見出し画像

麺と漫才 第3のリベロ Vol.38

雑誌の表紙でもネット記事の写真でも、ラーメンを見ると反射的に手が伸びる。これも、「映え」が重んじられる時流の表れなのだろうか。近ごろは、ポタージュスープのように白濁したスープに、生ハムのようなチャーシューを添えて色鮮やかな野菜を刻んだものが流行っているようだが、個人的にはあまり食べたいと思えない。まるで庶民の食が創作料理に様変わりしてきたようで、洒落た一皿を求めるならラーメンではなくフレンチやイタリアンを選べばいい。

年始以来、関西ローカルのテレビでもよく見かけるようになってきた。役を演じきり、物語性の高いネタは、漫才というよりもコミカルな演劇を鑑賞しているような気分にさせてくれる。お気に入りは、「猫の島」の住民たちがやけに麺類を食べていると思ったら、特有の挨拶だったというオチ。2020年代に入ってからというもの、関西弁を話すコンビが王座から遠ざかっているが、この2人なら舞台公演ばりに長尺のネタでもこなしてみせるのではないか。

ヤーレンズとのデッドヒートを制した令和ロマンのM-1グランプリ優勝には、納得した。ただ、昔ながらのしゃべくり漫才を好む私的な感覚からすれば、何かしらの試みや変化がもてはやされる近年の傾向には、やや馴染めないものがある。2019年、同一の展開なのに幾通りものネタを実現する「フォーマット漫才」を披露したミルクボーイの優勝が、転機になったのかもしれない。漫才もまた、映える創作ラーメンのようになりつつあるのだろうか。

今月は、2年連続で博多に出張した。同行の方々と「芳々亭」のもつ鍋に麺を入れ、雑炊まで追加して一度はシメておきながら、その後もひとりハシゴした私は、再度のシメに「幸ちゃんラーメン」のワンタン麺を選んだ。キクラゲに煮玉子、好物の紅しょうがを含め、このラーメンの本場ではいまなおトッピングの主流が変わっていない。映えや創作の波にも、超えられない牙城はあるらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?