#16 “キラキラネーム”の法制化って、なんだろう
この春から環境が変わって、新しい人間関係を築いていかなくてはならなくなったのだが、
ここ何年か友だちづくりというものを全然していなかったので、探り探りの日々を過ごしている。
LINEの友だちの数が1桁(家族含め)というのは
少ない方なのだろうか?
2桁とか3桁とか友だちがいる人たちは
誰とどこで繋がっているのか、心底謎である。
さて、前回までは
「私が趣味の延長で作った名前の分類を
さまざまな有名人に当てはめていくシリーズ」を
細々とやっていたのだが、
今回はそんなことより大事な話があったので
それについて書いていくことにする。
と、そんなわけで、さっそく。
戸籍に読み仮名を記載することが検討されている。
これまでは漢字をどう読ませても自由だったが、
そこが法制化されていわゆる“キラキラネーム”が許容されなくなるかもしれない、というのだ。
審議会がまとめた許容基準は3案あり、
どれも「差別的、卑猥などの公序良俗に反するものは認めない」という一般原則があったうえで、
といった内容になっている。
これについてのニュースは
テレビや新聞などでも報じられていたが、
一名前オタクとして、
私が考えていることを書いておきたいと思う。
ニュースで出てきた名前の例はどこも同じで、
大体こんな感じだった。
「空=スカイ」「光=ピカ」などと読ませる名前は漢字の意味との関連性があるので最も厳しい②の案でも許容されるようだが、「七音=ドレミ」は認められるかどうか分からないという。
そして、漢字の意味との関連性が無い(つまり許容されない)ものの例として、
「太郎=じろう」「高=ひくし」といったような名前が紹介されていた。
これらを見て私がまず感じたのは、
「こんなわかりやすい名前だったらまあやりやすいだろうけどねー、、」である。
太郎(じろう)とか高(ひくし)とか、
これだけわかりやすく天邪鬼な名前は
流石にちょっと実在する可能性があるのか疑問なので一旦省くとして、
とりあえず、私がこれまでの記事で紹介してきた名前の分類に、例に出されていた名前を当てはめてみる。
要は、説明がしやすいのである。
空でスカイ、光でピカ、七音でドレミ。
いわゆる“キラキラネーム”の中でも、
何故その読みになるのかが非常にわかりやすい、
シンプルで単純な“キラキラネーム”なのだ。
正直なところ、そんなものを例に出されてもしょうがないだろう、と思ってしまう。
世の中にある「読めない名前」というのは
もっと複雑なものがたくさんある。
例えばぶった切り。
愛(あい)を愛(あ)と読むのは、
「漢字の音訓、慣用による発音、漢字の意味合いに関連性がある」ということになるのか。
→①ぶった切り
夢(ゆめ)を夢(め)と読むのはどうなのか。
→②後ろ残しぶった切り
栞(しおり)を栞(お)と読むのは??
→③中採りぶった切り
葵(あおい)を葵(あい)と読むのは??
