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みちくさのファーストエイドキット

先日 『ウィルダネスファーストエイド』という応急手当の講習(10時間ほどのオンライン学習と2泊3日の実技講習)を受けてきたのだけれどね。
簡単に言うと、ウィルダネス=原生自然⇐救急車の来ないところ で起こる傷病にどう対応しようっていう講習会。

たとえば
滑落して複雑骨折
落枝に当たって意識不明

これらは別に、救助隊が来るまで3日かかる山奥でなくとも30分で救急車が来る公園でも起こり得るわけで。

どちらにせよ10分で救急車が来なければ命に関わるっていうのは変わらない。
そんな状況における救急法を学ぶ講習会を受けてきたんだ。

そこで、
携帯電話が繋がるまで丸一日、年に何人通りかかるんだろう、なんていうところで2泊3日のガイド山行を行う僕が、
安全と実用性、リスクと現実を考えて作ったファーストエイドキットのご紹介をさせていただこうかな、という回です。


さて。
僕は、ファーストエイドキット(以下FAキット)は2つに分けているんだよね。


すぐに出るところにあるFAキットA(左下)と、しっかり防水してある重症対応FAキットB(右上)


いつも使うわけではないFAキットだけど、ザックの奥底にあって出すのが億劫だとか、間に合わないとかでは意味がない。

だから、

FAキットA
『一人で半日程度』の山行や『ちょっとした時にもすぐに使うもの』


FAキットB
『ゲストさまがいる』ときや、一人でも『1泊以上や危険を伴う行程』のとき


としている。


FAキットA

FAチェックリスト・・・野外救急法をまとめたリスト
細挽き(紐)2mm経×1ひろ×2本・・・ザックの補修や靴紐代わり、剥がれた靴底の固定、洗濯物を干すなど。紐は代わりの効かない道具の一つ。
ダクトテープ(ゴリラテープ)・・・雨具やテントの破れから、傷の保護まで、防水のガムテープは万能テープ
ジップタイ 大小各種数本・・・いろいろ補修に便利
ペンチ・・・ペンチじゃなきゃできないことってあるので、軽くて小さいものがあると便利
医療バサミ・・・服を脱がさなきゃ手当できないのに、体勢や服の作りからすぐに脱がせられないときは切り裂いちゃうしかない
小さいナイフ・・・刃物って代わりが効かないので、小さくても予備を一つ
ライター・・・いちいち自然物で着火してられません
極小メタルマッチ・・・ライターは濡れたら使えないけれど、非常用の着火用具にメタルマッチは優秀。ビクトリノックスのメタルマッチファイヤースターターはめちゃくちゃ小さくて最高すぎる
レサコ・・・人工呼吸する際に、吐瀉物から自身を防ぐために逆流防止弁のついたシート
ビニール手袋×2・・・体液感染を防ぐために手袋は必須
毛抜・・・トゲ抜きなど
・・・自分の顔などの手当には必要だけど、現代はスマホで良いのか?
ダニリムーバー・・・ダニの除去にはこれが一番
綿棒・・・特筆なし
テーピングテープ・・・捻挫の固定だけでなく、包帯代わりにも
アルコール綿・・・擦過傷を洗えないときにはせめてアルコール綿で拭こう
滅菌ガーゼ・・・サビオで覆えない範囲の傷にはガーゼで保護
ステリテープ・・・医療用の縫合テープ。民間人は縫合できないので、これなら買えます。化膿に注意。あくまで応急処置
キズパワーパッド・・・絆創膏の中では一番使い勝手が良いです。小さい傷も大きいのを切って使えば複数サイズ持たなくてすむ
水絆創膏(リュウバン)・・・ちょっとした切り傷はこれで十分
ワセリン・・・やけどや靴擦れ、傷の保護など塗り薬はとりあえずワセリンあれば大丈夫
ムヒアルファEX・・・市販の虫刺され薬ではこれが高濃度
使い捨て目薬・・・特筆なし
サプリメント・・・アミノ酸、クエン酸等疲労回復系のサプリメント数種
ブドウ糖・・・低血糖や疲労時には一番吸収効率が良いのはブドウ糖。ラムネも良きだけど、人によっては原料のデンプンや乳製品、ゼラチンによるアレルギーがあるかもなので注意


