Voranigo (vorasidenib)が脳腫瘍(グリオーマ)の新規治療薬としてFDAに承認された

神経膠腫、星細胞腫、乏突起神経膠腫について

脳腫瘍は大きく、神経細胞から発生する腫瘍、神経細胞をサポートする神経膠細胞から発生する腫瘍、脳を包む膜から発生する腫瘍に分けることができます。このうち神経膠細胞から発生する腫瘍をまとめて神経膠腫(グリオーマ)と呼びます。
神経膠腫はさらにその悪性度でグレード1から4まで分類されており、VORANIGOの適応となるのはこのうちグレート2に分類される星細胞腫(アストロサイトーマ)と乏突起神経膠腫(オリゴデンドログリオーマ)です。

 IDH(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ: isocitrade dehydrogenase)は、正常な細胞においてクエン酸回路における代謝産物の生成に関与する酵素でα-ケトグルタル酸という物質を生成します。α-ケトグルタル酸はグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の合成に重要であるだけでなく、神経細胞内の活性酸素の除去や、いくつかの酵素の基質となるなど多様な役割を果たします。
 IDH1およびIDH2の遺伝子変異は、成人の低悪性度神経膠腫(特にグレード2の腫瘍)においてほぼすべてに見られることが明らかになっています。この変異により異常な代謝産物である2-ヒドロキシグルタル酸が蓄積し、α-ケトグルタル酸を基質とする酵素の中でもDNA脱メチル化酵素やヒストン脱メチル化酵素を競合的に阻害することで腫瘍細胞のエピゲノムを変化させ、腫瘍の増殖や進行を助長すると考えられています。

Voranigo

VORANIGOは、Servier Pharmaceuticals社が開発したvorasidenibを主成分とする経口薬です。グレード2の星細胞腫または乏突起神経膠腫の患者に対して使用され、手術後にIDH1またはIDH2遺伝子変異が確認された場合に利用されます。

作用機序

VORANIGOは、変異IDH1およびIDH2の活性を阻害することで、2-ヒドロキシグルタル酸の産生を抑制します。その結果、腫瘍細胞が正常な星細胞へと分化する一方で幹細胞様の細胞が減少し、結果として増殖が抑制されます。NOTCH1遺伝子の変異がある場合、voranigoの分化促進作用が低下する可能性も示されています (Cancer Cell (2024) 42, 904–914)。

臨床試験

VORANIGOの有効性と安全性は、INDIGO試験というランダム化二重盲検プラセボ対照試験で評価されました (NCT04164901)。
 合計331人の患者が参加し、168人の患者に対してvoranigo、163人の患者にプラセボが投与されました。主要評価項目は無増悪生存期間で、疾患の増悪は画像的に評価されています。
 プラセボを投与された患者では54%の患者で疾患の増悪が認められたのに対し、voranigoを投与された患者では28%の患者でしか疾患の増悪が認められませんでした。無増悪生存期間はプラセボを投与された患者で11.1ヶ月、voranigo を投与された患者で27.7ヶ月でした。次の治療が必要になるまでの期間はプラセボ群で17.8ヶ月でしたが、voranigoを投与された患者では評価期間に次の治療が必要となる患者が少なく、中央値の評価に至りませんでした。

安全性・副作用

Voranigoの重要な副作用として肝毒性が挙げられます。肝臓逸脱酵素(ALT)の上昇がvoranigoを投与された患者の38.9%で認められました(プラセボ投与群は14.7%)。グレード3(医学的に重大な)肝臓逸脱酵素(ALT)の上昇はvoranigoを投与された患者の9.6%で認められました。治療中は肝臓逸脱酵素の確認が必要になります。
 その他はプラセボ群でも多く認められる非特異的な副作用で、疲労やCOVID19、筋骨格系の疼痛、下痢、痙攣など報告されています。
 動物実験では胎児毒性が認められています。その他、ラットを利用した実験で耳毒性が、サルを利用した実験で拡張型心筋症の表現型が認められています(いずれも治療で利用される用量を大幅に上回る用量が投与されています)。

結語

Voranigoは、グレード2の星細胞腫および乏突起神経膠腫の患者の大部分で、病気の進行を抑制し、次の治療が必要になるまでの期間を延長させることができます。悪性度の高いグリオーマへの有効性についても今後の研究の発展が期待されるところです。

いいなと思ったら応援しよう!

PharmaUpdates
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!