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番外編、『ベルリン・天使の詩』

ヴィム・ヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』は、日本では87年公開だったと思います。すでに来日同居していたドイツ人の妻と一緒に日比谷の映画館に観に行きました。

原題は、邦題のような乙女チックなものではなく、ただ単に『 Der Himmel über Berlin』(ベルリンの空)というものでした。

映画のなかの、二柱のベルリンの守護天使、ダミエル(ブルーノ・ガンツ)とカシエル(オットー・ザンダー)のうち、どうもカシエルの方に感情移入したことを覚えています。

カシエル(左)とダミエル、中央国立図書館にて

このカシエルが守護している老人が、その図書館で忘れてはならない国と都市の歴史を探求しています。そして、図書館のすぐ近くにあるポツダマー広場に赴くシーンがあります。

その真中を東西を隔てる壁が通っていたため戦争で廃墟となったそのままに放置されているかっては繁栄した広場なのでした。

わたしが初めてベルリンを訪れたのは1985年初夏でした。北京から乗ったシベリア鉄道でモンゴル、ソ連、ポーランドを抜ける一週間の旅のはてにたどり着いたのです。そのころのポツダマー広場はこの映画に記録されていたそのままでした。

迎えにきてくれたその頃は未婚だった妻とこの荒れ果てた広場を呆然と眺めたことを映画はまざまざと思い出させてくれました。

さて、この映画には第一作ほどは評判にならなかった続編があります。
『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』(原題:Faraway, So Close! / In weiter Ferne, so nah!)です。

第一作で天使を捨てて人間となったダミエルにかわってカシエルが主人公です。サーカスの空中ブランコ乗りに惚れて天使を捨てたダミエルよりずっと深い苦悩を負って、人間化したのちもカシエルはベルリンを彷徨います。

この続編が作られた頃はすでに東西統一はなっています。しかしこの帝国の首都であり再統一なったドイツ連邦共和国の首都は、戦前と分裂時代にもたらされた深い傷を癒やすべく悶えていたのでした。それがこの続編には大きく反映されています。

さて、わたしはこのカシエルを演じたOtto Sanderと接近遭遇してしまったことがあります。

それはベルリンではなく、デュッセルドルフの行きつけのトラットリアでした。

ある日いつものようにその店で食事をしていると、妻がしきりと目配せをします。隣の席にその俳優がいてなにか仕事の話をしているのです。映画とちがってものすごい低音が響く声をしていました。

オットー・サンダーがその後まもなく亡くなったというニューズを聞きました。とするとあそこで話し合われていた仕事は実現しなかったのかも知れません。

新装再開店したThe Playce。左に見える土手にかっての壁があった。

それはともかく、個人的な冷戦時代の都市の記憶とこの二本の映画による印象がわたしのベルリン感に大きく影響しているのは間違いありません。

当時とは面目を一新してしまった首都ベルリンは、しかしあいかわらず魅力にあふれる都市です。かっての東側には冷戦時代の面影はどんどん薄れてゆきますがそれでもその名残はあるものです。

その名残を惜しむように撮影されたのが篠田正浩監督の『舞姫』でした。それについてはまたの機会に語ることにします。

本日の番外編は以上です。



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