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ドイツのお兄さん

こんにちは、Amyです。

今日は留学時代に出会った、恩人のお話。

あの時のあの人の姿に、私もそうして生きようときめました。


はじまりはじまり▶︎▶︎


私は今、電車に乗っている。

住んでいる南デンマークから、友人の住むドイツ北部の街ハンブルクに行くためだ。

3時間ほどで着くだろう。

16歳になってすぐ、日本の高校を休学し1人デンマークに留学した。

スマホは契約を休止していたため、Wi-Fiが無いと使えない。

でも、私には必要なかった。

海外に1人で飛び込むと決めた時、自分の力だけでなんとかしようと腹をくくっていた。

スマホは、写真を撮るくらい。

体当たりで行こう。


デンマークの電車は窓がとても大きい。

山がないので、地平線の先まで続く小麦畑や牧場を横目に通り過ぎて行く。

レンガと茅葺き屋根のカラフルな家々を眺め、ここはやはりアンデルセンを生んだ「おとぎ話の世界だな」と考える。


さて、友人の家はそう簡単にはたどり着けない。

デンマークからハンブルクまで特急に乗り、そこで在来線に乗り換えいくつか駅を過ぎた所で待ち合わせだ。

友人から下車する駅の名前も教えてもらっている。

私はこの時まだ16歳だったが、幼い頃から英語だけは好きで生活に困らない程度には習得していた。

デンマーク語も必死に勉強して、ゆっくりなら読み書きも話す事もできるほどになっていた。

1人で電車やバスに乗る事も多く、治安も良いのでここまで特に目立った問題も起こっていなければ、心配事すらない。

美しい景色が、次第にドイツの街並みを映し始め、ようやくハンブルク駅に着いた。

さて、ここまで順調だった私の旅は、直後にパニックの旅へと反転して行く。


ハンブルク駅に降りてまず思ったのが「想像以上に広い」という事。

気になる方はぜひインターネットで調べて見てほしいのだが、例えるならハリー・ポッターに出てくるような駅で、日本で例えるなら阪急梅田駅のような空間である。

これだけ聞けば、「なに、そこまで広くないだろう」と思うかもしれないが、16になったばかりの外国人の少女にとっては、物理的な大きさがどうこうとかではなく、心細さと、その場の空気感に圧倒され広く感じたものだ。

降車駅の名前は分かるが、それがどの路線なのかは聞きそびれてしまった。

先述したが、スマホは使えない。

駅からは友人のホストファザーが迎えに来てくれる予定で待ち合わせの時間も約束してある。

「悩んでいても仕方ない、誰かに聞こう」

とりあえず、エスカレーターの下にいた警備員のおじさんに声をかけた。

“Excuse me.”

するとおじさんは

“Oh! No! No English!”

と、まるで話しかけないでくれと言わんばかりに両手でしっし。

私の声を聞こうともしてくれなかった。

いかにも旅人であるような東洋の少女に突然話しかけられたらびっくりするか…とも思ったが、私は私に対して嫌悪感を示すようなおじさんの態度に傷付いた。

その後、他の人を捕まえても"I don’t know." "I don't have time."と返ってくるばかりで一向に路線は見つからず、友人に電話しようにもWi-Fiもなくてスマホは使えないので戦力外だ。

途方に暮れるとはまさにこの事で、時間だけが過ぎて行く。

ここではデンマーク語はもちろん通じないし、英語もダメだった。

さらに私はドイツ語に関しては一言も話せない。

「このまま友人にも会えずデンマークにも帰れなかったらどうしよう…」

不安で涙が出そうなのを必死に堪えた。

自分で探す以外にないかと落胆し壁にもたれていると、20代くらいの男性がまっすぐこちらに向かって歩いてくるではないか。

挙動不審な私の動きを注意しに来たのかと身構えた瞬間、彼は

“Are you alright?” "Do you need help?”

と英語を話したのだ !

私は思わず目をうるうるさせながら不安でボロボロになったメモを見せ助けてくださいと伝えた。

そこには降車駅の名前だけ記されており、男性に

「ここに行きたいけれど、ドイツ語はわからないしどのホームに行けばよいかさっぱりで」

と伝えると彼はそれを見るなり顔を上げ

「うん、わかった。一緒にここのホームまで行こう。ついておいで!」

と見ず知らずの私を案内してくれたのだ。

ホームまでは階段を下ったりしたことは覚えているがどこをどう通ったとかよく覚えていない。

安心する気持ちで無心で歩いていたのかもしれない。

「本当に助かった…」と胸をなでおろしながらついて行き、ホームに着くと

「次に来る〇〇行きの電車に乗るんだよ。絶対に今立っている乗車位置から乗って。このホームは電車があっちとこっちに同時に出発するから、向こうから乗ると反対方向に行っちゃうからね!」

とわざわざ乗車位置まで教えてくれた。

それを聞いて私は若干青ざめた。

一つのホームから同時に2つの別の路線があっちとこっちに向いて発車するなんて考えもしていなかったし、しかも立つ位置を間違えていたら正反対に進んでしまうだなんて、なんだかものすごくレベルの高い一人旅をしていたのだな…友人のホストファザーも事前に教えて欲しかったなぁ…と急にどっと疲れてきた。

結局私を救ってくれた男性は、なぜ私が一人でハンブルクの駅にいたのか、どこから来たのか、そういうプライベートなことを一切聞かずとてもスマートに助けてくれた。

私が未成年で一人だということもあり、余計な詮索は不安を煽ると考えてくれていたのかもしれない。

自分もどこかへ向かう途中だったろうに、足を止めて声をかけてくれ、時間を削って助けてくれた彼に私は心からの感謝を伝えた。

彼は「たいしたことないよ!」と微笑むとそのまま人混みに消えていった。

なんてスマートな人なんだろうと私はとても感銘を受け、その日から困っている人を見かけると必ず自分から声をかけできる限り丁寧に接するよう心がけている。

誰かに感謝されたいわけではなく、ただ純粋に自分がそうされてとても嬉しかったから、心細さを拭ってもらったから私もそんな人になりたいと目標にしている。

ちなみに男性と分かれてから無事正しく乗車できたものの、アナウンスを聞き間違え降りる駅を間違えてしまった。

自分がとても情けない。

近くにいた女性に助けてもらいようやく目的地に到着したのだが、私が予想外のハプニングで遅刻してしまったためホストファザーはちょっと怒っていたらしい。

けれどその後とても美味しいドイツのディナーを頂き、友人やホストシスターとガールズナイトで盛り上がり2泊3日を有意義に過ごすことができた。

どうやって帰ったかよく思い出せないが、迷った記憶はないのでうまく乗り換えて帰宅したのだと思う。


先日、仕事帰りにセルビアから来たという女性に声をかけられ、落とし物をとある駅まで取りに行きたいというので一緒に向かった。

そこにつくまでおしゃべりをしていたら、私と同い年で誕生日も近いことがわかり、さらにはボーイフレンドが日本のスポーツチームでプロとしてプレーし、もっといえばその子はセルビアでとても有名なインスタグラマーであった。

「今度お茶しようね!」(=See you)

は、世界共通の言葉のようだ。

人助けはさまざまな縁を結んでくれる。

私は、誰かが笑ってくれる瞬間がとても好きだ。

ーAmy


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