シリーズ:入管の数字マジック?Vol.4〜日本には難民がほとんど来ない?〜浅川参与員発言から考える難民審査の闇〜修正版〜
このシリーズは、現在、国会に提出されている入管法改正法案の審理の前提となる数字、統計が入管から提出されておらず、採決が強行されたことに危機感を持って、書き始めたものです。
賛成派にも、反対派にも利益のある話です。命のかかった大切な法案だからこそ、吟味されるべきです。
今回は、5月25日の参議院法務委員会の参考人招致の質疑を受け、個人的に気になったところを書きます。
1 5月25日参議院法務委員会浅川氏の発言から
浅川晃広氏(以下「浅川氏」と言います。)は、5月25日の参考人質疑の中で、難民審査参与員(以下「参与員」と言います。)をこれまで10年間務め、約3900件を扱い、そのうち、難民であるという意見書を書いたのは、1件だけだったという趣旨の発言をしました。
柳瀬房子参与員(以下「柳瀬氏」と言います。)の発言の裏付けということで、別の参与員を出してきたのでしょう。
なぜ、日本の難民認定率が低いのかという理由についても、柳瀬氏と意見は変わらず、そもそも難民該当性のない申請者(「本当の難民じゃない人」)が多いのだと言っています。
そして、浅川氏は、難民該当性がないことを判断する方法の例として、以下のように言っていました。
難民認定申請の申立書には、その理由を、条約で列挙された類型ごとにチェックボックスにチェックを付ける形で、回答する項目があります。
難民認定の審査では、難民条約に列挙されている条約難民に当たるかどうかの審査を行うので、上記の項目のうち、「その他」にチェックを付けたら、自ら条約難民ではないと自白しているようなもので、こういう人がたくさんいたんだ、と言うのが浅川発言の要点です。*1
2 「その他」にチェックした事案の統計?
Vol.3の注で触れましたが、入管は難民申請があると、「迅速処理」のために、難民に認められそうか否かを事前に判断して振り分けを行い、振り分けに従った処理をしています。
つまり、難民申請を繰り返している人や、難民として認められないような申請をしている人の案件は、早めに処理することにしているわけです。
具体的には、以下の4つの案件に振り分けられます。
【A案件】
難民である可能性が高いと思われる案件、本国情勢により人道上配慮を要する可能性が高い事案
【B案件】
難民条約上の迫害理由に明らかに該当しない事情を主張する事案(例ば、自国での借金を理由に身の危険があるなど)
【C案件】
正当な主張なく前回と同様の主張を繰り返す再申請事案
【D案】
AからCに当たらない事案。
つまり、浅川氏が言う、「その他」にチェックした事案というのは、このうちの「B案件」ということになります。
3 浅川発言を再現してみた
入管は、各年の振り分け案件ごとの集計を発表しています。*2
そこで、次のように、浅川発言を再現することにしました。*3
B案件については、迅速処理がなされることになっていることから、B案件は、申請されたその年のうちに、全てが「迅速処理」されたものと仮定します。仮定、と言っても、難民ケースに取り組む弁護士たちが入手した、入管の内部運用の「難民申請事務取扱要領」では、B案件、C案件は、申請から、本人に結果が通知されるまでの期間を3ヶ月以内と定めているので、ほぼリアルな数字です。
また、いわゆる「難民認定率」という数字は、その年に処理された案件数から取り下げをされた件数を引いた数字を母数として、その年に認定された難民の数の割合を出すことで得られます。*3
そこで、浅川氏が言っているように、そもそも条約難民に当たらないとされる=B案件をその年の処理件数から引いて計算したら、元々の難民認定率とどれだけの違いが出るのかを集計してみたのが、下記の表になります。
2017年では、B案件を抜いた数字で計算した難民認定率が、その年の正規の難民認定率と比べると約0.1%高くなった他は、その他の都市では、軒並み差が生じていないことが分かります。
4 「日本にはほとんど難民がいない」発言の闇
いかがでしたでしょうか。
計算をしてみて、改めて確信しました。「日本にはほとんど難民はいない」という彼らの発言を裏付ける数字は、やはりないのだと。
入管は、具体的な数字の根拠もなく、柳瀬氏、浅川氏という大量処理してきた2人の難民審査参与員に語らせることで、送還忌避者のうち、難民申請を複数回しているものは、難民ではなく、帰りたくないから難民申請を濫用(誤用、悪用)しているんだという印象を、与えようとしています。
しかしながら、先ほど示した表をご覧いただくと、2021年、2022年は、難民申請の濫用が疑われるB案件は、わずか30数件にとどまっています。
そんな中、少なくとも柳瀬氏は、
2021年に1378件
2022年に1231件
もの大量の案件を処理してきたことが明らかになっています。明らかに難民該当性がないとされる案件(B案件)が極めて減っている中でも、大量処理が続いているということも指摘しておきます。
が、トレンド入りしたそうですね。
日本の難民審査の闇がつぶさに明らかになって初めて、法改正の議論ができる。
このまま暗部を放置して、命の一線を越える法案を成立させることは、許されません。
※本記事も髙橋済弁護士に監修して頂きました。ありがとうございました。
*1
浅川発言には、その他にもたくさんの問題点があります。
一部をご紹介します。
浅川氏は、
申請書で「その他」にチェックが付いている案件=難民該当性がない
かのように言っていますが、「その他」にチェックが付いているからと言って、必ずしも難民該当性がないとは言えないこと+むしろ注意深く出身国情報などにあたって審理しなければ、正しい判断ができないケースがあることについては、
こちらの児玉弁護士の記事を是非ご覧ください。
https://note.com/koichi_kodama/n/nc526452a9184
また、出身国情報を見なくても良い案件があるから、1日50件でも審査できるという趣旨の発言の問題点については、こちらの児玉弁護士の記事をご覧ください。
https://note.com/koichi_kodama/n/n49ee38253576
*2(B案件に振り分けられたものの統計)
平成29年
https://refugeestudies.jp/wp/wp-content/uploads/2022/03/Refugee-Trend-Analysis-in-Japan-2020.pdf
平成30年
https://www.moj.go.jp/isa/content/930004129.pdf
令和元年
https://www.moj.go.jp/isa/content/930005069.pdf
令和4年(令和2年〜令和4年)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001372236.pdf
*3
先日アップした記事では、難民申請者数を用いて比較をしましたので、厳密にいうといわゆる「難民認定率」とは異なるため、今般、一般的な難民認定率の計算方法で、再計算した結果を本記事に掲載しております。