見出し画像

A都市計画制度 7-市街地開発事業


近くの駅前に大型超高層ビルが建てられる…都市に暮らせば高確率で経験する出来事で、都市計画の場で頻繁に議論される話題かと思います。個人的にもここで紹介する都市再開発が都市に対する興味のきっかけです。そんな都市再開発等がどのような枠組みによって成立しているのかを説明します。

市街地開発事業とは

都市計画区域内で実施できる、以下の7(防災街区整備事業を除き6の場合も)事業のことです。いずれも規定のエリア内で計画に基づいた面的な整備を行います。都市計画法第12条で定められます。もっとも土地区画整理事業と市街地再開発事業を除けば事例が少なく、内容的に多くが時代遅れなのですが…。リストの()内の数字は事例数です。

  • 土地区画整理事業(11,722):(後述)

  • 新住宅市街地開発事業(47):住宅に対する需要が著しく多い市街地周辺の地域を開発する事業。ニュータウンはこの制度によって建設された

  • 工業団地造成事業(58):大都市近郊に計画的に工業団地を配置し、その都市を整備する事業。首都圏・近畿圏のみ。鹿島臨海工業地帯が有名

  • 市街地再開発事業(1,133←市街地改造事業は除く):(後述)

  • 新都市基盤整備事業(0):人口の集中の著しい大都市の周辺の地域における新都市の建設に際して、インフラを整備する事業。実施事例なし

  • 住宅街区整備事業(5):3大都市圏に住宅を大量供給して良好な住宅街区を形成する、または市街化区域内の農地や空地を活用して宅地化する

  • 防災街区整備事業(18):(後述)

市街地開発事業の際には市街地開発事業の種類、名称及び施行区域を都市計画に定め、施行区域の面積等も定めることが望まれます。土地区画整理事業を除く事業では規制緩和や補助がインセンティブとして機能します。例えば住宅街区整備事業では施設建築物整備費等に関しては1/3が、都市計画道路の整備等に関しては1/2が補助されます。
また、土地区画整理事業・市街地再開発事業・住宅街区整備事業については促進区域といって、事業を優先的に実施するべき地区が規定されます。また市街地開発事業は原則として市街化区域・非線引き都市計画区域でしか認められません。

土地区画整理事業

まず、「都市計画の母」と称される土地区画整理事業の話を。土地区画整理事業は、土地の区画を整えることでエリアの利用価値と災害対策を強める手法です。理論上は土地所有者の金銭的な負担が発生しないので、関東大震災・第2次世界大戦の復興など、市街地の整備や郊外のスプロール改善など様々な目的に使用されました。その結果約38万ha(=3,800㎢、埼玉県くらい)が土地区画整理事業にて整備されました。現行法は1954年制定ですが、耕地整理の流れを汲む他、前述の復興時の応急処置として長い歴史があります。
 さて、土地所有者に金銭的な負担が発生しないと書きましたが、これはどういうことでしょうか。以下に土地区画整理事業の紹介に使われそうな図を用意したため、それと合わせて確認します。

土地区画整理事業のイメージ。各所有者の土地が変化する。

各所有者が自らの土地を部分的に提供する形で土地区画整理事業は行われます。そのため各土地の面積は事業実施により減り(減歩:げんぶ)、その減少分が道路拡幅や、保留地・公園等の公共用地に変わります。この際に土地は整形されます(換地)。保留地とは、土地区画整理事業によって生じる新たな土地で、通常は保留地を(宅地等に)売却して、その費用で事業費を回収する仕組みです。なので「理論上」土地所有者は事業費用を負担しません。
 私が最初に学習した際に腑に落ちなかったことは、そもそもこれらの土地所有者は減歩によって損しているのでは?ということです。このロジックとしては、土地区画整理事業は基本的にそのエリアの資産価値を高める事業で、敷地が減少しても地価は上昇するため資産価値は変わらない、ということです。一般的に形が整然としていて、防災上ゆとりのある道路(Ex.住宅地なら6m←火災時の延焼防止)に面する敷地は資産価値が高いとされます。言い換えれば、相応の資産価値向上が見込まれるエリアしか土地区画整理事業の実施は難しいのです(そのため、近年は漸減傾向)。
 まだまだ疑問点がありました。それは区画整理事業がどうやって実行されるかということです。なぜならこのような事業実施にはエリア内の合意形成が必要だからです。土地区画整理事業を実施する主な方法は以下です。

  • 個人・共同施行:地権者1人以上で実施可能。全員の同意が必要

  • 組合施行:地権者7人以上で土地区画整理組合を設置。土地所有者と借地権者それぞれ2/3以上の同意を得ると全員が組合に強制加入

  • 区画整理会社施行:地権者と会社が土地の2/3以上を所有し、知見さとうしが議決権の過半数を保有すると実施可能

  • 地方公共団体施行:都市施設整備のために実施。地権者の同意は必要ない

  • 国土交通大臣施行:国の利害に重大な関係があるもの。災害時などに使用。自ら実施する場合と地方公共団体に指示する場合がある

  • その他:都市再生機構(UR)・地方住宅供給公社による施行

このうち、上の3つは民間施行という形であり、都市計画区域内(市街化調整区域含む)なら実施可能で、開発許可が必要な開発行為とみなされます(他は行政が行う公的施行で、都市計画事業という扱いです)。ここで地権者とは土地所有者または借地権者のことです。このように、同意の度合いは実施主体によってグラデーションがありますが、件数が最多の組合施行では2/3以上とバランスがとられています(とはいえトラブルもあるようです)。また、合意形成とは別に、事業実施における換地計画は都道府県知事や国土交通大臣からの認可も必要になり、都市計画との適合などが審査されます。この際に照応の原則といって、従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が対応している必要があります。これが難しい際は金銭によって清算します。

