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ALHEMO (concizumab-mtci)が血友病AおよびBの新規治療薬としてFDAに承認された

2024年12月20日にALHEMO (concizumab-mtci)が血友病AおよびBの新規治療薬としてFDAに承認されました。

血友病について

血友病は、血液凝固に必要なタンパク質である血液凝固因子の欠損や機能異常によって、出血が止まりにくくなる遺伝性の疾患です。大きく分けて、第VIII因子が欠損している血友病Aと、第IX因子が欠損している血友病Bの2種類があります。両因子の遺伝子はいずれもX染色体上に存在するため、患者は一般的には男性です。

血管が損傷すると、出血を止めるために2つのシステムが働きます。一つは傷ついた血管を収縮させ、血小板が集まって損傷部位を塞ぐことにによる止血です。これを1次止血といいます。血小板による止血だけでは出血を止め続けるためには不十分なので、引き続き2次止血というシステムが作用します。2次止血では12種類の凝固因子が次々と活性化し、最終的にはフィブリンとよばれる糊のような性質をもったタンパク質が重合することで強度の高い血栓を作ります。血友病Aでは第VIII因子が、血友病Bでは第IX因子が不足するため、傷ついた血管で適切な血栓を形成することができなくなります。

出血といえば、怪我によるものをイメージしがちですが、我々の身体の中では小さな血管が絶えず傷ついては修復される過程を繰り返しています。血友病患者ではこのような過程における出血への止血が不十分なため、関節や筋肉内の出血や外傷を受けた際に止血されないといった出来事が繰り返されます。

血液凝固は凝固因子だけでなく、複数の凝固制御因子によって制御されています。凝固制御因子にはTFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSなどがあります。これらの制御因子は血液凝固を防ぐ方向に作用し、正常な体内では凝固因子による血液凝固と凝固制御因子による抗凝固のバランスが取れた状態になっています。

ALHEMOとは

ALHEMO(concizumab-mtci)は、デンマークの製薬会社であるNovo Nordisk社が開発・販売している薬剤です。12歳以上の血友病Aおよび血友病Bのうち、第VIII因子や第IX因子に対するインヒビターが出現した患者が適応です。なお、日本ではアレモという商品名で2023年に承認を受け、既に利用されています日本ではインヒビターを保有しない血友病も適応になっています。

血友病治療の基本は、不足している凝固因子を補充する「補充療法」です。最近では遺伝子組み換え技術を利用して合成した凝固因子が主に使われています。PEG(ポリエチレングリコール)化を行ったものや、Fcタンパク質との融合タンパク質など、凝固因子の半減期を伸ばし、患者さんの負担を軽減するような凝固因子製剤が開発・販売されています。補充療法の過程で、第VIII因子や第IX因子に対する抗体(インヒビター)が作られ、補充療法の効果が弱まってしまうことが問題です。

インヒビターの出現による影響を受けない、凝固因子以外の治療薬としてはヘムライブラ(HEMLIBRA, emicizumab-kxwh)があります。ヘムライブラは第IXa因子と第X因子の両方に結合する「二重特異性抗体」で、第VIII因子と同じ役割を果たします。血友病Aが適応です。

作用機序

Concizumabは、抗凝固に作用する凝固制御因子であるTFPIに結合してその機能を阻害します。TFPIは、組織因子(TF)と第VIIa因子が結合した複合体による凝固反応(外因系といいます)を抑制する働きを持っています。ConcizumabがTFPIの機能を阻害することで、外因系による血液凝固が亢進し、内因系による血液凝固反応に異常のある血友病Aおよび血友病Bの患者さんで認められる出血傾向を「リバランス」することができます

同じ作用機序の薬物としてHYMPAVZI (marstacimab) があります。抗体が結合する部位に違いはありますが、基本的には同じ作用機序で有効性を発揮するものと考えられます。

臨床試験

ALHEMOの有効性と安全性は、インヒビターの出現した血友病A/B患者を対象にして行われた多施設共同、オープンラベル(ALHEMOが投与されていることがわかった状態)の第III相試験であるexplorer7試験(NCT04083781)で検証されました。

試験に参加した患者さんはインヒビターの出現した患者なので、補充療法の効果が不十分であり、出血による症状が出現した際には「バイパス製剤」による治療を受けています。「バイパス製剤」の代表的な薬剤がノボセブン(Novo Nordisk)で、第VII因子を含む凝固因子製剤です。

explorer7試験のデザインは少し複雑です。患者は合計4群に分けられています。

  • 群1:バイパス製剤による治療を受けており、ALHEMO非投与群に割り付けられた患者。

  • 群2:バイパス製剤による治療を受けており、ALHEMO投与群に割り付けられた患者。

  • 群3:過去に実施された第2相試験(explorer5) でALHEMOの治療を受けていた患者のうちALHEMOを投与を希望する群。

  • 群4:バイパス製剤による治療を受けている患者、および群1に割り付けられた患者のうち希望する者にALHEMOを投与した群。

群1、群2はランダム化試験としてALHEMOの有効性評価に、群3はALHEMOの長期投与評価に、群4は幅広い患者への適用可能性を評価することを目的に設定されています。

主要評価項目は治療の対象となる出血イベントの年間出現率(Annualized Bleeding Rate:ABR)が設定されました。ALHEMO投与群(群2)では1.7であったのに対し、非投与群(群1)では11.8であり、ALHEMOが有意に出血イベントを抑制できることが示されました。

ALHEMOを投与された全ての患者(群2, 3, 4)における年ABRの中央値は0.0(過半数の患者さんで出血イベントは年一度も生じない)であり、幅広い患者に対する高い出血抑制効果が示されました。

安全性・副作用

explorer7試験においてALHEMO投与群で多く報告された有害事象は、関節痛、注射部の紅斑、上気道炎でした。PRESCRIBED INFORMATIONには蕁麻疹の出現がALHEMO投与群で高かったことも示されています。重篤な有害事象としては、腎梗塞や過敏症反応が報告されました。
Concizumabに対する抗体の出現が約25%の患者で観察されましたが、ほとんどが低力価であり、臨床的な影響は認められませんでした。

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