WINREVAIR (sotaterept-csrk)が肺動脈性高血圧症の治療薬としてFDAに承認された

【肺動脈性肺高血圧症】
 肺高血圧症は心臓から肺に向かう血管である肺動脈の圧力が高くなる病気です。原因により大きく5つに分類されており、肺動脈性肺高血圧症はその名の通り、肺動脈の異常により肺高血圧症が生じる病気です。
 動脈(全身を走る動脈も肺動脈も)は内膜、中膜、外膜の3層構造をしています。内膜は1層の血管内皮細胞とそれを支持する組織で構成されています。中膜は血管の円周方向に走行する平滑筋と弾性線維が存在しています。外膜は血管を栄養する血管を含む結合組織で構成されています。
 肺動脈性肺高血圧症の患者さんで認められる肺動脈の異常は完全には明らかになっていませんが、大きく3つ存在することが知られています。1つ目は血管平滑筋の異常な収縮です。これには、血管内皮細胞の機能異常が関係していると考えられています。2つ目は小さな血栓の形成です。これも血管内皮細胞の機能異常が関係していると考えられています。また、肺動脈圧が高くなり血流が悪くなった結果としても生じます。3つ目が血管構造のリモデリングです。血管を構成する細胞が異常に増殖する結果、内腔方向に血管壁が分厚くなり、結果的に内径が狭くなります。
 現在の肺動脈性肺高血圧症の治療薬にはプロスタサイクリン(PGI2)の類似薬、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、sGC刺激薬があります。仕組みは少しずつ違うものの、いずれも最終的には平滑筋の収縮を抑制することで血管を拡張する薬です。プロスタサイクリンは血小板の凝集を防いで血栓が生じるのを防ぐ作用もあります。

【作用機序】
 WINREVAIR (sotaterept-csrk)はIIA型アクチビン受容体 (activin receptor type IIA) の一部に免疫グロブリンの一部を融合させて可溶化した融合タンパク質です。血管平滑筋および血管内皮細胞のIIA型アクチビン受容体(正確には受容体の複合体)と本来結合するはずであったリガンドを’trap’し、IIA型アクチビン受容体の活性化を防ぎます。
 肺動脈の平滑筋や内皮細胞の増殖は、抑制的に働くII型BMP (bone morphogenetic protein)受容体と、促進的に働くII型アクチビン受容体の活性化のバランスで保たれています。肺動脈性肺高血圧症の患者では後者が過剰に亢進する結果、血管構造のリモデリングが起こると考えられており、WINREVAIR (sotaterept-csrk)はII型アクチビン受容体の活性化を抑制することで、血管構造のリモデリングを抑制すると考えられています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2024277 のFigure 1がわかりやすいです)

【臨床試験】
 WINREVAIR (sotaterept-csrk)の有効性は323名の肺動脈性肺高血圧症患者を対象とした二重盲検化試験であるSTELLAR試験(NCT04576988)で示されました。
投与24週後に、投与開始前と比べて6分間で歩行できる距離がどの程度変化しているかが評価されました。WINREVAIR (sotaterept-csrk)が投与された患者では、偽薬が投与された患者に比べて歩行距離が41mも増加しており、死亡や症状の増悪を示す患者の割合を84%も減少させました。従来の肺動脈性肺高血圧症の治療に上乗せでの結果なので驚異的ですね。
 有害事象として、WINREVAIR (sotaterept-csrk)が投与された患者では出血(大部分が鼻出血や歯肉出血)および血小板減少症が認められました。また、BMP/アクチビンのバランスは骨髄における血球の産生にも役割を果たしているため、WINREVAIR (sotaterept-csrk)を投与された患者ではヘモグロビンの増加と血小板の減少が認められています。さらに、毛細血管拡張症も有害事象として認められていますが重篤なものは報告されていません。動物実験では胎児に対する毒性の可能性が示されています。

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