FAキットB

予備の防寒着・・・真夏でも必ず1枚は携行
ビニールガッパ・・・ペラペラのビニール1枚かぶるだけで、放射や気化熱を防げる
サムスプリント・・・添え木。他でも代用は効くものだけれども安定性は最高
バンテージ・・・足の疲労にテーピングより楽に補助できるし、包帯代わりや添え木の固定もできる
テーピングテープ・・・ケガの固定の他に、包帯代わりや添え木の固定も
包帯数本・・・ガーゼの固定はもちろん、直接傷の保護にも使える
滅菌ガーゼ大小数枚・・・特筆なし
生理用ナプキン・・・出血の多い傷にはガーゼより効果的
ポピドンヨード消毒液・・・十分な洗浄ができず長時間過ごさなければならないときは、感染症予防で消毒するべき
シリンジ大・・・少量の水でも圧力をかけて洗浄できる
ビニール手袋・・・血液感染を防ぐため
常備薬各種・・・後述
冷湿布・・・ケガの初期段階には冷却が重要
ホッカイロ・・・夏場でも起こり得る低体温だけではなく、出血多量や疾病の際にも保温は重要
裁縫セット・・・特筆なし

常備薬内訳
バファリンA・・・解熱と同時に痛み止め。バファリンAの主成分はアスピリンで、血液サラサラ成分が含まれる。そのため、出血を伴うケガや傷には使えない代わりに、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓を緩和できる
カロナール・・・同じく解熱と同時に痛み止め。血液サラサラ成分がないので、頭をぶつけたとか、出血を伴う痛みに使える。外傷の痛み止めならこちらのほうが無難
抗ヒスタミン剤・・・いわいる花粉症の薬だけど、虫刺されや食物アレルギー全般も同様に効くので、症状の強いときや全身に症状が出たときに服用する
下痢止め・・・本当は出したほうが良いけれど、トイレに行けないとき用に
抗生物質・・・消毒できなかった傷などの感染症対策に。処方薬しかないため、多めに出してもらったものを携行
・その他個人的に必要な医薬品・・・僕の場合はイソジン、葛根湯、イベルメクチン、薬のういろう、五苓散、太田胃散


野外救急法その他で学び、市販薬で対応できると判断したものをご紹介していますが、医薬品に関してはご自身の判断でご利用ください。

※その他の持ち物
FAキットとは別に真夏の日帰りでもレインウェア予備の防寒着を持つのは登山の荷物として当たり前だし、僕の場合は飲水確保のための浄水器は標準装備で、泊まりのときにはテント(ツェルト)シュラフマットを持っているため、救急装備には含めておりません。


「え?こんなに持たなければいけないの?」となってしまったかも。
だからといって、諦めないでね。
上記は「ガイド」としての装備です。

あくまで自身の活動に必要なものを持っていくのが重要だから。
だって必要ないものを持って疲労困憊しては、元も子もないよね。

なので、これから「なんでこのキット内容なの?」を説明してみるので、
「自分に必要か」を考えながら御覧ください。


夏と冬、それぞれのリスク

を洗い出してみた。


夏〜登山、渓流釣り、山菜採り

・転倒
・滑落
・落枝、落石
・熱中症
・(天気が悪く濡れて風が吹くと夏でも)低体温症
・溺水
・クマに襲われて重症
・虫刺され、草のかぶれ
・毒草、毒キノコの摂取


冬〜雪山、アイスフィッシング、雪遊び

・低体温症
・凍傷
・転倒、滑落
・スキーやソリ滑りによる接触
・落雪、落枝
・雪崩


年間共通

・疾病
・落雷
・熱傷
・アレルギー反応


想定できるのは、だいたいこんな感じだろうか。
それによる問題と可能な処置って何だと思います?


