併用により、治療に対する耐性メカニズムにも対応できると考えられています 。
臨床試験
LAZCLUZEの有効性と安全性は、未治療のEGFR変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象とした第三相試験(MARIPOSA試験)で評価されました (NCT04487080)。この試験は1074 人の患者を対象として行われ、lazertinib+amivantamabの併用療法、第三世代のEGFR-TKIであるosimertinib (TAGRISSO)の単剤治療、lazertinibの単剤治療が2:1:2の比率で割り付けられました。
主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)はlazertinib+amivantamab併用療法群で23.7ヶ月で、osimertinib単剤治療群の16.6ヶ月を大きく上回りました。なお、lazertinib単剤治療群は18.5ヶ月でした。
Lazertinib+amivantamab併用療法群の治療に対する反応の持続期間は25.8ヶ月に達したのに対し、osimertinib単剤治療群では16.7ヶ月でした 。
安全性・副作用
LAZCLUZEの臨床試験では、副作用として主に発疹、静脈血栓塞栓症(VTE)、筋骨格痛、疲労感などが報告されています。抗体薬であるamivantamab投与に伴う輸注反応が多くの患者に認められましたが、これらは管理可能なものでした 。
Lazertinib+amivantamab併用療法群で頻度が多かった副作用としては、静脈血栓塞栓症および皮膚症状が挙げられます。静脈血栓塞栓症は致死的な病態を引き起こし得るため、最初の4ヶ月間は予防的抗凝固療法を行うことが推奨されています。
その他の副作用もlazertinib+amivantamab併用療法群ではosimertinib単剤治療群と比べて多く認められており、投与量の減量や中止が必要となった割合が59%、35%と非常に高率でした(osimertinib単剤治療群では5%、14%)。
LAZCLUZEは、進行性の非小細胞肺がん患者にとって有望な新しい治療オプションとして、従来の治療薬に対する耐性に対応する手段を提供しています。一方、副作用と減量・中断率の多さが懸念点であり、安全性プロファイルに十分な注意を払いながら、治療を進めることが重要です 。