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別れても仲よき事は美しき哉
子供のことで相談があると一年ぶりに彼女に会いに行った。彼女とは私の元妻で、離婚してもう5年ほど経過している。
元妻について
彼女は中小企業の経営者だ。もう起業して15年は経つのか。現在ではパートやバイトを含め120人程の従業員を抱えているらしい。元々は女性友人と二人で始めたものの一度経営難となり、その後飲食店など幅広い事業を営む男性知人の資本援助を受けて復活。現在はその男性と共同経営している。
昨年、彼女はそれまで住んでいたマンションを売却し、自ら設計した戸建ての新居に引っ越しをした。私が到着するなり、新居を案内し、また「自慢したいから見て」とブランドもののバッグと靴のコレクションを披露した。たまに時間があると銀座まで出向き買いにいくという。私との結婚中はバッグなど興味を示さなかったが我慢していたのかもしれない。
起業のきっかけ
彼女は私に会う度、毎回このエピソードを語る。
「悔しかったら俺の年収超えてごらん」
まだ一緒に暮らしている時、とある夫婦喧嘩の際に私が彼女に言い放ったらしい。彼女のネタ話だと思いたいが、当時の私だったら言っていたのかもしれない。悪気は無かったんだと思う。ただ、家事育児の分担から逃れるための口実だったのであろう。
彼女曰く、外資系企業で働く私の年収を超えるのは難しいと考え、それであればと起業したとのこと。そして今では、その発言に感謝もしているともいう。その言葉が背を押してくれたと。
今回、リビングに私達の娘も居た。もちろん、娘もそのエピソードを何度も母親から聞いている。そして今回もこのエピソードが披露された。
「ホント、モラ・ハラオだったね」と私が冗談めかして答えると、娘が「パパ、やっとモラハラだって気づくことが出来たんだ。偉いね」と笑っていた。娘がどこまで冗談で言ったのかは分からない。
彼女の事業成功によって離婚へ進む
彼女のビジネスが順調に進むにつれて別居した。都心に住む自宅からの通勤が難しくなったためだ。当初、彼女は職場近くに賃貸物件を借り、週末帰宅していたが段々と月に数回、年に数回と会う回数が減り最終的に離婚した。別居から離婚に至るまで約10年間。そんな娘は当初は私と生活をしていたが徐々に彼女と住むようになった。
彼女のビジネスが成功していなければ離婚しなかっただろう。経済的に不安定な人を一人、世に放り投げる訳にはいかない。その意味では彼女のビジネスが成功した事によって離婚に至ったとも言える。「俺の年収を超えてごらん」というモラハラ発言が後々感謝されたりと、何が人生を変えるか分からないものだ。
円満離婚
「私達、円満離婚だよね」彼女はよく言う。確かに財産分与など揉めることも無く、二人の会話だけで完了した。そして、今度「元」家族で一緒に旅行する約束をしている。しかし、毎回予定が近づくと「また今度にしようか」と延期を繰り返すまでがセットだ。だが、それで良いと思っている。
さいごに
何度か彼女に聞かれたことがある。「早く再婚しなよ。付き合っている人いないの?」と。
そんな時は決まって「彼女は沢山おるよ」、「みんなのたっくんやで」と応える。最近は彼女も「私も結構モテるのよ」と返してくるようになった。
昔、離婚なんて考えていなかった頃、何かの拍子に「喧嘩別れだろうが自分と縁があった全ての人は幸せであって欲しい」と話したら、彼女は「それは独りよがりの偽善でしょ」と言っていた。彼女はそんな発言すら覚えていないだろう。しかし、今でもやっぱりそれは本心で、元家族も幸せであって欲しいと思う。