NEMLUVIO (nemolizumab-ilto)が結節性痒疹の新規治療薬としてFDAに承認された
NEMLUVIO (nemolizumab-ilto)が結節性痒疹(けっせつせいようしん)の新規治療薬としてFDAに承認されました。
結節性痒疹について
結節性痒疹(PN, Prurigo Nodularis)は、慢性的な強いかゆみを伴う多数の硬い結節(盛り上がったしこり)が皮膚上に現れる皮膚疾患です。慢性的なかゆみにより患者が患部を掻きむしることで症状は悪化し、それが繰り返されることで皮膚が厚く硬くなる悪循環に陥ります。かゆみの程度は非常に強く、生活の質を著しく低下させます。
結節性痒疹が発生する明確な原因はわかっていません。一方、結節性痒疹が悪化する仕組みには神経系と免疫系の異常な相互作用が深く関わっています。特に、皮膚の神経線維における過敏性がかゆみを引き起こし、それに伴い免疫応答が過剰に働くことで、炎症性の反応が持続することがわかっています。
この異常な炎症反応においてTh2細胞から産生されるIL-31(インターロイキン-31)というサイトカインが鍵となる役割を果たしています。IL-31は、かゆみを引き起こす主要な因子であり、神経系を介して強いかゆみを引き起こすとともに、皮膚の炎症や線維化にも関与し、病変の進行に寄与します 。
NEMLUVIOとは
NEMLUVIO(一般名:nemolizumab-ilto)は、Galderma社によって開発されたインターロイキン31(IL-31)受容体αに対するモノクローナル抗体です。NEMLUVIOは、IL-31の受容体に結合し、かゆみのシグナルを遮断することで、強いかゆみを緩和し、結節の治癒を促進します。これにより、患者の生活の質が大きく改善されることが期待されます。
従来のステロイドや抗ヒスタミン薬、免疫抑制薬と異なり、IL31という病態が悪化する仕組みに標的を絞った薬物なので、副作用も少なく、かゆみと病変そのものに対してより効果的にアプローチすることができます。
なお、もともとnemolizumabは中外製薬が開発した薬物で、日本では既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎および結節性痒疹に対する治療薬として導出先のマルホ株式会社が2022年8月から販売しています(商品名ミチーガ®)。中外製薬の抗体薬領域におけるプレゼンスは頼もしいですね。
作用機序
NEMLUVIOの有効成分であるnemolizumabは、IL-31受容体A(IL-31RA)に対するヒト化モノクローナル抗体です。IL-31は、皮膚のかゆみを引き起こす重要なサイトカインであり、感覚神経上のIL31RAに作用して強いかゆみを誘発します。NEMLUVIOは、このIL-31RAに結合することで、IL-31が受容体に作用するのをブロックし、かゆみを引き起こすシグナルを遮断します。
IL31-IL31RAを介したかゆみの惹起と病態への関与はアトピー性皮膚炎を含む他の皮膚炎でも重要な役割を果たしており、Galderma社はアトピー性皮膚炎の治療薬としてもFDAに申請を行なっています(日本ではマルホ社がアトピー性皮膚炎を適応とした承認を取得し、2022年から販売を開始しています)。
アトピー性皮膚炎に対してはdupilumab (Dupixent:デュピクセント、IL4/13受容体抗体)、lebrikizumab (Ebglyss:イブグリース、抗IL13抗体)、tralokinumab (Adtraza:アドトラーザ、抗IL13抗体)など、複数の作用機序を標的とした新しい治療の選択肢が次々と販売されています。
臨床試験
NEMLUVIOの有効性と安全性は、結節性痒疹患者を対象とした複数のランダム化二重盲検プラセボ対照試験(OLYMPIA 1およびOLYMPIA 2)で評価されました (NCT04501666, NCT04501679)。合計560名の患者が参加し、16週間NEMLUVIOまたはプラセボが投与されました。
NEMLUVIOを投与された患者の56.3%で、かゆみスコア(PP-NRS)が4ポイント以上改善したのに対して、プラセボを投与された患者では20.9%の患者にとどまりました。結節の改善度を示す指標であるIGAスコアではNEMLUVIOを投与された患者の37.7%が著しい改善を示したのに対し、プラセボを投与された患者では11.0%にとどまりました。
また、副次的評価項目として睡眠障害の改善度も評価され、NEMLUVIOを投与された患者では投与4週時点で68%、16週では95%の患者で睡眠障害の著しい改善を認めました。プラセボを投与された患者ではそれぞれ9%、19%にとどまっており、生活の質が大きく改善されることがわかりました。
安全性・副作用
臨床試験中、NEMLUVIO投与群で頭痛、アトピー性皮膚炎、および軽度から中等度の浮腫が報告されましたが、いずれも軽度であり、重大な安全性の懸念は少ない可能性が高いです。長期使用においても、全体的な安全性は良好であり、副作用による治療中止例は少数でした。
まとめ
NEMLUVIOは、結節性痒疹に対して新たな治療の選択肢を提供する革新的な薬剤です。従来の治療法が対症療法に留まる一方で、この薬はIL-31というかゆみの原因物質を直接抑制することで、根本的な改善を目指しています。今後も長期的なデータの蓄積が期待されますが、現在のところ臨床試験結果に基づき、高い効果が期待されています。