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#40 スケートボードに恋する名前たち。
パリ五輪である。
7月26日に開幕して、大会の真っ最中。
わたしはオリンピックやパラリンピックがとても好きなので、毎日非常に楽しんでいる。
東京五輪や北京五輪のときはずっと家にいたので、日本代表のメダル獲得をぜんぶリアタイできたのだが、今回はそういうわけにもいかず。
ただ、観られるときはテレビやiPadを駆使してできるだけ観るようにしている。
そんなわけで、今日はオリンピックに関連する名前のおはなしをしていこうと思う。
オリンピックで話題になっているお名前といえば、やはりスケートボードの選手たちなのではないか。
女子ストリート金メダルの吉沢恋(ここ)選手、同じく銀メダルの赤間凛音(りず)選手、男子ストリートの小野寺吟雲(ぎんう)選手などが例に挙げられる。
10代など若い選手の活躍が目覚ましいスケートボード競技は、個性的だったり難読だったりする名前を持つ選手が多い。
何故なのか、他の競技との差はあるのか、それははっきりしないが、“最近の名付け”を知るにはとても良いデータになっているだろう。
ということで、今回はスケートボード選手の名前について深掘りしていく。
わたしはさまざまな競技を広く浅く好むだけなので、スケートボードについても決して詳しいわけではないのだが、日本の選手の名前を多く集めたいと調べてみたところ、去年11月に行われた日本スケートボード選手権大会のリザルトを見つけた。
ストリート・パーク合わせて男子85名、女子53名と充分すぎる数だったので、こちらのデータをもとに名前を見ていきたい。
まずは男子選手の名前から。
85名のうち、個人的に気になった名前をいくつかピックアップした。
慧野巨(けやき) 海龍(かいり)
建隼(けんと) 明夢(あいむ)
琉翔(るか) 浬璃(かいり)
天翔(そら) 裕海(ゆう)
柔空(とうあ) 吟雲(ぎんう)
怜生(りお) 翔夢(とむ)
偉登(いちか) 真心(こころ)
慎絆(しんば) 有生(あお)
これらの名前を、わたしが過去に作成した名前の分類と照らし合わせると、次のようにグループ分けができる。
🅰
慧野巨(けやき) 海龍(かいり)
建隼(けんと) 琉翔(るか)
吟雲(ぎんう) 怜生(りお)
翔夢(とむ) 慎絆(しんば)
有生(あお)
🅱
明夢(あいむ)
🅲
浬璃(かいり) 天翔(そら)
裕海(ゆう) 真心(こころ)
🅳
柔空(とうあ) 偉登(いちか)
ここからは各グループごとに、それぞれ分類とあわせて紹介していきたい。
🅰
このグループはすべて、①ぶった切りとなる。
ぶった切りはさまざまなパターンがあり、例えば「愛(あ)」や「翔(と)」などのようにほとんど一般化しているものも少なくない。
ただ今回の名前に関しては、やや読みにくい、難度の高いぶった切りが多いように感じる。
慧野巨(けやき) → 慧=けい 巨=きょ
海龍(かいり) → 龍=りゅう
建隼(けんと) → 隼=とし
琉翔(るか) → 翔=かける
吟雲(ぎんう) → 雲=うん
怜生(りお) → 怜=りょう
翔夢(とむ) → 翔=と(ぶ)
慎絆(しんば) → 絆=ばん
有生(あお) → 有=あり
🅱
このグループはひとつだけだが、こちらは⑧二度読みである。
二度読みを用いた名前は時々見かけるものの、そこまで多いわけではないので、こうして実例に出会うとワクワクしてしまう。
明夢(あいむ) → 明=あきら、めい
🅲
この4つの名前は、㉘置き字に分類される。
置き字は本来必要のない漢字が後ろにくることが多いが、「真心(こころ)」のように頭に置かれるパターンもある。
置き字による読みにくさは個体差があるが、「浬璃(かいり)」など、読みに沿っている場合はさほど難読にはならないだろう。
浬璃(かいり) → 浬(かいり)+璃
天翔(そら) → 天(そら)+翔
裕海(ゆう) → 裕(ゆう)+海
真心(こころ) → 心(こころ)+真
🅳
ラスト、こちらのグループは⑸難読に分類される名前だ。
「柔(とう)」も「登(ちか)」も、名乗り読みとして辞書に記載がある。名乗り読みとは、音読みや訓読みとは別の、名前にのみ使われる読み方のことである。
名乗り読みには「和(かず)」や「敬(たか)」など一般に浸透しているものも多くあるが、今回の名前のように認知度の低いものもある。
柔空(とうあ) 偉登(いちか)
※なお、「柔空(とうあ)」の「空(あ)」は①ぶった切りである。
続いては、女子選手の名前を見ていこう。
男子選手と同じように、53名のなかから気になった名前をいくつか選んだ。
虹々可(ななか) 夢海(ゆめか)
朝戸(せと) 心花(ここも)
月音(ゆの) 凛音(りず)
恋(ここ) 凜音(りおね)
心(ここ) 雪聖(いぶき)
想(こころ) 渚都夏(なつか)
美颯(めいさ) 紫(さき)
この名前もわたしの作った分類に当てはめてグループ分けしてみると、以下のようになる。
🅴
夢海(ゆめか) 心花(ここも)
月音(ゆの) 心(ここ)
渚都夏(なつか)
