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ジーコになって Footballがライフワーク Vol.28

30年前、観戦ビギナーの10歳の目にも「上手い」と思えるプレイヤーは少なからずいたが、それ以上に上手く、「別格」と思える凄みを見せつけてくれた最初のプレイヤーが「白いペレ」だった。Jリーグ創世記を彩ったジーコのプレーは、圧倒的に輝いていた。一度は引退、母国でスポーツ大臣の座を与えられながら、現役復帰の場に選んだのが日本の住友金属。鹿島アントラーズへと生まれ変わったクラブのJリーグ初陣、代名詞の直接フリーキックやハーフボレーを次々に決め、リーグ最初のハットトリック達成者となった。右足アウトサイドで後方からのハイボールを捉えた超絶ジャンピングボレーなど、数々の妙技に覚えた感動には、年齢への驚きも加味されていた。10歳から見れば40歳は完全なおじさんで、プレーしていること自体が信じられなかった。

とうとう、私も当時のジーコの年齢になった。世には他者を貶してマウントをとるのが好きな人がいるもので、この歳で「独り身」「ローパフォーマー」などという弱みを抱えた私のような人間は、被害を受けやすい。このタイプの人が厄介なのは、趣味の領域まで踏みにじることだ。フットボール観戦が生きがいだと別の人に話していたとき、「そんなこと、生きがいにしてどうすんの」と、わざわざ会話を遮られたこともあった。何と言われようが、空虚な実生活から目を逸らす時間は欠かせない。今日、7節終了時点でJ1首位の神戸は、鹿島へ乗り込んだ。ハイプレスが浸透し、ここまで僅か2失点。現在のわがクラブの堅調をもってすれば、3連敗中の相手には「勝てる」と思いたいものだが、そうはならないのがリーグ歴代最多タイトルを誇る鹿島と、その礎を築いたジーコの威厳だ。

最大限の愛情とは、エゴと不可分なのだろうか。観戦歴30年の一貫した願いは、いつかフットボールがわが国で"ナンバーワン"のスポーツになってほしいということだ。日本に国際舞台で現在以上の躍進を望むならそれが必要条件だと思うし、もっと国民的な敬愛が高まれば「そんなこと」呼ばわりされずに済むかもしれない。その願望が実現するうえで、ややもすると目の上のたんこぶだった存在は、30年前と比べれば小さくなったようにも思える。しかしながら、WBCでの"世界一"の達成、醒めやらない祝勝ムード、主要メディアがこぞって日米の新シーズンを盛り上げている状況から、国民的スポーツとしての野球の健在を改めて思い知った。

スペイン風に言えば、マニータ。70歳になったジーコが来場した御前試合、神戸は5得点で圧勝を収めた。共に複数得点を決めた大迫勇也のポストプレー、武藤嘉紀のフリーランニングは日本代表復帰を推薦したいレベルで、広範囲をカバーして攻守に躍動する齊藤未月の存在感は好調時のエヌゴロ・カンテを彷彿とさせる。鹿島のホーム5失点など記憶に無かったが、1995年以来の惨事だという。もう、わがクラブを卑下する癖とは訣別したい。今季のリーグ優勝は、きっと現実的な目標だろう。高い壁を、超克できそうな兆しが見えた。神戸が鹿島を粉砕し、リーグ首位をひた走る日が来たのだから、いずれフットボールが野球を超えることも夢ではないはずだ。いまさら、悔い改めることもない。「そんなこと」は、これからも私の生きがいだと胸を張って言い切れる。

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