『必ず全額返します』
ある専門学校で、学費を滞納したまま、卒業した生徒がいた。本来は、一括で支払うべき学費について、分納を認めていたが、在学中から支払いが遅れるようになり、卒業後も支払いがない。
専門学校から頼まれて、契約者である親宛てに内容証明を送ったが、連絡してきたのは、元生徒のほうだった。
「バイトして、稼いだお金はおやじに渡していたんですが、パチンコで使ったみたいで。でも、おやじがあてにならないのは、わかっているんで、もう僕も二十歳を過ぎたし、自分で働いて払います。」
おやじさんより、よっぽどえらいな、と感心しつつ、分割支払いの約束をした。
毎月、支払日になると、ちゃんと振り込みがあるか、とても気になる。
先月末に支払予定の分は、2週間ほど遅れて、今日、振り込まれていた。
苦労しながらも、約束を守ろうとしていることがうれしかった。
どうにかその気持ちを伝えたいが、電話をすると大げさな気もしたので、悩んだうえで、携帯電話から、ショートメールを送った。
「振込み確認しました。ありがとうございました。大変だろうけど、頑張ってください」
すると、しばらくたってから、返信が来ていた。
「ありがとうございます。遅れて振り込んだりしてますが、必ず全額返しますので、お待ちいただけたら、幸いです」
シンプルな返答だったが、とてもうれしかった。
依頼者は専門学校で、この子は相手方だ。
けれど、心の底から、この子に頑張ってほしい、と思う。
学費を自分で働いたお金で完済するという経験が、この子を成長させる出来事のひとつになりますように。
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