🅵
紫(さき)
🅶
恋(ここ) 想(こころ)
🅷
凜音(りおね)
🅸
虹々可(ななか) 凛音(りず)
雪聖(いぶき)
🅹
美颯(めいさ)
🅺
朝戸(せと)
それではこちらも、グループごとに分類とともに紹介していこう。
🅴
男子の🅰と同様、①ぶった切りの名前である。
読みが推測しやすいものもあれば、かなり難しい名前もあり、難易度はさまざまだ。
「花(もと)」は名乗り読みとして、ネットの辞書やいくつかのサイトに記載があった。家にある辞書にもあたったところ、5冊中1冊に載っていた。判断が微妙なところだが、ここでは名乗り読みとする。
夢海(ゆめか) → 海=かい
心花(ここも) → 花=もと
月音(ゆの) → 月=ゆえ、音=のん
心(ここ) → 心=こころ
渚都夏(なつか) → 渚=なぎさ
※「月(ゆえ)」は⑩外国語読み。中国語で月はyué(ユエ)。また、「音(のん)」は⑤熟字訓・連声ぶった切りである。
🅵
こちらは②後ろ残しぶった切り。ぶった切りのなかでもわりと珍しいケースだ。
この選手は名字が「西村」だったので、「にしむらむらさき」と音が被るのを避けたのだろうか。
紫(さき) → 紫=むらさき
🅶
この2つの名前は、⑥部分読みとなる。どちらも同じように、部首である「心」の部分だけを採って読ませている。
なお、「恋(ここ)」は「こい」の⑧二度読みと捉えることもできる。
恋(ここ) 恋→心=ここ
想(こころ) 想→心=こころ
🅷
こちらのグループは、男子の🅱と同じく⑧二度読みに分類される。
「音(お)」は一見「おと」のぶった切りのようだが、名乗り読みとしてどの辞書にも記載がある。
凜音(りおね) → 音=お、ね
🅸
このグループはすべて、⑨イメージ読みと考えられる名前だ。ただ、説明をするのがなかなか難しいので、ひとつひとつ丁寧に書いていきたい。
もちろん、このnoteに書くどの分類も説明も、わたしの独断と偏見によるものにすぎない。
虹々可(ななか)
……日本で虹は七色なので、「虹」を「なな」と読ませる名前は決して少なくない。ただ「々」がついているため、この場合は「虹(なな)」の①ぶった切りで「虹(な)」である。
凛音(りず)
……「音」を辞書で調べても、「ず」や「す」などに関連する読みはない。おそらく「リズム」の「ず」ではないかと推測した。
これはパリ五輪女子ストリート銀メダルの赤間選手の名前だが、「世界に通用するように、エリザベスの愛称・リズ」という由来だという。
雪聖(いぶき)
……「雪聖」という表記と「いぶき」という響きをどのように結びつけるかは非常に難しい。
「いぶ」は「クリスマスイブ」を連想させ、漢字もそのようなイメージができる。
だから全体的には、イメージ読みと捉えていいのではないか。
他には、「吹雪(ふぶき)」という言葉から、「雪」と「ぶき」という響きを繋げて考えることもできる。
仮に「雪=いぶ」とした場合、「聖」は「きよ」と読むので、その①ぶった切りとすれば「聖(き)」の説明はつく。
🅹
そしてこちらは、⑩外国語読みである。
先ほど🅴にも「月(ゆえ)」が出てきたが、漢字を同じ意味の外国語で読ませる名前は意外に少なくない。
以前の記事(#27、#28)でも取り上げたことがあるので、良ければ参照されたい。
美颯(めいさ) 美=měi(メイ、中国語)
🅺
最後となるこの名前は、残念ながら説明をすることができないため、㉙説明不可能に分類する。
「朝」という漢字について調べても、「さ」という名乗り読みが見つかるばかりで、「せ」にはどうしても繋がらない。
表記も響きもとても珍しい名前なので、ぜひ由来を聞いてみたいものである。
朝戸(せと) ???
これで、以上となる。
個性的で興味深い名前がたくさんあり、とても面白かった。
スケートボードの選手に特徴的な名前が多い理由のひとつには、その年齢層が他の競技と比べてかなり低いということがあるだろう。
特に2004年の秋からは、人名用漢字(名前に使用できる漢字)がぐんと増えたこともあり、名前の幅はとても広がっている。
そうした若い世代が日本を背負うようになれば、
今後のオリンピックでは他の競技でも、多くの個性的な名前と出会うことができるかもしれない。
その面でも、この先のオリンピックやパラリンピックがとても楽しみである。
パリ五輪はまだ続く。
自転車の部品の「リム」が由来である、BMXフリースタイル5位の中村輪夢(りむ)選手。
日本人の父と米国人の母を持ち、「生粋の日本人になってほしい」と名付けられた、柔道90キロ級銀メダルの村尾三四郎(さんしろう)選手。
野球好きの父が「ホームラン」から採ったという、バレーボールの髙橋藍(らん)選手。
選手の数だけ名前がある。
競技や結果だけでなく、ひとりひとりの名前を知るのも、面白い。
人が言葉を持つ以上、名前はただ個人を識別するためだけの記号にはなり得ないだろう。
さまざまな感性や思惑や願いによって、これだけ多種多様な名前が存在しているというのは、ほんとうに面白い文化だと思う。
これからも、スポーツと名前を好きでいて、注目していきたい。
それでは、また次回。