BIZENGRI (zenocutuzumab-zbco)がNRG1遺伝子変異を示す進行性非小細胞肺がんおよび膵癌の新規治療薬としてFDAに承認された
2024年12月4日、BIZENGRI (zenocutuzumab-zbco)がNRG1遺伝子変異を示す進行性非小細胞肺がんおよび膵癌(膵管腺がん)の新規治療薬としてFDAに承認されました。
NRG1とがんにおける変異
NRG1 (Neuregulin 1)はヒト上皮成長因子(EGF) ファミリーに属するリガンドです。NRG1は主にHER3(ERBB3) 受容体と結合します。HER3は自身のチロシンキナーゼ活性が弱く、HER2(ERBB2)とヘテロ二量体を形成しています。HER2/HER3二量体にNRG1が作用することで細胞内のPI3/AKT経路やMAPK経路といった生存の生存と増殖に重要なシグナルを活性化します。
NRG1遺伝子変異は非小細胞肺がんや膵管腺がんなどのいくつかの固形がんで稀に(1%未満)認められる遺伝子変異です。NRG1遺伝子が他の遺伝子(CD74、SLC3A2、VAMP2、APPなど)と融合するようなタイプの変異が生じることで、融合NRG1が無秩序・恒常的にHER2/HER3二量体を活性化するようになり、腫瘍細胞の異常な増殖が促進されます。NRG1融合遺伝子が認められるがんは既存の抗がん薬の効果が乏しく、治療手段が限られていました。
非小細胞肺がん(NSCLC)ではNRG1融合遺伝子が患者の約0.3-1.7%、膵管腺がん(PDAC)では患者の0.5-1.8%に認めます。いずれも非常に低い頻度ですが、NSCLCの中では粘液性腺がん(IMA)では最大30%、PDACではKRAS遺伝子変異が陰性の患者で18%もの高い頻度でNRG1融合遺伝子が認められることが報告されています。
BIZENGRIとは
BIZENGRI(一般名:zenocutuzumab-zbco)は、オランダのメルス(Merus N.V.)という製薬企業で開発された抗体薬です。NRG1融合遺伝子が認められる進行性または切除不能な非小細胞肺がんおよび膵管腺がんの治療薬として承認されました。
NRG1融合遺伝子が認められるがんに対して一般的な化学療法は効果が限られています。幅広くEGFRファミリーを阻害できるGILOTRIF (afatinib, ジオトリフ)が有効な可能性があるため、現在臨床試験が実施されています。
作用機序
BIZENGRIはHER2とHER3の両方と結合する二重特異性抗体です。BIZENGRIの一方の腕がHER2受容体に、もう片方の腕がHER3受容体と結合することで、NRG1がHER3に結合するのを防ぎ、HER2/HER3の二量体化とその下流の生存・増殖シグナルの活性化を阻害します。
臨床試験
BIZENGRIの有効性と安全性はNRG1融合遺伝子が確認された非小細胞肺がん、膵管腺がん、およびその他の固形がん患者を対象としたオープンラベル(自分にBIZEINGRIが投与されていることがわかる状態)試験であるeNRGy試験 (NCT02912949 ) で検討されました。Phase I/II試験なので、BIZENGRIの有効性を検証するのではなく、安全性、有効性、薬物動態などが探索的に検討されています。有効性はRECIST1.1に基づき、独立した研究者が判定を行いました。主要評価項目として「奏効率(ORR)」および「奏効期間(DOR)」が設定されました。
NRG1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者64名に対する奏効率は33%(95%信頼区間:22%~46%)で、そのうち1.6%の患者が完全奏効、31%の患者が部分奏効を示しました。また、奏効が得られた患者における奏効期間の中央値は7.4か月(範囲:4.0~16.6か月)であり、奏効が6か月以上持続した患者の割合は43%に達しました。
また、膵管腺がん患者30名に対する試験結果では、奏効率は40%(95%信頼区間:23%~59%)とさらに高く、そのうち3.3%の患者が完全奏効、37%の患者が部分奏効を示しました。奏効期間は3.7か月から16.6か月の範囲で、6か月以上効果が持続した患者は67%と報告されています。
安全性・副作用
BIZENGRI投与による副作用の多くは軽度から中等度で管理可能なものでした。下痢、筋肉痛、呼吸困難、悪心、疲労が比較的高頻度に認められました。
重篤な副作用としては輸注関連反応、間質性肺炎、心機能障害が報告されており、心機能低下を示した1例は致死的な転帰をたどりました。これら副作用を注意深く観察し、出現した場合には投与を中止する必要があります。
また、胎児毒性が認められる点が警告されています。
まとめ
BIZENGRI(zenocutuzumab)は、NRG1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんおよび膵管腺がんに対して新しい治療選択肢を提供する薬剤です。従来の治療法が効果的でなかった患者の一部に持続的な効果が期待されます。
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