ケース13. カラーバス効果〜機動力のある戦術実行〜
▶︎3本の矢は簡単には折れない。同じ方向に組織力を発揮していくには?
人にはそれぞれの思考と価値観があり、バラバラの方向に力が分散されてしまうと、組織としての力を最大化できません。
逆に同じベクトルに力を合わせることで簡単には折れない強い推進力を発揮できます。
それでも、組織が大きくなったり、個性が強いと、同じ方向に進むことに難しさを感じるのではないでしょうか?
経営の視点:
・経営戦略を戦術に落とし込むことが難しい
・狙った通りに現場が動かない
現場の視点:
・経営の方針を日々の行動で意識することが難しい
・評価されることを優先したい
そこで、組織の力を合わせていく戦術実行力を、カラーバス効果という概念を用いて考察します。
▶︎カラーバス効果
例えば、英語を話せるようになりたいと目標を持つと、自然と日常生活の中で、英語の発音に聞き耳を立てたり、文字に目が止まったりするのではないでしょうか。
人の脳は特定のことを意識すると、視覚や聴覚によって得た膨大な情報の中から、無意識のうちに「その特定のことに関連する情報」をピックアップして処理をする性質を持っています。
定量目標が有する危険性の代表例とされるマクナマラの誤謬も、特定のことに対して過度に意識が向きすぎていることを示しています。
※マクナマラの誤謬に関する記事
このカラーバス効果を活用することで、組織の一人ひとりが同じ狙った方向に意識づけしやすくなります。
それでは、組織の経営戦略と現場の動きを連動させるには、どのような工夫ができるのでしょうか?
▶︎期待することを明確にした評価制度
ドラッカーはセルフマネジメントができないと、人は日常に埋没してしまうと説いています。
やるべきこと、やった方が良いこと、やりたいこと、と一人ひとりの仕事を取り巻くさまざまな思考が日々変化していく中では、MUSTの優先順位を明確にするために、目標管理と評価制度の運用が重要となります。
人には、承認欲求や自己実現欲求、社会的欲求、安全欲求があり、個人差があれども、組織からの評価は誰しも意識するものです。
そのため、評価が曖昧だと個々の解釈によってバラツキが生じやすく、明確だと方向性を統一させやすくなります。
ドラッカーの下記の言葉に示されるように、成果創出に必要なことはスキルではなく、必要な方向に愚直に歩めているかであり、やるべきことは何かを明確にすることは人の努力に報いるためにも必要な環境設計と言えるでしょう。
評価制度では、大きく下記の3つの区分があります。
何を大事にするのか、組織思想によって各評価のウエイトが異なりますが、評価基準と評価方法を明確にすることで、一人ひとりの努力が報われ、組織として狙った方向に力を結集できるカラーバス効果を発揮することができます。
▶︎組織戦術を分かりやすい目標管理に落とし込む
特定の方向性に人を導くための手法として、KPIマネジメントが多くの組織で活用されています。
『キーエンス解剖』によると、高収益経営を実現するキーエンスでは、多様な顧客層に対して、分かりやすい営業力を武器に差別化していくために、顧客の前で製品デモを見せた回数をKPIとしているそうです。
KPIマネジメントによるカラーバス効果が発揮されることで、キーエンスの例では商談プロセスにおいて製品デモを見せるタイミングを探ろうと意識づけされやすくなります。
このように特定の行動を成功要因と示すことは、狙った方向性の行動を引き起こすことに繋がります。
また、行動レベルから成果レベルの目標管理に引き上げると、SMARTの法則に基づく目標設定が有効になります。
例えば、「上期のチーム売上2億円達成のために、2Q末迄に2,000万円の売上を作り、単価を上げることで前年対比120%の成果を出す」といったように分かりやすく目標を立てることが具体的な行動計画を立てやすくなります。
この際に、高付加価値の単価向上をキーワードとして浸透していればカラーバス効果で単価向上のための取り組みが行われ、新規開拓をキーワードとしていれば顧客数の増加が手段として想起されやすくなるでしょう。
目標管理では目標の連鎖という言葉がありますが、分かりやすいキーワードかつ明確な目的が浸透している土壌で、月次や週次のキャンペーン施策を走らせることによって、戦術実行力を高めることができます。
カラーバス効果と合わせて、リフレーミングを活用したメッセージングも有効となります。
※リフレーミングに関する記事
▶︎戦略ストーリーを道標として示す
楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』では、下記の言葉があります。
経営戦略を戦術に落とし込み、組織全体の動きの方向性に揃えていくには、進むべき道筋を示すことが重要となります。
JALの企業再生では、稲盛和夫さんの指揮の下、フィロソフィーやKPIの明確化がなされたことで強烈な組織力が発揮されました。
そして、今もなお、「最高のバトンタッチ」というJALフィロソフィーを通じて、顧客体験向上のために部門間連携の重要性が意識づけ事業競争力の一つとなっています。
人それぞれの個性がある組織において、1+1>2となれるように同じベクトルに力を合わさる戦術実行力が高まることで、一人ひとりではない組織だからこそのバリューが発揮されるのではないでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。 他記事はぜひマガジンからご覧ください!