VYLOY (zolbetuximab-clbz)が胃がんの治療薬としてFDAに承認された
2024年10月18日、VYLOY (zolbetuximab-clbz)が胃がん(HER2陰性、CLDN18.2陽性)の治療薬としてFDAに承認されました。
胃がん(腺がん)について
胃がんは、胃の内側を覆う粘膜に発生する悪性腫瘍で、日本を含む東アジアで頻度が高い疾患です。腺がんは胃がんの主なタイプです。粘膜に限られた胃がんの予後は良好ですが、進行胃がん、特に遠隔転移を伴う胃がんの予後は不良で、5年生存率は5%程度です。
Claudinタンパク質は上皮細胞や内皮細胞の間のタイトジャンクションに発現しているタンパク質です。Claudin 18.2(CLDN18.2)は、胃粘膜表層の分化した細胞の一部に限局して発現していますが、がん化して極性を失った細胞では細胞表面全体に発現し、発現量もが増強します。CLDN18.2は胃がんだけでなく膵臓がんや食道がん、卵巣がんにも発現することが確認されており、これらのがん治療における有望な分子標的となっています。
VYLOYとは
VYLOY(zolbetuximab)は、日本のアステラス製薬が開発したCLDN18.2を標的としたモノクローナル抗体です。局所進行性で切除不能または転移性のHER2陰性かつCLDN18.2陽性の胃または胃食道接合部腺がんが適応症で、初期治療として化学療法(フルオロピリミジンおよび白金製剤)との併用で使用されます。
手術不能がんや再発がんに対しては、腫瘍の縮小と生存期間の延長を目標にフルオロピリミジン系や白金製剤(シスプラチン)を含む抗がん薬を組み合わせた化学療法が行われています。胃がんの中でも、HER2陽性がんに対してはtrastuzumabが併用されます。また、nivolumabをはじめとした免疫チェックポイント阻害薬も利用されます。
VYLOYはこれまで有効な分子標的が存在しなかった胃腺がん患者に対してあらたな治療の選択肢を提示します。
作用機序
VYLOYは、CLDN18.2に特異的に結合するモノクローナル抗体で、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)を引き起こすことでがん細胞の細胞死を誘導します。
CLDN18.2を標的とした薬剤の開発は現在、二重特異性抗体、CAR-T細胞療法、RNA治療薬など多岐にわたり、アストラゼネカやビオンテックを含む複数の製薬企業が研究を進めています。その中で、日本のアステラス製薬が開発したVYLOYがCLDN18.2を標的とした薬剤として初めてFDA承認を取得し、世界に先駆けた成果を上げているのは非常に誇らしいことです。
臨床試験
VYLOYの有効性と安全性は、CLDN18.2陽性かつHER2陰性の胃腺がん患者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験であるSPOTLIGHT試験(NCT03504397)で評価されました。
SPOTLIGHT試験は、565名の局所進行性で切除不能または転移性のHER2陰性かつCLDN18.2陽性の胃または胃食道接合部腺がん患者が対象となりました。プラセボ群に対してはmFOLFOX6療法(fluorouracil +leucovorin calcium (folinic acid)+oxaliplatin)が、VYLOY群に対してはmFOLFOX6療法に上乗せする形でzolbetuximabが投与されました。
主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、VYLOY群で中央値10.61か月、プラセボ群では8.67か月であり、VYLOYは疾患進行または死亡リスクを有意に低減しました(HR 0.75, p=0.0066)。全生存期間(OS)も改善が認められ、VYLOY群で中央値18.23か月、対照群で15.54か月でした 。
VYLOYの有効性は、同様のデザインで併用療法としてCAPOX療法(capecitabine+oxaliplatin)が選択されたGLOW試験 (NCT03653507) でも示されています。GLOW試験には507名が参加しました。PFSはVYLOY群8.21ヶ月に対しプラセボ群で6.80ヶ月、POSはVYLOY群14.39ヶ月に対しプラセボ群で12.16ヶ月となっており、同様にVILOY群の有効性が示されています。
安全性・副作用
VYLOYの安全性プロファイルはSPOTLIGHT試験およびGLOW試験で評価されました。重篤な有害事象として、嘔吐、悪心、好中球減少症、発熱性好中球減少症、下痢が認められました。SPOTLIGHT試験では投与中止を要したケースは20%でプラセボ群の11%と比べて高い値でした。主に悪心や嘔吐によるものでした。これらのリスクを軽減するため、事前の制吐薬投与が推奨されています。
VYLOYは、日本のアステラス製薬が開発した薬物で、日本において世界に先駆けて2024年3月に承認されています(ビロイTM)。EU、FDAの承認も獲得し、胃腺がんだけでなく、膵臓がんや卵巣がんなど他のがん種の治療薬候補としても注目されています。
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