→④中抜きぶった切り
他にもさまざまな読ませ方がある。
葵平(きっぺい)という名前なら、
「葵=き」「平=へい」の間に「っ」を足しているが、これは問題ないのか。
→⑳促音化
花望(かのん)という名前は、
「望=のぞみ」の「ぞみ」を「ん」に置き換えているが、漢字の音訓をもとにしているからいいのか。
→㉔ん置換
琥(こはく)という名前の場合、
本来は「琥珀」で「こはく」と読むのであって、「琥」のみで「こはく」にはならないが、漢字の意味合いに関連性があるとされるのか。
→㉗不足
では、これらはどうだろう。
「日咲」「光優」「姫詩」「暖」「柊碧」
以上の名前は、2019年度生まれの子どもの名前で、全て「ひなた」と読む。
さて、どこまで許容されるのか。
「日」とか「光」とか「暖」とか、
なんとなく「ひなた」に意味合いが近いものは良しとするのか、それとも。
どのようなルールで、どういった線引きで、
このような名前に対する判断を下すのだろうか。
兎にも角にも、この試案は謎が多すぎる。
「空(すかい)」は良くて「高(ひくし)」はダメ、なんて、そんな簡単なものではない。
最近大人気の「陽葵(ひまり)」という名前も、
向日葵(ひまわり)から採られた読み方だと
考えられるが、これも“漢字の意味合いに関連性がある”ということになるのだろうか。
戸籍に読み仮名を記載することの
善し悪し以前の問題で、
何を基準にしてどう判断するのか全くわからない。
そもそも、一般原則となっている
「差別的、卑猥などの公序良俗に反するものは認めない」という部分に関しても、
何をもって「差別的」「卑猥」と判断するのか。
以前noteにも書いたことがあるが(#8)、
本当に判断基準が謎すぎるのだ。
また「戸籍に読み仮名を記載する」ことに関しても、明らかなデメリットがひとつある。
それは、名前の読み方だけを変更したい場合のハードルがぐんと上がってしまうということだ。
#1の記事でも細かく説明したのだが、
現状、戸籍には読み仮名が書かれていないので、
読み仮名のみを変えたい場合は家庭裁判所などを通すことなく、自治体にその旨を届け出るだけで
住民基本台帳に記載されている読み仮名を変更することが可能である。
例えば「空(すかい)」という名前の人が
どうしても日常生活に不便があって「空(そら)」に変更したい場合、今の法律なら上記の手続きで読み仮名を変えることができる。
しかし戸籍に読み仮名が記載されるようになると、家庭裁判所に改名申請して、その許可を得る必要が出てくるだろう。
今のところ、3案ある許容基準の最も厳しい案でも「空(すかい)」という名前は良しとされるようなので、もし名付けられた本人に不便があったときの手段は、ある程度簡単な方がいいはずだ。
もし仮に戸籍に読み仮名を記載することが確定したとしても、漢字の読み方を規制するというのは、個人的には非常に難しいと思う。
それに、出生届に書かれたひとつひとつの名前に対して判断を下すのは誰が行うのか。
不可能だと思うが、これから届け出される全ての名前を網羅する規則を作らない限り、結局その最終的な判断は各自治体の担当者が行うことになるわけで、そうなると絶対に人によって判断のズレが出てきてしまうだろう。
「この自治体では通るけどこっちではダメと言われた」とか、もっと言えば「この日の担当者にはダメと言われたけど別の日に行ったら通った」とか、
そんな風なことが起こるのなら、ルールを作ること自体の意味が無くなってしまうのではないか。
疑問点や不明な点はいろいろある。
ここから正式な形にどうやってもっていくのかが、とても気になるところだ。
少し前にTBSのニュースキャスターでやっていた
キラキラネームに関する特集の際に
京都文教大学の小林康正教授がインタビューされていて、私はこの方の意見に概ね賛成なのだが、
パッと読めない名前が異質なものではなく、当たり前に存在している現代社会において、もはやそれらはひとつの新しい文化なのだと私は考えている。
この期に及んでキラキラネームだなんだのと
異物扱いしたって仕方ないとも思うし、
そもそもこれまでずっと「漢字に対してどんな読み方をさせても自由」だったわけだから、
人の名前なんて読めない前提で考えていた方がいいんじゃないか、とすら思っている。
本当に、名前なんてものは
名付けられた本人が嫌じゃなければそれでいい。
側から見て全く読めない名前だったとしても、
当事者に不満がないのなら、
外野が文句を言う筋合いは全くないのだ。
戸籍に読み仮名を記載する云々、
漢字の読み方に規則を作る云々、そんなことより、
“キラキラネーム”とか“DQNネーム”とか
そういう曖昧で大雑把なネーミングだけが、
実態を知られないままに世間に広まってしまっていることの方がよっぽど問題だろう。
なんにしても、名前に関する話題がニュースで報じられるこのタイミングで、
現代の名前や名付けに対する関心が高まって
理解が深まっていったら良いなあ、なんて思う。
ま、凄いコアな世界だけど、、
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