『総長ですから』
1 当番弁護士として出動
当番弁護士の要請があったので、さっそく警察署へ出向いた。福岡県弁護士会では、少年事件については、当番弁護士段階で、積極的に受任するよう指導していた。少年自身が弁護士の必要性を実感していなくても、必要なときがいくらでもあるし、いずれ審判を受けるのであれば、できるだけ長い時間、接して人間関係を築いておく必要があるからだ。
実際、僕も当番弁護士として出動して、少年事件について、受任しなかったことはなかった。
ところが、この少年は頑固だった。事件は、少年が“総長”をつとめる暴走族による集団暴走。OBから名前の使用許可をもらって再結成した若いグループだったらしく、少年は17歳にして総長という立場にあった。
「いや、ぜんぶ自分の責任なんで、いいわけするつもりもないし、少年院行けっていうなら行きます。俺、総長なんで。だから、弁護士は必要ないです。」とかたくなに弁護人選任届けを書くことを拒む。
その心意気は面白いが、こちらも簡単には引き下がれない。結局、2時間ほどの接見を経て、ようやく弁護人選任届を貰うことができた。
2 頑固な少年
「ところで、キミはなんで総長に選ばれたの。回りよりも喧嘩が強いとか、バイク乗るのが上手とか、なんか理由があるの?」と雑談的に聞くと、しばらく考えたあと、少年は、「いや~、俺しかいないでしょ、どう考えても。」どうやら、根っからのリーダー気質らしい。
警察に対しては、共犯者の名前などを一切言っていないという少年は、「いや、仲間は売れないですね。もし、それで処分が重くなるなら、仕方ないです。」
17歳にしては肝が据わっている。
3 友だちについて考える
事件は、わざと警察署の近くをとおり、警察に追いかけられるようにして走るとタイプのものだった。その際、「けつもち」をしていた少年のバイクが転倒し、捕まってしまいそこから、芋づる式に逮捕されることになったのであった。
「おまえが友だちが大切だという気持ちはよくわかった。でも、倒れた友だちを置いて、そのまま走って逃げたんなら、自分の信念と矛盾する行動なんじゃないの。」
「自分自身は馬鹿なことをやっていた、捕まって良かったと今思っているんだったら、まだ捕まっていない友だちにも反省のチャンスを与えるべきなんじゃない」
いろいろな角度から話を持ちかけて、共犯者野名前等を自分から話すよう働きかけた。
まあ、実際は他の少年たちはそうそうにみんなを名前をしゃべっており、少年が名前を出すまでもなかったのだが、そこはあえて言わないでおいた。
4 やりたい仕事
少年は、中学を卒業して、和食の店で働いていた。朝早くからの仕込み、夜遅くまで働いて短時間寝るとまた次の仕事が始まる。よくそんな生活が1年も続いたことに感心した。
さすがに仕事に嫌気がさした少年が、多少余裕のあるアルバイトをしていたとき、暴走族のOBから声をかけられて、再結成を託されたということらしい。
「今後は仕事、どうするの?」と聞くと「実は、逮捕される直前に、飲食店の面接をうけたんですよね。その合否の通知がうちに届いてるかもしれないんで、確認できますか。」と答えた。
母親に確認すると、確かに飲食店から電話があり、20名ほどの応募者のなかから、合格したと伝えらたという。
「合格したみたいなんだけ・・なんか違うんじゃないか、これ。店の名前で検索したけど、パスタとか、パフェとか出す可愛らしい店だよ、ここ。」
「ああ、そこです、そこ。俺、こう見えて好きなんですよ、スイーツ」少年は照れくさそうに笑った。
お店には、捕まったことも伝えたけれど、それでも出てくるまで、待っておくということだったので、よほど少年は気に入られたのだろう。
審判の結果、無事、保護観察となった。
5 審判が終わって
その後、少年から連絡はない。まあ、悪い知らせがあるよりいい。
どうしているかな、とふと思い出すこともあるが、たぶん、彼なら頑張ってるだろうという気がする。
以上
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