夏〜登山、渓流釣り、山菜採りのリスクとその対応

転倒 →ケガ(骨や筋肉)、傷(皮膚の出血等) →固定や消毒、止血
滑落 →同上
落枝、落石 →同上
熱中症 →冷やす、給水、エネルギー補給
・(天気が悪く濡れて風が吹くと夏でも)低体温症 →保温、保護、水分とエネルギー補給
溺水 →呼吸停止 →心肺蘇生
クマに襲われて重症 →ケガ、傷 →固定や消毒、止血
虫刺され、草のかぶれ →かゆみ、アナフィラキシーショック →洗浄、薬の処置、エピペン
毒草、毒キノコの摂取 →食中毒 →吐かせる、給水で毒を薄める


冬〜雪山、アイスフィッシング、雪遊びでのリスクとその対応

低体温症 →軽度なら保温
凍傷 →軽度なら保温
転倒、滑落 →ケガや傷 →固定や止血消毒
スキーやソリ滑りによる接触 →同上
落雪、落枝 →同上
雪崩 →窒息、低体温症、ケガ →低体温保護、およびケガの処置、心肺蘇生


年間共通

病気 →症状に応じて可能な薬
落雷 →心肺蘇生
熱傷 →冷やして保護
アレルギー反応 →薬の塗布、薬の服用、エピペン


っていう感じかな。

一般的な野外活動では不慮の事故によるケガ・傷が圧倒的に多いのではなかろうか。
となると、ケガ(骨や筋肉)の固定、傷(皮膚の出血)の手当の準備をしっかりと。
あとは可能な範囲で常備薬の用意
が、現実的かと。

怖いのは
・ケガや傷による『脳損傷』『大出血』
・心臓発作や脳梗塞など死に至る深刻な病気
・アナフィラキシーショック

これらに関してはごめんなさい。
現場でできることは限られていて、保護(止血、安静、保温、気道の確保)をして一刻も早く救助を呼ぶことだけ。

ここで大事なのが保温。
出血や脱水(下痢や嘔吐なども)により夏場でも体温を維持できなくなって深刻な状況になり得ます。
季節問わず、生命に関わる状況で命を繋ぐためには保温が重要です。


体を覆う順番は①冷たい地面から体温を奪われる伝導を防ぐマット等 ②体温は常に発されるため放射を防ぐエマージェンシーシート ③体温を保つ防寒着 ④風や水が動くことで熱が奪われる対流を防ぐ防水シート 番外編としてそもそも濡れていると気化で熱が奪われるので、乾いた服に変えるか無いなら脱いだほうがましな場合もある。


以下の危険に関してはできる限りの予防をしましょう。

・転倒、滑落
危ないところは気をつける、ロープを使う。

・熱中症
暑くて具合が悪くなってきたら日陰で休む。
塩分と水分、カロリーの補給。

・低体温、凍傷
寒くなってきたら予備の防寒着を着用。
汗をかく前に衣類調整。
濡れたものを着続けない。
雪山で手袋が駄目になるのは凍傷まっしぐらなので、手袋の予備は必須。

・毒の摂取
自信のないものは食べない。
もし食べたり、(毒虫や毒草など)刺さったり触れれたりしたら、水を飲んだりしっかり洗い流すなど毒物を薄める努力をする。

・熱傷
気をつける。
十分すぎるくらい流水で冷やし、ワセリンとガーゼで保護。冷えピタもありかも。

特別な準備がなくても、防げることです。


といった危険を想定して準備したのが、みちくさのファーストエイドキットです。

急な病気はどうしようもありませんが、事故は防げるもの。
それでも起きてしまうのが事故だけれども、
しっかり備えておくことで得られる『安心』から行動にも余裕が生まれ、予防にも繋がってくると考えます。

ただし、非常装備をたくさん持てば良いわけではありません。
上記はガイド装備なので、これだけの用意は準備も背負うのも大変でしょう。
皆さんの活動範囲、そして持てる量と相談の上で納得できるファーストエイドキットを作るきっかけになれば幸いです。


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