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A都市計画制度 8-地区計画


これまでに紹介した、規制や誘導を促す都市計画制度は主に汎用性の高いものが中心でした。言い換えればどこか1つのエリアを意図して作られた制度はほとんどありませんでした。しかし、それだけでは地域ごとに特化した街並みにすることが難しいでしょう。そこで登場するのが、地区計画です。

地区計画とは

地区計画は、建築物の建築形態、公共施設その他の施設の配置等からみて、一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し、開発し、及び保全するための計画とし、(以下略)

都市計画法第12条5(一部) 地区計画

地区計画は、地区ごとに適した規制と誘導を行い、地区の将来像に近づけるための制度です。結構便利な制度なので既に8,600件を超える事例が存在します。地区計画は1980年に導入されました(なので後付け)。当初は市街化区域のみでしたが、1992年以降は市街化調整区域、2000年以降は非線引き都市計画区域(用途地域内・用途地域はないが、開発(予定)地区/スプロールのおそれがある地区/優れた街区環境が形成された地区 ←市街化調整区域・非線引き都市計画区域にて現実に散見されるパターン)です。

補足すると、市街化調整区域には約1,000万人・市街化調整区域内は(用途地域の指定有無に関係なく)約2,000万人が暮らします。今までの制度を振り返ると、非線引都市計画区域に特化した制度は特定用途制限地域くらいだったので、地区計画が重要になってきます。
 地区計画で定めるべき内容は以下になります(太字は義務)。

  • 地区整備計画:居住者のための施設(Ex.道路、公園)+防災上必要な機能を確保するための施設(Ex.避難施設、避難路、雨水貯留浸透施設)

  • 地区計画の目標

  • 当該区域の整備、開発及び保全に関する方針

これを見ると地区計画は地区のマスタープラン的な役割も兼ねていることが分かります。実際の書類はマスタープランほどの見栄えではないですが、より詳細な内容(例:建築物の壁面後退0.5m以上、パチンコ店禁止)が含まれます。地区整備計画には容積率の指定や建築面積の最低限度、建物高さ、色彩や意匠の制限、緑化率の指定など建築基準法や地域地区の内容で通常は規定される事項を上乗せできます(ただし、市街化調整区域内の地区計画は容積率の指定などができず、自由度が減る。逆に再開発等促進区、開発事業促進区における地区計画は自由度が緩和される)
 そして、地区計画の特徴として住民参加がポイントです。地区計画では住民が主体的に参加できるように法律で明記されています。A-6で述べた都市計画決定も住民が参加できる仕組みですが実態としては形骸化しています。他方、地区計画は住民発意によって決まることも多いです。

2 都市計画に定める地区計画等の案は、意見の提出方法その他の政令で定める事項について条例で定めるところにより、その案に係る区域内の土地の所有者その他政令で定める利害関係を有する者の意見を求めて作成するものとする。
3 市町村は、前項の条例において、住民又は利害関係人から地区計画等に関する都市計画の決定若しくは変更又は地区計画等の案の内容となるべき事項を申し出る方法を定めることができる。

都市計画法第16条2・3 公聴会の開催等

地区計画の種類

地区計画は目的に応じていくつか種類が存在します。体系化した説明が難しいのですが、以下のように大別できます。

  • (一般的な)地区計画(8,655):以下で詳しく説明

  • 防災街区整備地区計画(39):密集市街地における地震・火事の延焼防止、避難経路確保のための合理的な土地利用(≒高度化)を推進

  • 沿道地区計画(50):幹線道路沿いに中高層の建物を誘導、環境を保護。建物の間口率等の制限が可能

  • 集落地区計画(16):(市街化調整区域/非線引き都市計画区域の)農住混在の地域にて、農業と居住環境の調和を図る

  • 歴史的風致維持向上地区計画(2):歴史的な建造物を利活用することにより、その保全を促す。2009年に導入

(一般的な)地区計画については、ベーシックな使い方とは別に、何を規制・誘導・緩和するのかを制限の特例として、以下のタイプごとにパッケージ化されています(特例の適用には条件を満たす必要がある)。

  • 誘導容積型:通常の容積率よりも低い暫定容積率を設定し、都市施設(Ex.道路・公園)の整備によって、その地区の特性に適した目標容積率まで引き上げられるもの

  • 容積適正配分型:容積率規制を地区の実情に応じて再分配して、良好な市街地環境の形成を図る

  • 高度利用型:都心部において、敷地の統合と有効な空地を確保し、機能更新のために用途を導入して土地の高度利用を図る

  • 用途別容積型:住商混在の用途地域において、住宅用途の容積率を最大1.5倍上乗せすることで住宅供給を誘導する

  • 街並み誘導型:街路と調和した良好な街並みを提供するために、建物の壁面位置を制限する。一方で、斜線制限等は緩和される

  • 立体道路型:道路の上下に建物を建築可能にすることで建物・道路を一体的に整備する立体道路制度(1989年~)に関する地区計画。2018年に導入

地区計画の実例

最後に地区計画の実例を確認します。地区計画の代表例とされるのが東京を代表する高級住宅地の田園調布です。田園調布では元から良好な住環境を保全するために、住民の間で定められた紳士協定が存在しました。この紳士協定は地区計画に近い内容でしたが、時代を下り住人が入れ替わったためルールが守られなくなったこともあり、1991年に強制力のある地区計画が定められました。内容は長屋・老人ホーム等の建設禁止、建物の最高高さは9m、接道長さ1mにつき見付け面積1㎡以上の植栽を施す…等この時点で厳しいのですが、中でも一番驚いたのは、最低敷地165㎡というものです。これは相続税の関係で敷地が細分化されることがあり、その結果高級住宅地としてのブランド価値が低下することを防ぐためだとされています。これは極端な例ですが、高級住宅地という地区の特性に応じた地区計画が形成されています。

地区計画は都市計画制度を改良するために加えられた仕組みでもあります。特に、住民参加の話を述べましたが、これは「その都市のことに一番詳しいのは住民である」という考えを制度に反映したものだと捉えられます。住民参加の考え方は都市計画では1990年代以降に主流なったもので近年も住民をいかにして都市計画に参加してもらうかというテーマは大学内での議題にもなっています(そもそも「参加」とは何でしょうか?というところから議論できます)。このような、既存の制度をそのまま受け入れるのではなく、クリティカルに分析する視点も必要になるのだと思います。

参考文献

  • 都市計画法

  • 令和5年度都市計画現況調査

  • 国土交通省 地区計画等

  • 国土交通省 防災街区整備地区計画作成技術指針

  • 神奈川県 地区計画 事例編

  • 東京都都市整備局 地区計画の活用

  • 練馬区

  • 大田区 

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