市街地再開発事業

都市再開発法に基づき、市街地内の老朽木造建築物が密集している地区等において、細分化された敷地の統合、不燃化された共同建築物の建築、公園、広場、街路等の公共施設の整備等を行うことにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図る。

国土交通省 市街地再開発事業 事業の目的

市街地の高度利用を通じて、防災等地区の課題を解決する事業です。スキームとしては、建物が高層化することで、床面積が増え、それを事業費に活用できるようになっています。つまり、一度は無秩序になってしまった市街地を市街地再開発事業を通じて整備できます。施行主体は以下です。

  • 個人・共同施行:地権者1~4人で実施、誰かを個人施行者とする。全員の同意があれば第三者による個人施行も可能

  • 組合施行:地権者5人以上で市街地再開発組合を設置。土地所有者と借地権者それぞれ2/3以上の同意を得ると全員が組合に強制加入

  • 再開発会社施行:2002年創設。地権者と会社が土地の2/3以上を所有し、地権者が議決権の過半数を保有する再開発会社が実施

  • 地方公共団体施行:都市計画事業として都市施設整備のために実施

  • その他:都市再生機構(UR)・地方住宅供給公社による施行

市街地再開発事業が実施可能なエリアは厳しく限定されています。以下の4条件を全て満たす必要があります(地区計画は次回)。

  • 高度利用地区、都市再生特別地区、地区計画における防災街区整備地区計画/沿道地区計画の区域内

  • 耐火建築物の割合、もしくは耐火建築物の敷地面積の割合が建築面積で全体の概ね1/3以下

  • 土地の利用状況が著しく不健全

  • 土地の高度利用を図ることが都市機能の更新に資する

そして市街地再開発事業には第一種市街地再開発事業第二種市街地再開発事業があり、若干仕組みが異なります。

  • 第一種市街地再開発事業(1,067):従前の建物・土地所有者等は、従前資産の評価額相当の再開発ビルの床(権利床)を受け取る。場合によっては清算する(従前の資産が安すぎる場合など)

  • 第二種市街地再開発事業(66):区域面積0.5ha以上(防災再開発促進地区内は0.2ha)、公共性・緊急性が高い場合のみ。個人・組合は施工主体になれない。全ての土地を施行者が買取。従前の建物・土地所有者のうち希望者には共同建築物の床を与え、それ以外の者には補償金を支払い

第一種市街地再開発事業
第二種市街地再開発事業

市街地再開発事業は公共性が高い事業で、補助があります。具体的には事業費の一部(建築設計、共同施設整備等)は1/3が補助されます。被災地特例の場合には補助率が2/5に上ります。

なお市街地再開発法が1969年に制定される以前は市街地改造事業として実施されました。新橋駅前が有名な事例です。市街地改造事業は土地の高度利用・建築物の集約化・不燃化を目的としていました(鈴木・中井、2009)。

新橋駅西口、SL広場。事業から時間が経つが整備されている

防災街区整備事業

密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(通称:密集法)に基づいた事業で、2003年より開始されました。きっかけは1995年の阪神淡路大震災で、木造密集市街地の被害が甚大だったことです。防災街区整備事業の特徴は、(再開発事業と同様)土地・建物から建物への権利変換による共同化を基本としつつ、個別の(土地から)土地への権利変換も認めていることです。つまり、街区の一部は再開発事業のように大型の建物が建てられますが、残りは元の所有者が個別に有する土地が以前同様に残ります。新たな建物(個別に権利変換されたを建物含めて)耐火/準耐火建造物にすることが求められるうえ、並行して道路・公園等の都市施設を整備するため防災対策が進みます。防災街区整備事業を行うための条件は

  • 特定防災街区整備地区(以下参照)、もしくは防災街区整備地区計画内

  • 新耐震基準を満たす耐火建築物、準耐火建築物の延べ面積が全建築物の延べ面積の概ね1/3以下

  • 建築基準法に不適合な建築物の数、あるいは建築面積の合計が全建築物の数または建築面積の合計の1/2以上

など、となっています。要は木造密集市街地に限った制度なのです。こちらも市街地再開発に準じた補助が用意されています。

今までは土地利用の話が中心でしたが、今回は事業としての都市計画の紹介をしました。こうした制度を通じて日本の市街地が徐々に更新されているといえます。次回の内容は地区計画です

参考文献

  • 都市計画法

  • 土地区画整理法

  • 図説 わかる都市計画 第6章 

  • 図説 都市計画 第5章・第11章

  • 令和5年度 都市計画現況調査

  • 国土交通省 市街地開発事業の実績

  • 国土交通省 市街地再開発事業

  • 鈴木直樹・中井祐.新橋駅西口広場における歩行者空間成立の経緯と要因に関する研究.2009

  • 国土交通省 土地区画整理事業の活用にあたっての基本的な考え方

  • 国土交通省 防災街区整備事業 制度概要

いいなと思ったら応援しよう!