神戸の日本一 第3のリベロ Vol.47
もう10年以上前のこと、東京でお上りさんになった私は銀座でのディナーを決行した。お店の名誉のため名前は伏せておくが、わが国の先駆的な存在とされる洋食の老舗の味は、残念ながら満足のいくものではなかった。
ここ神戸に、日本一と言えるものがあるとしたら。真っ先に思い浮かぶのは、神戸スイーツという総称もある洋菓子や、消費量が国内トップレベルを誇るパンだ。ファッションや遊びに疎い市民には食べ物のことしか浮かばず、もう一つ挙げるなら、洋食ではないか。その質の高さは、銀座の名店でも満足できないほど私の舌を肥えさせてくれた。
今年も師走前夜となり、神戸の洋食を代表する名店が最後の営業日を迎えた。カウンター席しかない小さなお店を切り盛りしてきたのは、老舗ホテルの元料理長。コの字酒場のような空間でホテルの味を堪能できたのが、三ノ宮と元町の間にある「飲・食・歓ラミ」だ。
初めての入店は、就職1年目だったと記憶している。絶品のビーフシチューオムレツやカニクリームコロッケは、モスバーガーがご馳走だった当時の若造に大人の味を教えてくれた。知り合いと食の話題になれば、好きな洋食店として常に挙げてきたのが「ラミ」だった。
オフサイド判定が覆り、連覇に向けて状況は好転。ヴィッセル神戸の劇的ドローに弾みをつけて出発したものの、16時過ぎでは遅かったか。「ラミ」の前の行列はL字になっていて、持ち帰った残業のせいで時間が限られた身は、目線を未知の店へと切り替えた。「洋食の口」だけは譲れなかったが、元町駅西口近くの「クアトロ」は満席、南京町の「双平」は営業時間外で、飛び込んだのは近所の「アシェット」。
ハンバーグにエビフライ、日替わりフライの具はイカだった。「第四の選択肢」がすぐに見つかり、それも十分に満足できるのだから、やはり神戸の洋食屋さんは素晴らしい。「ラミ」は食べ損ねたけれど、最後の日まで賑わい、愛されている様子を拝めただけでも嬉しかった。シンボルの一つが幕を降ろしたとはいえ、これからも、わが街の美味しい文化は栄え続けていくことだろう。